大森さんはその後公式ページに結婚を報告をして
次の日には婚姻届にサインして市役所に出した
ストーカー被害のこともあってか
大森さんと私はそのまま別のマンションへ引越し
そのままの流れで同棲する形に落ち着いた
「これから僕も鈴さんも大森ですから、僕のことは名前でお好きなように呼んでください」
そう言って笑いながら言う大森さんの顔は
どこかやつれていて疲れていた
メイクではどうにも隠せそうにない濃い隈が
天井の電気の光に影で隠れて分からなくなるのが
なんだか少し苦しくなった
「ただいま〜………」
遠くの部屋から「おかえりー」と聞こえてくる
引っ越したとしても大森さんの生活は変わらない
いつも大体制作部屋にひきこもったまま
会えるのは私の仕事が遅くなって帰ってきた時と
たまたま大森さんの仕事が遅い日の朝
「おかえりなさい、お疲れ様です」
「元貴さんもお疲れ様です、何か食べたいのありますか?」
「わぁ……なんだろ」
「今日パスタが安売りしてて、パスタお好きですか?」
「好きです、だいすき。特にトマトパスタ」
「……トマト缶あったかな」
そう言いながら壁にかけてあったエプロンをつける
トマト缶を探す私を見て大森さんは嬉しそうに笑って
そのままお風呂場へと早足で駆けていった
「え……すごく美味しい」
「ほんとですか?ありがとうございます」
「本当においしい……え、これ毎日食べられるってどんな幸せ……?」
「……朝も作りましょうか?」
「作って、絶対食べるから」
嬉しそうにしながら口に料理を運んで
もぐもぐと食べる元貴さんが可愛らしい
家の事や家事は全般私の仕事
何故かと言うとこのマンションの部屋は大森さんの名義で
借りているものだから
もちろん家賃も大森さん
家事や家のことをするのは、私なりの
せめてものお返し
されでばっかりでは気を使わせてしまうから
「今日、スタッフさんが差し入れで焼き菓子をくれたんですけど、本当に美味してくて。どこのか聞いてきたので、また買ってきますね 」
「困ったこととかないですか?必要なものがあれば用意するんで、なんでも言ってくださいね」
「今度新曲が出来上がるんですけど……一番最初に聞いてくれますか?感想ききたくて……」
ご飯中の大森さんはよく喋る
それはそれはよく喋る
仕事場での嬉しかったことやその日の出来事
スタッフさんとの思い出話だとか
はたまた今度はどこぞの局のテレビに出るだとか
CDTVにまた出演して演奏するだとか
とにかく沢山喋って多くのことを教えてくれる
幼稚園の子供が母親に報告するような
そんな感じ
偽装結婚なのだから、そんな無理に
会話をしなくてもいいのに
普通に大人2人、恋愛感情も何も無い
だからこそ普通に接すればいい
なのに、大森さんはどんな時でも夫婦のように
自分の時間を割いてまで一緒にご飯を食べようとしてくれるし
その時になればこうやってたくさんのことを話してくれる
だから自然と食卓は明るくなっていった
「明日の夕食、何がいいですか?」
「んー……和食がいいかも」
「わかりました」
「でも、その日僕遅くなりますよ?」
「はい、しってます。でも作っておかなきゃ元貴さんコンビニで済ませるでしょう?体壊しますよ」
「バレてるのか……抜け目ないですね」
クスクスと楽しそうに笑う大森さんの顔は
今まで見た事ないぐらい幸せそうで
ひとりが嫌いな人なのかなとか、寂しがり屋なのかなとか
そんなふうに考えて見ていた
コメント
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朝からこんな2話も見ちゃって幸せすぎる🥹🥹続きも楽しみにします😉😉
偽装結婚!ここからどんな展開になるのかワクワクドキドキです🥰