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僕はテレビの前のソファーに座りそのソファーの前のローテーブルに
まだ炭酸が弱くなった四ツ葉サイダーが少し残ったマグカップを置いた。
背後からはフライパンでなにかを炒めている音が聞こえる。
僕はスマホをポケットから取り出し電源を点け、通知がないかを見る。通知なし。
スマホをポケットにしまい、テレビを見ようと
ローテーブルに手を伸ばしリモコンを取ろうとする。
まるでマジシャンがテーブルに置かれた裏向きのカードを読み取るときのように
伸ばした手がローテーブルの端から端まで旅した。
旅した結果得られたのはそこにリモコンはないという事実だった。
僕は振り返り、ダイニングテーブルの上を見る。
するとそこにはテレビのリモコンとレコーダーのリモコンがあった。
僕は立ち上がりテレビとレコーダーのリモコン2つをそれぞれ両手に持ってソファーに帰る。
テレビのリモコンの赤く丸い電源ボタンを押す。テレビが点き、昼のバラエティ番組が流れた。
番組表のボタンを押し、今の時間なにがやっているか眺めた。
特に興味のある番組も好きな芸能人が出ている番組もなかったので
とりあえずそのままにした。録画されている番組を見るという手もあったがなんとなくやめた。
ボーっと見ているとあくびが出た。涙を右手の袖で拭う。
また眠くなってきたなぁ〜というところで
「できたよー」
という母の声と食器の音が聞こえた。目一杯伸びをしているとまたあくびが出た。
僕は立ち上がりながら、また右手の袖で涙を拭う。
キッチンへ向かい、僕と母の分のチャーハンの乗ったお皿を運ぶ。
「あ、ありがとねー」
という母の声に
「んー」
と返事をする。お皿を母の席と僕の席に置く。
その足でローテーブルに置き忘れたマグカップを取りに向かう。
マグカップを手に取り振り返ると母がスプーンを母と僕の席のお皿の手前に置いていた。
僕はそのままキッチンへ向かい冷蔵庫の前で
ほんの少し入っていた炭酸の弱くなった四ツ葉サイダーを一気に飲む。
空になったマグカップを水で軽く濯ぎ、冷蔵庫を開ける。
そして四ツ葉サイダーを出し、マグカップに注ぎ、元の位置に戻して冷蔵庫を閉めた。
さすがに先程の炭酸が弱くなった四ツ葉サイダーとは違い
注がれたばかりの四ツ葉サイダーの炭酸はフレッシュな若手ように飛び跳ねていた。
そしてテーブルに行こうとするとすでに母が食べ始めていた。
僕はマグカップを自分の席に置かれたチャーハンの乗ったお皿の右上のほうに置き
自分の席のイスを引き、座る。手を胸の前で合わせて小声で
「いただきます」
と言うと聞こえたらしく
「どーぞ」
と母が言う。僕はスプーンを手に取りチャーハンを掬い、口に入れる。
微かなニンニクの香りと卵の香り、そしてごま油の香りが口の中に広がり、鼻から抜ける。
一口食べたら、なおさらお腹が減るくらい美味しかった。
「結構美味しくできたね」
と母が自分で言い始めた。
「うん。美味しい」
と言いながら食べ、四ツ葉サイダーを飲み
それの繰り返しであっという間にお皿は空になった。
お皿の表面はごま油でテカテカしていた。
食べ始めは母のほうが早かったが食べ終わりはほぼ同時だった。
僕は手を合わせて今度は小声じゃなく
「ごちそうさまでした」
と普通の声量で言った。
「はい、どーも」
と言った後、母も
「ごちそうさまでした」
と言いお皿を持ち立ち上がる。僕もほぼ同時にお皿を持ち立ち上がり
キッチンへ向かおうとすると母が僕のお皿を持ち自分のお皿に重ねる。
「あ、ありがと」
と言い僕は空になったマグカップを持ち、キッチンへ向かい、母と背中合わせの状態で
空になったマグカップに四ツ葉サイダーを注ぎソファーに行った。
ローテーブルにマグカップを置き、ソファーに腰を下ろす。
するとソファーの柔らかな感覚が太ももから背中までを包む。
満腹感と春の心地良い気温で僕に睡魔という名の悪魔が手を伸ばしてくる。
その睡魔という悪魔はルックスも甘く、声も綺麗で、差し伸べられた手も細く長く美しく
このまま差し伸べられた睡魔という名前の悪魔の手をとって
その睡魔という名の悪魔に身を任せても良いかな。そう思ってしまう。頭の中ではもう母に
「今日休講になったから寝るわ~」
と言っている自分が容易に想像できた。
悪魔の瞳が綺麗で見ているだけで吸い込まれそうになる。
もうこのまま悪魔に身を委ねようと思いながらも半開きの目で何気にスマホの電源を点けた。
そんな魅惑の悪魔をも勝てない名前が通知の欄にあった。
妃馬さん。
半開きの目を見開き、あくびをし涙を拭う。
ソファーの上であぐらをかき前屈みでLIMEのアプリを開く。
姫冬ちゃんと俊くんからもメッセージが来ていてとりあえずその2人に返信をした。
そして妃馬さんのトーク画面を開く。
「一緒ですねw」
「私も楽しみです。今日、講義の後にでも買いに行こうかな?なんて考えてます」
その後に猫が悩んでいるスタンプが送られていた。僕は少し考えて
「まぁアルコールも入ってましたし
そこにいつもない行事だから、そりゃベッドに寝転んだら秒ですよw」
「妃馬さん今日の講義ってなんですか?」
そう聞いてみた。
その後にフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
睡魔という悪魔は「えぇ?」という顔をし、去って行った。
スマホをローテーブルに置き、テレビを見ながら四ツ葉サイダーを飲んでいた。
5分もしないうちにLIMEの通知で画面が光った。
すぐにスマホを手に取り、ロックを解き妃馬さんとのトーク画面を開く。
「たしかにw私アルコール弱いのかな。」
「えぇーと鉱物の講義ですね」
その後に猫がなにか光るものを見つけたスタンプが送られていた。
心の中で「よっしゃ」と思った。心の中の住人はハイタッチしたり、抱き合ったりしていた。
僕はそのメッセージに返信し、スマホをポケットに入れて自分の部屋に戻った。
僕はパーカーを脱ぎ、パーカーの下に着ていたTシャツも脱ぎ、ベッドに投げる。
タンスの引き出しを開き、テキトーなTシャツを取り、引き出しを閉め、Tシャツを着る。
その引き出しの上部にハンガーをかける部分があり
そこにかかっている薄手のパーカーを取って着る。
ポケットからスマホを出し、テーブルに置く。
下のスウェットパンツを脱ぎ、昨日履いたジーンズより色の濃いジーンズを履く。
パーカーの弛みを整えフードも少し整える。
ファーストピアスを取り、テーブルにあるピアスが入ったケースを開き
前日着けていた星のチャームがぶら下がっているピアスを出す。
そのピアスを鏡も見ずに手先の感覚だけでピアスホールに入れる。
星が揺れる感覚が耳に伝わる。Tシャツの引き出しの横の引き出しを開き
下着のパンツの横に並んでいる靴下をテキトーに取り、引き出しを閉める。
くるぶしまでの靴下を立ったままフラミンゴのように片足ずつ、バランスを取りながら穿く。
バッグを取り、ピアスケースの隣に置いてあるスマホをポケットに入れ、リビングに戻る。
「あ、もう出るの?」
とイスに座っていた母がそう聞いてきた。僕はスマホの電源を入れ時刻を確認し
「いやもうちょっとしてから出る」
そう言ってからスマホをポケットにしまう。
そのままソファーに向かいバッグを置きソファーで寛ぐ。
テレビでは先程の昼のバラエティー番組が流れている。
先程とは違い、ジーンズを履いているため
少し足の動きが固くなり、なんだか少し足が落ち着かなかった。
足だけ寛げていなかったが、ソファーでしばらく寛いだ後、時間を確認すると1時37分。
ゆっくり行ってコンビニ寄ったりしたとして。
そんなことを考え、バッグを持ちソファーから立ち上がる。
「あ、もう出るの?」
先程も聞いた母の台詞に
「うん。出る」
と先程とは違う回答をする。そして玄関へ向かうと背後から母がついてくる。
その母に背を向けたまま靴を履く。靴を履き終わり立ち上がると
「いってらっしゃい」
と背後から母の声が聞こえる。僕は振り返り
「いってきます」
と言い、もう一度振り返りドアノブを下に動かし扉を開け、扉をゆっくり閉める。
扉の向こうに玄関、廊下、リビングが見え、その景色と母が扉の向こうに消えるのを見届ける。
ガッチャンという扉の閉まる音を聞き、駅への道を歩き出す。