「なぁ、ローレン。俺って、自殺ちゃうよな」
「ちげぇよ、馬鹿」
「んは、そぉよな」
その日は、雲一つない晴天だった。
「こんだけ暖かいと眠くなんなー」
春になり、花粉症のライバーが鼻をすすっているのが日常になって、心配の声すらかけなくなった頃。ぽかぽかと暖かく、お昼ご飯を食べた後だったこともあり、ふぁっ〜と、欠伸をして事務所の廊下を歩いていた。
喫煙所を目指していた足取りがふと止まる。
「え、清掃中マ?」
喫煙所の清掃中って初めて見たな。いやでもそりゃそうか。掃除しないとあんなとこすーぐ汚れるに決まってるしな。え、どうしよ。
あー、そうだ。
「屋上行ってみっか」
一応マネに連絡しとくかー。
マネに連絡をしながら次々と階段を登っていく。普段ならエレベーターを使うところだが、誰でも月に一度はあるであろう気まぐれで、運動がてらにと階段を使ったのが間違いだった。
俺にそんな体力あるわけねぇー!!あー、やめたやめた。エレベーター使お。
4階まで来てリタイア。エレベーターを使うことにした。
俺マジだっせぇ。一人でよかった。葛葉、レオスあたりが一緒だったら終わってたな。
お目当ての最上階に着き、エレベーターを降りる。屋上に繋がる最後の階段を目指して廊下を歩き、ほとんど使われていないフリースペースを通り過ぎようとしたときだった。横目に人がいるのに遅れて気づいて、ビクッと後ずさってしまった。
そこにいたのは、普通なら見慣れることのない銀髪にピンクと紫のメッシュをいれた派手髪の彼。
「は…?」
あまりにもその光景が馴染んでいて一瞬気づかなかった。彼は、湊は、窓の縁に座っていた。それも足はこちらではなく、外にブラブラと揺れている。
「っ…湊!!」
こいつが何をしようとしているのか、後ろ姿を見ただけでわかってしまったことが悔しい。気づけば俺は、今までで一位二位を争うくらいの大声をあげていた。動機と冷や汗が止まらない。頭から血の気が引いていくのがわかる。
「んぇっ!?な、なんだロレかぁ〜。ビビったぁ、んはは。久しぶりに名前で呼んでくれて嬉しいわ」
「あ?何、言って……っ…何やってんだ!!ばか!!早くこっち来い!!」
「んは、顔こっわ!」
いつものようにふわふわな呂律で、ヘラヘラと愛想を振りまく何ら変わらない姿に、こちらがおかしいのではないかと思わされる。
「も、いーから!がちで危ねぇって!!」
「んー、んふ。心配してくれてんの?慌てちゃってかわええなぁ、ロレ」
「!?っ…ぁ、あんたマジ、でっ…くそっ…」
困惑と心配、怒り。何よりこんなになるまで湊の異変に気づかなかったことが悔しくて。何も言ってくれなかったのが寂しくて。俺の許容範囲をとうに超している頭が、正解を選ぶことなんてできるはずもなかった。
「みんな俺が死んだら泣くやろーなぁ。ちょっと淋しいからさ、お前だけは、何してんのって俺のこと笑っててよ」
「っ…俺の話聞けよ!!悩みでも愚痴でも、後でいくらでも聞いてやるから!!」
「……ローレン、ありがとぉ。でも、大丈夫やで」
「っ!?待って!!湊っ!!!」
伸ばした手が、彼に触れることはなかった。怖くて、そんな簡単に受け入れられなくて、彼がこんなことをするなんて微塵も思っていなかったから、窓から見下ろして、彼の姿を確認することなんか、俺にはできなかった。
下にいた通行人が救急車を呼んでくれたうえに、すぐに手術を受けられたことで、何とか一命を取り留めた湊。だが目を覚ましたのは、あの日から2週間経った、あの日のような晴天で
あの日の、
あの日と同じ今にも飛び降りられそうな窓のついた、病室だった。
目を覚ました湊は、自殺前の記憶が抜け落ちていた。都合が良いのか悪いのか、こんな時まで本当にこの人らしいな、なんてその時やっと肩の力が抜けた。
湊が飛び降り自殺をしたことを見ていたのも、知っているのも、俺だけ。だから俺は、あれは事故だったと、そう証言した。
こちらが以前どこかで下書きに眠らせているといった不穏ものです。歓迎してくれる方もいましたが、ちらほら苦手な方もいるようでしたので、少し内容を改変しながらあげていきます🙇🏻♀️
なるべく内容変えたくないのが本音です🫣
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