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「ダンゾってなんや?」


ワイの何気ない問いかけに、レオンが首をひねる。


「何って言われても、ダンゾはダンゾだって。なぁ、リリィ?」


レオンがリリィに話を振る。キッズたちの相手が一段落したリリィは、こっちに来た。ケイナも一緒や。リリィは軽く息をついて、じろりとレオンを見る。


「レオン、あんたの記憶力は相変わらず残念ね」


「……ああん? おいおい、誰が馬鹿だって?」


レオンがムッとした表情を見せるが、リリィは肩をすくめるだけだった。


「馬鹿とまでは言ってないけど……。あんたが言ってるのは、お団子のことでしょ? 東方の街で食べたことがあるわ」


「ああ、それだ! ダンゴ――団子だ!」


リリィの言葉を得て、レオンがようやく納得したように手を打つ。ワイはそのやりとりを聞きながら、ふと考え込んだ。


「団子か。そういや、そんな料理もあったか――」


呟いた瞬間、ワイの脳内で何かが弾けた。あの感覚や。


「ふっふっふ……」


ワイの口元が勝手に緩む。期待感でソワソワしてまう。


「あん? 急にニヤけて、どうした?」


レオンが訝しげにワイを見る。リリィも、少し引き気味に眉をひそめた。


「ちょっと気持ち悪いわよ、ナージェ」


「体調が悪いの? 昨日の今日だし、ナージェさん、休んどく?」


ケイナが心配そうに覗き込んでくるが、ワイは無視した。ええか? これを見てからも同じことが言えるか?


「――【団子】!」


ワイは宴会場の大皿に手をかざす。瞬間、皿の上にふわりと湯気が立ち上り、色とりどりの団子がずらりと並んだ。串に刺さった団子、四つ並んだ団子、蜜が塗られた団子、ふわっと香る餡がのった団子――まるで、そこにあるのが当たり前のように、美しく整っていた。


「えっ!?」


ケイナが目を丸くする。


「おいおい、こんなことまでできるのかよ……」


レオンの声がわずかに震え、リリィは団子を握る手を止めたまま、唖然としている。


「またなの? と、とんでもないわね……」


レオンとリリィの驚愕は当然やろな。ワイの新たな能力の初披露やし。今回の産物は、リンゴやマンゴーの時とはまた少し違う。原材料は餅米っちゅう穀物やったか? それを加工して作り出したんがこの団子や。腹持ちもええし、甘みもほどよく、食うたら満足感がある……はずや。


これは商売にできるんちゃうか? 東方の街では馴染みのあるもんらしいが、この街ではまだそこまで広まっとらん。せやけど、ワイのスキルがあれば話は別や。大量生産もできるし、上手く広めれば相当な儲けになるかもしれん。ワイのスキル、飯の種としての可能性は無限大やな。


「さて、早速実食や。――うん、美味いでこれは!」


スキルで生み出した食いもんの安全性は、ワイ自身が確かめるしかない。慎重に口に入れるが――うん、これはええ! もっちりとした歯ごたえに、優しい甘み。リンゴやマンゴーのジューシーな果汁とはまた違う、素朴やけど深い味わいが広がる。いや、これは売れるわ。


「ケイナも食ってみぃ!」


「うん!」


ケイナの顔がパッと明るくなり、小さな手で団子を掴むと、すぐさま口に運んだ。


「おいしーい!」


その言葉を聞いて、レオンとリリィもつられるように団子を手に取る。過去のわだかまりが消えた今、遠慮なんていらん。ええ感じの反応やな。


ワイは満足感と共に、団子を味わう。やがて、静かな違和感を覚えた。


「……ん?」


気づけば、少し離れた場所からじっとこちらを見つめる影があった。


「「じー……」」


スラム街のキッズたちや。リンゴやマンゴーを腹いっぱい食わしたはずやが、それでもまだ興味津々の顔をしとる。いや、違うな。ワイらが美味そうに食べとるもんやから、つい気になったんやろ。


――しゃーないな。


ワイは腕を組んでキッズたちを見据える。


「何を見とんねん。ガキ共」


「あっ。ご、ごめんなさ――」


慌てて視線を逸らそうとするガキども。しかし、その声を遮るように、ワイはニヤリと口角を上げて言った。


「今日は宴会や。お前らも、好きなだけ食えや」


焚き火の赤々とした炎が、夜の静寂を照らし出す。薪がはぜる音が心地よく響くなか、ワイの声が宴会場に響いた。


「えっ!? 食べていいのか!?」


目を輝かせたキッズたちが、期待に満ちた表情でこちらを見上げる。そらそうやろな。スラムでの生活は過酷やし、腹いっぱい食える機会なんて、そうあるもんやない。


「おう、たくさん食べろや」


その一言で、キッズたちは歓声を上げ、勢いよく団子に群がった。手のひらに握られた白くてまんまるな団子が、次々と口の中へと消えていく。その様子を見てると、こっちまで嬉しなるわ。頬張るたびに表情を緩ませ、幸せそうに笑う姿。ええな、こういうの。


リンゴとマンゴーに加えて団子も量産できるようになった今、食料の心配はほぼなくなった。この調子なら、キッズたちを丸ごと果樹園に雇うんもアリかもしれへん。いや、今のままスラム街から簡易的な見張りを続けてもらうのもええか……。どっちがええやろな。ま、焦る必要はない。じっくり考えればええ話や。


そんなことを考えていると、不意に静かな声が夜の空気を震わせた。


「……こうやって食べるの、いいわね」


リリィや。炎の光を受けて揺れる彼女の横顔には、どこか懐かしむような表情が浮かんでいる。炎のゆらめきに合わせるように、彼女の睫毛の影が頬をかすかに揺れた。


「せやろ? 戦いばっかりやったら疲れるしな」


ワイがそう返すと、リリィは静かに頷いた。焚き火のぱちぱちと爆ぜる音が、微かな沈黙を満たす。隣のレオンも、手に持った団子の串を軽く揺らしながら、ぼそりと口を開く。


「……こういう時間、大切にしねぇとな」


焚き火の明かりが彼の瞳に映り込み、ちらちらと光を帯びる。普段は荒っぽい顔をしとる彼も、今だけは肩の力が抜けたように穏やかや。闇の中で、炎の明滅が彼の輪郭を淡く照らし、息遣いすらも静かに感じられる。こういう時間、ほんま貴重やな。


その隣で、ケイナが焼きリンゴを頬張りながらふと夜空を仰いだ。


「……またやりたいね、こういうの」


ぽつりとした呟き。甘い果実の香りがふわりと漂う。


「せやな」


ワイも果実をかじりながら、ゆっくりと空を見上げた。


パーティーを追放され、流れ着いたこの街でリンゴ栽培を始めて……いろいろあったけど、悪いことばかりやない。暖かな火と、笑い合える仲間と、腹いっぱいの飯。


焚き火の火が小さく弾け、夜の静けさに溶けていく。


風が木々を揺らし、甘い焼きリンゴの香りがふわりと舞う。


「ワイの【ンゴ】スキルの活躍は、まだまだ始まったばかりやで」


誰に言うでもなく、そっと呟く。


夜空に瞬く星々が、それを聞いとるような気がした。




――第一章、完。

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