コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1誰かが呼んでいる
誰かが俺の名前をずっとずっと呼んでいる
その声に応じるように俺はゆっくり目を覚ました
「ツクモさん」
目の前にいたのは狸と書いてある布を巻いて顔を隠している男だった
なんでこんなところに人が?
人?
いや違う
ここには俺以外居ないはず
妖怪か?
それなら距離を置かなければそう思いベットから飛び跳ねて離れようとした瞬間だった
「待ってください!」
必死に止める声に思わず体が止まってしまった
「探している人がおるのです。お願いです。見える人間よ、私に力を貸してはくれませんか?
どうか。どうか。」
深々と頭を下げるその妖が俺の目にはどうしても悪いやつには見えなかった
どうしても助けを求める人に見えてしまったんだ
「どうゆう事だ?」
なんで俺にそんな願いをしたんだ
そう聞こうとした瞬間、突然モヤが現れてそこから妖の顔を掴むように手が伸びた
「誰だ?ツクモに手を出す気か?」
モヤから現れたのは間違いなくキウだった
「待ってくれ!キウ!こいつは悪いやつじゃない」
「いいのか?そう油断しているお前を食うつもりかもしれないぞ」
「大丈夫だ。だから離してくれ」
彼は納得はしなかったが渋々そいつの顔から手を離した
「探して欲しいって言ってたがあれはどうゆう事だ?」
「恋人を探して欲しいのです」
「恋人?」
「はい、1か月前までは毎日あっていたのですが、ある日からパタリと来なくなってしまって」
「逃げられたか」
「キウそんな事言わない」
だけどキウが言ってることが正しいだろう
逃げられたと言うよりか彼と別れたいと思ったから来なくなったという可能性の方が高いな
「別れるにしろ何にしろ、最後に話したいのです。どうか、お願いします」
もう一度深く頭を下げているそれの願いを無下にするのはどこか心が傷んだ
俺に恋人はいたことはないけれど本当に愛している人なら、一生を誓いたいと思える人だったなら最後ぐらいケジメをつけたい
そう思ってしまうのも分かる気がする
「それで、その妖怪と最後にあったのはいつ?」
「いえ、妖怪じゃないのです。我が愛してしまったのは人なのです」
「人…?」
俺以外にも見える人がいたのか?
血筋とか関係なく?
「その人は見えていたのか?」
「いえ、我が人に化けて居たのです」
「化ける?」
「玉藻前みたい物だな。妖怪が人に紛れるためにするものだ」
とキウが補足してくれた
ほんとうに昔話みたいなことをするんだな
人と妖怪の恋
しかも、多分その人は気付いていないのだろう
彼が妖怪であることに
「わかった、調べてみるよ」
「おい、つくも」
「本当ですか、ありがとうございます!」
その妖怪が顔は見えないけど嬉しそうに笑ったように見えて
少し安心した
ここに来て1度も笑ってくれていないような気がしたから
「じゃあ特徴を教えてくれるか?」
「それが」
その妖は急に言葉を詰まらせた
「いつも服装が違っているので上手く表せないのです。顔もこれといった特徴がないので」
「はぁ?!」
俺とキウの大声がマンション中に響く
「けど一つだけ。彼女はいつも綺麗な音が鳴る赤い鈴をいつも身につけていました」
「人さがしぃ?」
心底嫌そうに馬鹿らしそうにアスマさんは言った
「はい、」
「特徴は鈴だけ?しかも綺麗な音っていうことだけ?」
「はい…」
はぁとため息がつく彼はそれだけでもどこか絵になっていて
さすがモデルだなと関心してしまう
「なにか別のこと考えてないかい?」
「いえ!全く!」
それはそうと、と言って彼は彼に目を向けた
「守るとか言っておきながらこのザマかい?キウ」
キウの大きい耳がぴくりと動く
「追い返そうとしたらツクモが止めたからな」
「ツクモを守るのが君の役目でしょう?いいの?面倒事背負わせて」
「ツクモに影響が出たなら止めるが、俺はあくまでもツクモの考えを尊重したい」
「あぁ、そう」
「それに俺なら相手がどんなことをしてもツクモを守れるからな」
「はいはい、強い妖怪様は言うことが違いますねぇ」
「なんだ?喧嘩売ってるのか?陰陽師の末裔風情が」
彼の言動が癪に触ったのかキウはアスマさんの胸ぐらを掴んで顔を近づけた
「キウ!」
「ツクモは黙ってろ!」
相当イラついてるな、これ
「痛いから離してくれない?」
それを刺激するように強い言葉をアスマさんは投げかけた
そして、彼が胸ポケットから何かを取り出そうとした時だった
「そこのお二人さん止まりなね〜?」
祠の方から突然声がした
「ツクモも森のみんなも困ってるじゃーん」
そう行って現れたのはこの祠の持ち主
六花だった
「何しに来た?六花」
「何しに来たって、集まる時は集まるって約束でしょ?いつ何が起きてもいいようにって」
六花がそう返すと何も言えなくなったのか少し乱暴にアスマさんから手を離した
何とか落ち着いたようで思わず一息ついてしまう
俺一人だと絶対止められなかった
本当に俺と違って六花はすごいな。神様って言うだけある
「ツクモ」
「どうした?六花」
「人探ししてるって?」
「あぁ、そうだけど」
こうして六花にも事の経緯を話した
「えぇ〜?無理じゃなーい??そんなん」
「やっぱり断った方が良かったのかな」
本当は影から応援したかったのかもしれない。彼らの歪な形の恋愛を
いや、違うな
俺を頼ってきたあの妖怪の幸せそうな顔を見て、助けてやりたいって思ったんだ
けど、アスマさんや六花の言っていることは正しくて、自分の力で出来ないことを引き受けない方がいいよな
きっと断ることが正解なんだろう
「ごめん、六花、アスマさん。やっぱり俺断ってくるよ。ありがとう」
「待ってよ」
六花が俺の肩に触れた
それが妙に暖かくて、神様ってこんなに温もりを感じるものなのかと思ってしまう
「ツクモはどうしたいの?」
真剣な目で聞いてくるものだから思わず本音をこぼしてしまった
「合わせてあげたい」
どんな顔してそういえばいいか分からなくて俺の声は酷く震えている
きっと六花は危険な妖怪がいることも知っているからこそ止めてくれたのだろう。こんな俺の浅はかな思いなど聞かなくていいのに
六花はそんな俺を見て優しく微笑んでくれた
「せっかくだし、やるのもありじゃん?」
「けど」
「僕もいいと思うよ。ツクモ」
「アスマさん?」
「ずっとここにいるのも暇だしね、せっかく集まったんだ。何かするのもいいのかもしれない」
「アスマもこういってるんだ探してみようよ!」
「本当に、本当にいいんですか?」
「もちろん!」
2人の笑顔があまりにも眩しすぎて、あまりにも暖かく感じた
「それで、どう探すんだい?僕は人の声が聞こえないし六花もこの祠から離れることは無理だろう?」
「分身体を作ることぐらいはできるよ。めっちゃちびっ子のかわい子ちゃんだけどね」
「それで歩いて見つけられるわけなかろう」
「じゃ、どーすんだよ!キウ!」
「情報を集めるしか無かろうが」
「なるほど、じゃあ俺と六花で妖怪から、アスマさんとキウは人間から情報を集めてくれ」
「待て、お前とそのバカ神だと襲われたら大変だろ。私かアスマを連れてけ」
「そうだよ。大体僕はこの狐と一緒に行動なんてしたくないよ」
「そこをなんとか頼みます。アスマさん」
「キウ?僕は一応神様さ。神様に手を出す馬鹿な妖怪はいないだろ?特にここら一体はね」
キウとアスマさんは渋々納得したようで二手に別れることになった
妖怪は案外至る所にいて、六花の人脈を伝いながら綺麗な赤い鈴の音を聞いてないかと探し回った
「やっぱ無茶かなぁ」
「そう諦めなさんな!僕は祠から離れられて嬉しいよぉ、移動も楽だし」
六花の分身体はあまりにも小さすぎるので俺の胸ポケットに入ってもらうことにした
手に持ったらいつか潰してしまいそうだし
「それにそろそろ」
「え?」
目の前に白いモヤが現れる
「ほぉら来た」
そこから顔を覗かせたのはキウだった
「見つけたぞ」
「本当にあの人なんですか?」
彼らが見つけたと言った女性はどっからどう見ても高校生で、多分夏期講習か何かが終わったあとだろう。制服で滑らかな坂道をゆったり降りていっている
俺たちはちょうどその坂の下から隠れるように見ていた
「この女性がぁ?随分若いね」
「アスマの情報筋が当たっていればな」
「その情報筋信用できるんですか?」
俺にはとても最近まで恋愛していた人には見えない
妖怪と恋愛した後には見えないんだ
「彼女自身かは知らないけど、彼女の血縁者であることは間違いないよ」
「ちょっと、あやふやじゃん!!」
「大丈夫大丈夫、彼女に話しかけたらわかる事だから」
そう言って日影から出ていこうとする彼の手を引っ張る
「まさかあなたが行く気ですか?!」
「そうだけど、だってツクモ人見知りじゃん。あと2人は論外だし」
「その論外から言わせてもらいがお前が話しかけたらいよいよ如何わしい変人になるからやめとけ」
「どうゆうことだ?自己中心的な狐よ」
「ナンパに見えるんですよ!いいんですか?人気モデルがナンパ疑惑立てられても」
「それは困るな」
「だからここはツクモに任せろ」
「俺が話しかけてもじゃないか?変人なことに変わりはない」
「ふむ、確かにそうだな」
困ったと言いたげにキウは顎ら辺を触る
「じゃ、僕がおじいちゃんに化けて話しかけようか?」
「なんて聞く気だ?」
「綺麗な音をした赤い鈴を知らないかい?って」
「バカか!そんなこと一発で通報されるわ!」
「あのぉ」
突然後ろから声をかけられ冷や汗が流れる
ゆっくり後ろを振り向くとさっきの女の子がいた
いかにも不思議そうに
六花とキウと喧嘩していたアスマさんは気づいてないようで傍から見たら何も無い空間に文句を言っている
「アスマさん!」
「え」
その声で3人は気づいたようで同時に何故かみんな萎縮しまっていた
いや、六花とキウが萎縮するのは意味わからないけど
「なにか御用ですか?」
「えっと、狸と書いてあった布で顔を隠した男を知りませんか?」
3人は目を丸めた
六花はポケットの中でなんでそんな単細胞なんだ!と馬鹿にするしアスマさんは頭を抱えてるしキウに至っては終わったと言いたげな目でこちらを見ている
「もしかして、おばあさんの?」
「祖母?」
確かあの妖怪は1ヶ月会ってないって言ってたよな
まさか恋愛相手はこの人の祖母?
「きっと妖怪の感覚で言ったのだろう、一ヶ月と」
キウがそう言ってようやく理解する
つまり、彼にとっては一ヶ月だけどこの人にとっては何十年も昔のことなのか?
「はい、それは俺の祖父で会いたいと言ってて」
「そう、なんですか」
「残念ですが、祖母はもう」
その言葉だけで理解してしまった
その人はもう居ないことに
「祖母は言ってました。ずっと好きだった人が居たと、けど一緒には居れないと知ってしまったと」
「貴方の祖父はまだご健在ですか?」
「え、はい」
「ならコレをお渡し下さい」
彼女がカバンから出したのは1枚の封筒だった
「本当は祖母に頼まれていたんです、私が亡くなったらあの人に渡して欲しいって。だけど私何故か怖かったんです。ポストに入れようとしたらいつも手が震えて、今日は入れよう今日入れようそう思うにつれて入れれなくなっていて」
「その人が祖母を忘れていたらこの手紙は祖母の思いはどうなるの?って思って」
彼女の思いになんて答えればいいのか分からなかった
そして、もしそのポストに手紙を入れても彼に本当に届くのかも分からなかった
「大丈夫です。俺が必ず渡します、祖父は言ってました。愛してた人がいると別れを告げたかった人がいたと」
「俺の祖父もきっと貴方の祖母に別れを告げられなったことをずっとずっと悔やんでいたんです」
ありがとうございます
そう言って彼女は手紙を渡した
だいぶ古く見えるその手紙は何が書いてあったのだろうか
別れの言葉だろうか
彼女に別れを告げて来た道をもどる
「なんて言ってたんだい?彼女は」
「上手く言葉に表すとこはできませんけど、安心しているようでしたよ」
「へぇ、それまたなんで?」
「それは俺にも分かりません。人の心なんて思いなんてそう簡単に分かるものじゃないんです」
「ふぅん、そうかい」
アスマさんは不思議そうな顔をしてその手紙に目をやった
「君はそれで満足かい?」
「会わせることは出来なかったけど、別れの言葉も言わせられなかったけど」
「これでいいんだと思います。きっと」
「君の愛した人はもう亡くなっていたよ」
「そうですか、やはり人の一生は本当に短い」
「だけど、これを預かったんだ」
そう言って彼に手紙を渡す
彼は手で文字をなぞってゆっくりゆっくり読んで少し笑った
「ありがとう人間よ、やっとやっと彼女の思いを知ることが出来た」
「おかしな人だ、彼女はいつまでも素敵な女性だと言うのに」
そう言って満足したかのように彼は消えていった
「なんて書いてあったのかな」
「我々には関係ないな。さぁツクモ帰ろう」
「うん」
愛していました
愛しているから変わらない貴方に醜く汚くなっていく私を見せたくなかった
いつも若々しい貴方の隣にはずっと若い私のままでいたかった