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庭に小さな花が咲いていた 3SKM

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庭に小さな花が咲いていた 3SKM

1 - 庭に小さな花が咲いていた 3SKM

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2025年06月16日

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庭に小さな花が咲いていた。
「あれは小さいってか大きいだろ。」


そんなツッコミをさせる北見は何というか、お茶目な野郎だ。


「いやだって花自体はちっちゃいじゃん。」

「まあそうだけど。」

「魁星のせいで俺もロマンチストになっちゃったよ。」


北見がそうやって笑う。


「え、何々?魁星とうとう花育ててんの?」


何に興味を惹かれたのか、ネスが話に割り込んでくる。


「とうとうって何。花は北見が贈ってくれたの!」


すると彼はいつもの意地の悪い笑みを浮かべた。


「彼女に浮気がバレて参っちゃってる魁星を励ますのにですかぁ!そりゃいい友人を持ったもので〜。」

「違う浮気なんてしてないってば。」

「でも女性の胸を堪能してる写真が出回っちゃったんでしょ?」

「言い方きめぇ。」


流石に北見がそう吐き捨てた。


「違うって。あれは角度的にそう見えるだけであって、ほんとに何も無いんだってば。」


そう否定してもネスの嫌なニヤニヤは消えてくれない。

まあそんな事、今更期待もしてないけれど。


「そんで彼女にフラれた魁星を励まそうと贈ったカルミアがもうちっちゃい花を咲かせてたんだよ!昨日魁星の家見に行ったら、庭に綺麗に飾られてて!ちょっと俺も嬉しかった。」


へへへと照れ笑いする北見が純粋で、少し俺の気持ちも晴れる。

彼が居てくれなかったら今頃俺は、落ち込んで大学にも来れていない。

しかしまたネスが腹の立つ事を言う。


「庭って。実家住みな事がバレて蛙化されたんじゃない?」

「東京じゃないんだから、実家住みくらいいっぱいいるだろ。実家住み女子が実家住み彼氏バカにするか?」


少しイラッとして乱暴な言い方になる。

それはネスの餌になって、彼を喜ばせた。


「やっぱ彼氏には一人暮らしでいて欲しいもんじゃないのかなぁ。ほら、お泊まりとか、もっと言えばにゃんにゃんしたりするのとか気遣わなくていいし」

「普通にキモい。」


俺はネスの話を遮ったが、また北見が出る。


「でも確かに魁星の場合は彼女に一人暮らしが良いって思われてそうだよな。魁星って結構妹と仲良いし、彼女だったらそこに嫉妬しそう。」

「いいからそんな話。」

「でもまぁそんな妹の影響を魁星越しに俺も受けてるんだけど。」


再び照れ笑いをして、俺の感情が行き場をなくす。


「花贈るってだいぶだよなぁ。その、何だっけ、アルミ、アル、」


とやっとネスから笑顔が消えてくれた。


「カルミア。」

「そうカルミア。」


北見の助け舟にネスが飛び乗る。


「カルミア知ってる?ちょっと待ってよ、」


そんなネスに俺はスマホでカルミアを検索をかけ画像を見せた。


「こういうの。これを北見が小さいって言うんだよ。」


ネスはそれを覗き込み、ぽろっと一言。


「北見どんだけデカいんだよ。」


思わず吹き出してしまう。

今度は北見が否定する番だった。


「違う違う、花自体は小さいじゃん?それのこと。」

「てかこれを魁星家に運んだの?」


ネスが目を丸くする。


「そう。どうしてもこれが良くって。」

「まあ確かに紫陽花に似てて華やかだけどさ、デカいでしょ。あ、花言葉?」


顔を上げたネスに北見が分かりやすくニヤつく。


「よくぞ気づいてくれました。そうなんです。こちら花言葉、大きな希望となっております!」


そしてひとりでに拍手をする。

俺も届いて一番に花言葉を調べた。


「北見も魁星色に染まってくねぇ。」


ネスは俺のスマホでまだカルミアを見ているようだ。

手に持って指を動かしている。


「もって何だよ。他意がありそうで嫌だわ。その言い方自体キモいけど。」

「どっちかって言うと魁星の妹色に染まってんだよな。」

「北見お前っ!」

「えっ、違っ、変な意味じゃないって!」


取っ組み合う俺と北見を他所にネスが吹き出す。


「優美な女性、にぎやな家庭、って、彼女にフラれた事と実家住みな事いじってない?」


ネスの言った二つの言葉はカルミアの花言葉だ。


「北見お前こうなる事を予想してたな!」

「魁星落ち着いて!彼女の事はともかく実家住みの会話は予想できないって!」

「彼女は確実だろ!」

「関係ないって!俺が思ってたのは大きな希望だけだよ!魁星も喜んでたじゃん!」

「お前がそんな人だとは思わなかった!」

「それか魁星の妹宛とか。」

「北見!」

「だから違うって!」


俺から逃れようとした北見は椅子ごと傾いて、思わず服を掴もうとした手を逆に北見に掴まれてしまい一緒に身体を打ちつけた。

ネスがそれを指差して笑う。


「あはははは!」

「いってぇ。」

「ごめんっ!魁星!」

「うはははは!」


魔王みたいに大笑いするネスがただただ五月蝿い。


「ごめんごめん、詰めすぎた。」


自分の行動を反省しながら北見に手を貸す。

彼を床から引き上げた。

改めて椅子に座り直す。


「彼女にフラれても俺らは友だちだぞっていう、それって魁星からしたら大きな希望だろ?」


それを自分で言うか?と北見のアホっぷりに顔が綻ぶ。


「つまり、俺らが大きな希望だよって意味で渡したって事?」


おかしな事を言って、ネスは笑った。


「そう。そういう事。」


至って真剣に北見が頷く。


「でもそれってほんとそうかも。」

「まあね。」


ネスが真面目な声色を滲ませて言うので、俺も照れ隠しはできなかった。


「だってさ、魁星からしたら写真撮って彼女に送った裏切りもんがいるわけでしょ?辛いねぇ。」


微塵もそんな同情を乗せずにネスが口角を上げた。

 実際、その通りだった。

厳密に言うと、俺達が緩くやっているテニス部のコミュニティでその写真を撮って回した犯人がいる。

俺も彼女もテニス部で、そして何よりこのコミュニティで出回っているんだから、部の人間である事はすぐに予想がついた。

しかし犯人探しなんかよりも先に、俺が疎外された。

浮気なんて最低。

学校でそんな事するなんて不純。

相手の子は誰なの?

思い思いの言葉をかけられて、俺は逃げるようにそのコミュニティから脱退した。

なんだかんだ、それについて来てくれたのが北見遊征と榊ネスだった。


「お前らがトイレとか行くから。」


俺は項垂れる。


「そんな事言われても、俺らがトイレ行ってる間に浮気するとは思わないじゃん。」

「だから、浮気じゃないって。」

「でも講義の後すぐ告白して来てんでしょ?」


北見がうーんと唸る横でネスがまた笑う。


「告白してきた子まで怪しいって?魁星からモテを取ったら何が残るの。北見、それは流石に酷いよ。」

「酷いのはお前な。別にモテるわけでもないし。」


俺が言うとネスが分かりやすく肩をすくめた。


「なーんかさ、告白するにしては雑くない?って。だって俺らがトイレ行ってる間だよ?俺らが帰ってきた時にはもう居なかったわけだし。」

「あの時の魁星の唖然とした顔と言ったら、ほんとに。」


ずっと引っかかっていた違和感を北見が言語化してくれて、俺はそれに乗っかった。


「それずっと思ってた。人の好意疑うのは悪いけど、変だと思ったのそれだ。」


するとネスがみたび吹き出す。


「人の好意を疑うのは悪いけどって、結構自信満々でこっちが恥ずかしいわ。」

「マージでウザい。」

「でもさでもさ、その子知らない子なんでしょ?誰なの?」


北見がそう訊いてくるが俺は首を横に振ることしかできない。


「マジで知らないんだよね。でもそんな悪い子に見えなかったんだよなぁ。大人しそうだったし。」

「急に胸触らせてくれる子が?」

「だからうぜぇって。手握られて寄せられただけで触れてないんだよ。」

「でも写真まで撮られてるし。たまたまって言葉で片付けられなくない?」


北見の意見に俺は激しく同意する。


「おまけに相手の後方から撮られてるしおかげで俺の顔しか映ってないし触ってるように見えるし!」


途端にベルが鳴った。

気づけばもう休憩時間が終わったらしい。


「やばっ、急げ!」


北見がそう言って荷物をまとめて走り出した。



————————————



「ただいまー。」


俺が玄関でそう呟くと、妹がぴょこんと顔を出した。


「おかえり。」

「ただいま。お出迎えしてくれるなんて珍しいね。なんか良いことでもあった?」


分かりやすく彼女の顔に笑みが浮かんでいる。


「お友だちがくれたカルミア、花咲いてた。」


昨日友人の家に泊まっていた妹はきっと今日帰ってきてからそれに気づいたのだろう。

それにしても花が咲いていたくらいでこの笑顔は、本当に癒される。


「マジ?俺も見よーっと。」

「めっちゃ可愛いよ。」


本当は昨日からだって知っていたけれど、妹の喜びに水を差すようなことは言わない。

俺はいつだってその笑顔の為にバカなふりをするのだ。


「そういえばさ、カルミアの花言葉って何?」


荷物をソファに置いて手を洗い、庭の方へ向かう。

妹がカルガモの赤ん坊のように後ろから付いてくるのが可愛らしい。

庭へ続く窓を開け、サンダルを履きそれに近づく。

白い花が開きとても可憐だ。


「大きな希望。優美な女性。これを贈ってくれるって、どんな意味が込められてるのかな。」


彼女が背後で首を傾げるのが分かった。

 大きな希望だってさ。

疎外された俺の未来を照らしてくれるって。

俺はカルミアに触れた。

花弁は思ったよりも柔らかかった。


「でも気をつけてね。カルミアは毒があって口に入れると最悪死んじゃうから。」





花言葉に、裏切りってあるくらいなんだからね。





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