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「ねえ、苦しくない?」

いままで何度もこの窓から浴びていた月の光が、彼女の輪郭を繊細に映し出した。

微風にふかれてはらはらと落ちた彼女の髪が私の頬をなでる。


「なんでこんなことをしてるの?」

「お姉さんは悪いひとだから」

いまいち答えになっていない返答にあきれているのを感じたのか、お姉さんは仕返しするように微笑む。

「私についてきた君も同類。悪いこと、しちゃうんだよ」

手首を荒く掴まれているような心地がした。


ほの暗い廊下を照らす月の光に、二人のあしあとを刻んでいく。

やがてお姉さんは少し錆びた薄い扉の前で止まった。

かすかに、ぎ、と音をたてて扉を開くと、小さな光をたたえて壁に貼り付けられた機械とたくさんの配線がのぞいた。

いわゆるブレーカーというやつだろうか。ちゃんと見るのは初めてだった。

がちゃん。

お姉さんがこれまでたてた音の中で一番大きい音だと思った。


「戻るの?」

「そうだよ」

「なんでこんなことをしてるの?」

「君が悪い子だから」

「これは悪いこと?」

「とても」


そうしてお姉さんは私の病室・・に戻った。

「それ、貸して?」

私がずっと押していた点滴。一瞥をくれてから、お姉さんに差し出す。

ぶちっ。

流れるべきチューブをなくした点滴の液が床を、私の足を、冷たく湿らせた。

お姉さんはそれに目もくれず、今度は私が寝ていたベッドに向かっていく。


ただ淡々と、するべき仕事をしているみたいに。


ぶちぶち。


そういえば私は、ブレーカーを見たのは初めてだったけれど、配線を見たのは初めてじゃないな。


ぶちぶち。


お姉さんは次々と配線を抜いていく。…ちぎるのほうが正しいのか。


*私を繋いでいた配線を。*・・・・・・・・・・


差し出されるままに、その花奢な手を握る。

「なんでこんなことをしてるの?」

「ひとさらいなんだ」

お姉さんが私の手を握り返して強く引いた。

そとへ。


踏み出した足が空を切った。



窓 / いおり

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