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「フッ、まぁいい。弟の面白い間抜け面も拝めた事だし、今回は大目に見てやろう」
「ま、間抜けって……」
「中々面白かったぞ? 仏像のように固まってるお前の顔」
「~~~ッ、悪趣味だよ。兄さんっ!」
ククッと喉を鳴らし、愉快そうに笑う兄をムッと睨み付ける。
なんだか上手くはめられたような気がしてならない。
「オ、オレッ……部屋に戻りますっ!」
気まずい空気に耐えられなくなったのか、東海が後は任せたとばかりにそそくさと部屋を出て行く。
「あっ、ちょっ……ナギを置いて逃げるなんて酷くない?」
あまりにもショックだったのかさっきから黙って背を向けたままのナギの姿を兄から遮るようにして、蓮は彼の前に立つ。
「僕はナギを部屋まで送っていくから……」
「なんだ、このままそこに寝かせておけばいいだろう?」
「……っ絶対に嫌だ」
自分以外の男に大事な恋人がキスされていた事実だけでも腹が立つというのに、この状態のナギと3人で同じ部屋だなんて冗談じゃない。
「僕がナギと付き合い始めたの知ってたくせに……。わざとやっただろ」
「……思い人と間違えたと言わなかったか?」
「何言ってるんだ」
この部屋に元からいたのは自分と兄の二人だけだ。間違える要素が一体何処にあるというのだろう?
「ナギ、大丈夫? 立てる? とりあえず部屋に帰ろう」
「……うん、ごめん……」
シュンとして項垂れるナギに、蓮は優しく微笑むと手を差し伸べる。
「気にしなくて良いよ。……それより兄さん。ナギにキスした事、絶対に許さないから」
ナギを安心させるように頬を撫で、そっと抱きしめてからキッと兄を睨みつける。
すると凛は一瞬だけ目を丸くした後、愉快そうに口角を上げた。
その顔はまるで悪戯が成功した子供のようで、蓮の胸にムカッとした苛立ちを残す。
――やっぱりこの人は苦手だ。
そう心の中で吐き捨てるように思いながら、蓮はナギを連れて静かに部屋を後にした。
背後で聞こえた兄の低い笑い声が、しばらく耳から離れなかった。
「――少し、外の風にでも当たろうか」
早朝の静かな廊下を歩きながら、未だに俯いたままのナギを元気づけようと蓮がそう提案すれば、ナギは無言のままコクリと首を縦に振った。
そっと腰を引き寄せ広いホールを抜けて中庭へと出ると、朝靄のかかった幻想的な風景が視界に飛び込んでくる。まだ明け切れていない空は、薄紫色に染まり、ひんやりとした風が肌を掠めていく。
「やっぱ、寒いな」
「そりゃそうだよ。冬だもん」
身も蓋もない返答が返って来て、思わず苦笑する。ナギらしいと言えばナギらしくて、何となくホッとする。
しばらく無言で景色を眺めていると、不意に指先に温かい何かが触れた。最初はそれがなんなのかわからなかったが、すぐにナギの手だと気づく。
そっと握り返してやると何処か嬉しそうに指を絡めてきて同時にコツンと肩に頭が乗せられる。
「……ねぇ、ここ……誰も居ないよ?」
甘えるような声音で囁かれればドキリと心臓が大きく跳ね上がる。魅惑的な瞳に捉えられて目が離せない。
「誘ってるのかい?」
「っ……! 違う……けど……お兄さんがしたいなら、俺は別に……その……」
しどろもどろになりながら顔を真っ赤にしてそんな可愛いことを言うナギが愛おしく思えて堪らず強く抱きしめればそろそろと腕を回して抱きしめ返してくれるのが嬉しい。
猫っ毛の柔らかな髪にそっと唇を落とし、薄く開いた唇を指でなぞる。
「ん……っ、しないの?」
「して欲しいのかい?」
「……いじわる」
恥ずかしそうに視線を逸らしながら拗ねた口調でそんな事を言うナギが可愛くて仕方がない。