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3 - 『甘いもんは苦手、でも君のためやったら別腹』

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2025年07月11日

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白黒





『甘いもんは苦手、でも君のためやったら別腹』


「……よし、始めるで。ガトーショコラや」


僕はキッチンに立って、気合い入れた声を出した。

目の前に並んだ材料は、チョコレート、バター、砂糖、卵、小麦粉、ココアパウダー。──完璧や。レシピも、スマホの画面にちゃんと出してある。


ただし問題は一つ。


「……これ、“チョコ刻む”ってさ、けっこう大変やねんな……」


「せやろ?」


後ろから聞こえてきた低い声に、僕は肩をすくめた。

振り返れば、椅子に座った悠佑が、肘つきながらこっちを見とる。


「俺、この前クッキー作った時、包丁折れるか思たもん」


「包丁折れるほど硬ないやろ!」


「いや、心が折れるって意味や」


「そっちかい!」


僕は笑いながら、板チョコを刻み続ける。チョコが飛ぶし、手がベタつくし、なかなかに戦いや。けど、頑張れる理由はちゃんとある。


──それは、今日が悠佑の誕生日やから。


「ほんで、そんなん作るんはええけど……お前、ガトーショコラ食えんの?」


「……いや、甘いもんは得意やないけどな」


「やのに作るんか」


「せや、悠くんに食べてほしいからや」


「……は?」


「いや、聞こえてるくせに“は?”言うのやめて?」


「いや、なんかその……照れるやろが、そんなん……」


チョコとバターを湯せんで溶かしながら、僕は内心めっちゃドキドキしてた。

料理は好きやけど、お菓子は苦手。分量も手順も細かいし、やり直しがきかへん。


でもな、不器用でもええねん。心込めて作ったら、きっと伝わる。


「……あ、卵、割んのミスった」


「はやない!? もう手順崩壊しかけてるやん」


「ちゃうちゃう、黄身は無事や! ちょっと殻が……うん……ちょっと入っただけや!」


「それ入ってたらクランチやで? 新食感なだけやで?」


「やめて……リアルなツッコミ刺さるわ……」


なんとか殻を取り除き、生地を混ぜて型に流し込む。


「……なあ、悠くん。もしこれ、失敗しても笑ってくれる?」


「笑うかどうかは……味次第やな」


「うわー、プレッシャーエグいって!」


けどそんな悠くんの笑い声が、ちょっと嬉しかった。

なんやかんやで、こうして笑ってくれる相手がおるから、僕はチャレンジできるんやと思う。


オーブンに生地を入れ、焼き時間をセット。

キッチンタイマーのカチカチって音が、妙に心臓とシンクロしてる気がした。


──30分後。


「……焼けた、と思う。いけるかな」


「見た目はええやん。焦げてもないし」


「せやろ? ほら、粉砂糖もぱらぱらっとな」


仕上げに粉砂糖を振って、ナイフで切る。

断面もふわっとしてて、チョコの香りがしっかり漂ってる。これは……いけるんちゃうか?


「はい、どうぞ。お誕生日、おめでとう」


「……おう。いただきます」


悠くんは一口食べて──一瞬止まった。


「……ど、どや?」


「……うまい。普通に、めっちゃうまい」


「ほんまに!?」


「甘すぎへんし、しっとりしてて、なんやろ……その、……ありがとうな」


「……うちの家系、甘いもん苦手やけど……お前が作ったんは、別腹やったわ」


「それ、うちの家系に伝統として残そか?」


「やめとけ。ハードル上がるだけや」


僕らはそのまま、2人でガトーショコラを分け合って食べた。

甘くて、ちょっとほろ苦くて、けど不思議とあったかい。


──たぶんそれは、チョコの味やなくて、気持ちの味なんやと思う




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