母船でフェルと久しぶりにのんびり過ごした。具体的には一緒にソファーに座ってホロムービーを見たり、地球の有名な観光地を調べてみたり、植物園で過ごしたりした。最近バタバタしていたから、こうやって何も考えずに過ごすのもたまには良いかもね。 翌日、フィーレも落ち着いたみたいだから私達は再び地球へ降りることにした。ばっちゃんに任せてしまったし、ブリテンの皆さんにも急なことだったから迷惑をかけちゃった。ちゃんと謝らないとなぁ。
「それじゃあティナ、フィーレちゃん。手を繋いでください」
「分かった」
「ん」
私達は手を繋ぎ、そしてフェルと一緒に地球上へ転移した。目を開くとそこには聳え立つビッグ・ベンが……あれ?
そこにあるのは大きな大仏様。え?
「おいあれ!」
「ティナちゃん達じゃないか!」
「うそっ!本物!?」
「間違いない!だって急に現れたんだぞ!」
「あれが魔法!?初めてみた!」
「なんでここに!?」
「ニュースじゃブリテンに居るんじゃなかったっけ?」
周りから聞こえるのは懐かしい日本語。そしてこの大きな大仏様……見覚えがある!
「鎌倉の大仏様!?ここ日本じゃん!」
何で!?日本ナンデ!?私達はブリテンへ向かったんじゃないの!?
「失敗しちゃいました」
「許す」
フェルのてへぺろ☆可愛すぎて辛い。何でも許してしまえそうになるから不思議だ。
「なにこれ、石像?地球人ってこんなに大きかったの?」
「うーん、何と言うか信仰の対象みたいなものかなぁ」
「信仰、神様ってこと?」
「まあそんな感じだよ」
「ふーん……」
アードに宗教は……まあ自然信仰みたいなものはあるし、そもそもセレスティナ女王陛下が信仰の対象だからなぁ。日本風に言えば、現人神の考え方に近い。
「よく分かりましたね?ティナ」
「え?あっ、まあほら……地球の事は色々調べているからさ。フェルこそ、どうして間違えたの?」
「昨日調べている時に印象に残りまして。そちらのイメージが強かったんです。だから失敗しちゃって」
「それなら仕方ないかな」
転移魔法はイメージ力が重要だ。転移する先を強く想い描かないと失敗してしまう。昨日フェルは日本の事を熱心に調べていたから、失敗しても無理はない。
色々やらなきゃいけないことがあるけど、先ずは。
「取り敢えずお参りしよっか」
大仏様が目の前にあるんだ。手を合わせて地球の平和とアードとの友好を願った。フェルとフィーレも私の真似をして同じ様に手を合わせてお祈りしてくれた。皆が幸せになりますように。
ティナ達による突然の来日は、現地に居た観光客や現地住民がネット上に挙げたことで一気に世界中へ拡散された。
『ティナちゃん達が鎌倉に居るぞ!』
『大仏様に手を合わせてお祈りしてる!』
『アードにも手を合わせる文化があるのかな?』
『多分調べたんじゃないか?』
『わざわざ調べてくれるなんて』
『あれ?ブリテンに居るんじゃ無かったっけ?』
『政府の定例記者会見見てみろよ、記者に言われて官房長官が青ざめてるぞwww』
『これ知らなかったな?ww』
『まさか、事前連絡無しか!?w』
『悲報 ティナちゃんまたやらかす』
『いつもの事なんだよなぁ。ん?待て、ブリテンはどうなる?』
『やらかした直後に謝らなきゃいけない相手が他国入りwww』
『これ青ざめるなんて騒ぎじゃないだろww』
『この小さな女の子は?』
『合衆国で紹介されたリーフ人のフィーレちゃんだろ。確かメカニックだっけ?』
『へー、こんなに小さいのに』
『アード人やリーフ人は長命種らしいから、見た目通りとは限らないんじゃないか?』
『フェルちゃんと見た目が違うが』
『資料によると、リーフ人の羽根は一対で銀髪が普通らしい』
『え?じゃあ金髪で二対のフェルちゃんは…』
『……苦労してるんだろうなぁ』
『異星人にも差別はあるのかな?』
『あるんじゃないか?まあその分地球で楽しんでくれれば良いさ』
『お前ら呑気だな、どう見ても不法入国だろ。こんな奴らが来て喜ぶなんて気が知れないな』
『クサーイモン=ニフーターの信者が出たぞ』
『最近放送もないから暇なんじゃないか?』
『椎崎首相がティナちゃん達は自由に出入りして良いって言ったのを忘れたらしい』
『よく考えたら凄い決定だよな』
『それだけ信頼関係があるんだろう』
『フィーレちゃん可愛い、ペロペロしたい』
『通報した』
ネットは大いに盛り上がり、各メディアは挙って速報を流した。だが日本のあるメディアだけは何故か新種の植物発見の速報を流し。
『何かもう定例行事だな』
『ここまで来ると楽しみになってきたwww』
『新しいリーフ人が居るから植物速報かよww』
別の意味で大いに賑わせた。日本政府は直ちに事実確認を急ぐと共に、鎌倉へ警備の人員と政府の使者を早急に派遣する。同時に椎崎首相が再度の来日を歓迎する声明を出した。
その間ティナ達は現地の人々と交流し、鎌倉の大仏を満喫しつつ。
「江ノ電だぁあああっ!!!」
「エノデン?なんですか?呪文ですか?」
「あっ、いや。気にしないで」
江ノ島電鉄を見てティナが叫ぶ珍事が発生したが些細なことなので割愛する。
江ノ島電鉄に乗る異星人美少女三人と言う何ともレアな写真は続々と全世界に配信されて熱狂させていく。
そんな中、顔をひきつらせている国がある。そう、ブリテンである。ティナ達が戻り次第大々的に不始末の謝罪を行い、同時に友好関係をアピールすることを狙っていたが、当の本人達が日本へ行ってしまったので謝罪する機会を失ってしまった形である。
謝罪するだけではなく、それを利用して必ず許すであろうティナを取り込まんとする強かさを見せたが空回りに終わってしまった。
「あの国は強かだよ。流石は一時期地球の大半を支配していた大帝国の末裔だね。だからこそ、ティナちゃん達を長居させたら危ない。フェルちゃん、ファインプレーだよ☆」
政治を全面に押し出してくるブリテンの姿勢に危機感を覚えていたティリス。今でこそ失敗しているが、ブリテンがティナ相手の対応を正しく理解すれば、政治の素人であるティナは老獪なブリテン政府に良いように転がされるのは自明であった。
それ故にフェルの失敗を称賛しつつメリル、朝霧にティナ達が日本にいることを伝えて自身も転移で姿を消した。連邦領内を経由して日本へ向かうためである。
結局ティナのブリテン来訪は一定の成果を得られたものの、連邦の暗躍とブリテンの失策によって不完全燃焼に終わる。