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『甘いもんは苦手、でも君のためやったら別腹』
「……よし、始めるで。ガトーショコラや」
僕はキッチンに立って、気合い入れた声を出した。
目の前に並んだ材料は、チョコレート、バター、砂糖、卵、小麦粉、ココアパウダー。──完璧や。レシピも、スマホの画面にちゃんと出してある。
ただし問題は一つ。
「……これ、“チョコ刻む”ってさ、けっこう大変やねんな……」
「せやろ?」
後ろから聞こえてきた低い声に、僕は肩をすくめた。
振り返れば、椅子に座った悠佑が、肘つきながらこっちを見とる。
「俺、この前クッキー作った時、包丁折れるか思たもん」
「包丁折れるほど硬ないやろ!」
「いや、心が折れるって意味や」
「そっちかい!」
僕は笑いながら、板チョコを刻み続ける。チョコが飛ぶし、手がベタつくし、なかなかに戦いや。けど、頑張れる理由はちゃんとある。
──それは、今日が悠佑の誕生日やから。
「ほんで、そんなん作るんはええけど……お前、ガトーショコラ食えんの?」
「……いや、甘いもんは得意やないけどな」
「やのに作るんか」
「せや、悠くんに食べてほしいからや」
「……は?」
「いや、聞こえてるくせに“は?”言うのやめて?」
「いや、なんかその……照れるやろが、そんなん……」
チョコとバターを湯せんで溶かしながら、僕は内心めっちゃドキドキしてた。
料理は好きやけど、お菓子は苦手。分量も手順も細かいし、やり直しがきかへん。
でもな、不器用でもええねん。心込めて作ったら、きっと伝わる。
「……あ、卵、割んのミスった」
「はやない!? もう手順崩壊しかけてるやん」
「ちゃうちゃう、黄身は無事や! ちょっと殻が……うん……ちょっと入っただけや!」
「それ入ってたらクランチやで? 新食感なだけやで?」
「やめて……リアルなツッコミ刺さるわ……」
なんとか殻を取り除き、生地を混ぜて型に流し込む。
「……なあ、悠くん。もしこれ、失敗しても笑ってくれる?」
「笑うかどうかは……味次第やな」
「うわー、プレッシャーエグいって!」
けどそんな悠くんの笑い声が、ちょっと嬉しかった。
なんやかんやで、こうして笑ってくれる相手がおるから、僕はチャレンジできるんやと思う。
オーブンに生地を入れ、焼き時間をセット。
キッチンタイマーのカチカチって音が、妙に心臓とシンクロしてる気がした。
──30分後。
「……焼けた、と思う。いけるかな」
「見た目はええやん。焦げてもないし」
「せやろ? ほら、粉砂糖もぱらぱらっとな」
仕上げに粉砂糖を振って、ナイフで切る。
断面もふわっとしてて、チョコの香りがしっかり漂ってる。これは……いけるんちゃうか?
「はい、どうぞ。お誕生日、おめでとう」
「……おう。いただきます」
悠くんは一口食べて──一瞬止まった。
「……ど、どや?」
「……うまい。普通に、めっちゃうまい」
「ほんまに!?」
「甘すぎへんし、しっとりしてて、なんやろ……その、……ありがとうな」
「……うちの家系、甘いもん苦手やけど……お前が作ったんは、別腹やったわ」
「それ、うちの家系に伝統として残そか?」
「やめとけ。ハードル上がるだけや」
僕らはそのまま、2人でガトーショコラを分け合って食べた。
甘くて、ちょっとほろ苦くて、けど不思議とあったかい。
──たぶんそれは、チョコの味やなくて、気持ちの味なんやと思う
コメント
9件
...推しのガトーショコラか...食いたい...((( てか白黒付き合ってくれ((((
ひゅーひゅー!!! 絶対付き合うやんこいつら((