テラーノベル
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雰囲気omr×fjsw
見切り発車もいいとこ
笑って許せる方のみどうぞ
ご挨拶がわりの、ぜろ
「うん?ねえ、何の話?」
多分、聞き返しちゃダメなやつ。と本能が警告を出しているけど、聞き返さずにはいられない。
楽屋で、人の出入りがちょうどぴたりとやんだ。室内には数人のスタッフさんと、マネージャーと、若井と僕と元貴。
僕の向かいで、机に両肘をついて自分の顔を支えて、ニコニコ笑顔の元貴が、突然謎の言葉を投げてきた。
聞きたくない言葉を聞いた、じゃなくて、本当に言ってる意味が分からなかっただけなんだけど。
聞き返しちゃダメなやつ、と思ってしまったのは、僕の横にいた若井が飲んでいたコーヒーを盛大に吹いたのと、マネージャーが、人払い!ってキレ気味に言って、スタッフさんが一人外に出て(多分見張り?)もう一人が若井の衣装を慌てて拭きに来て。
多分、一瞬にして、ワッと慌ただしくなったような、騒がしくなったような。そんな感じで空気が動いたから。
あーこれはきっと聞き返しちゃダメなやつ、と本能で。
げほ、ごほっと横で若井が、入っちゃダメなとこに入った!と顔を真っ赤にして咽ている。
大丈夫?と彼の身を案じたいところだけど、元貴がにこにこしながら目は笑ってないから、僕が今、若井の方へ気が向くと不穏な空気になることは厭でもわかる。
とりあえず視線は元貴と合わせたまま、手だけで若井の背中をさすった。
ぴく、と元貴の眉が動いたから、
(あ、これもだめ?)
と、慌てて若井の背から手を離して、降参するみたいに手を挙げた。
「なるほどー。入っちゃダメなとこに入っちゃうっていうのも、まあ魅力的だよね」
元貴が、咽ている若井の言った言葉を拾って、やっぱり謎の言葉を呟く。
どういうこと??と僕は首を傾げるけど、若井は、追い打ちかけんな!と咽ながらお腹を押さえて苦しそうに笑ってる。
「で、どれがいいの?」
「だから、意味わかんない。何の話?」
元貴が僕に聞いてくるから、意味が分からない僕は、少々眉をしかめて強めに聞き返す。
わかんないの?初心すぎない?若井も周りも、大体わかってるみたいけど。
と前置きのように言って
「緊縛、焦らし、尿道攻め、言葉攻め、放置、NTR、どれがいい?」
なんだかすごく長い呪文みたいな言葉を、元貴は淀みなく言う。笑顔で。
机の上に両手をグーにしてその上に自分の顔を乗っけて、まるで恋する乙女みたいなあざといポーズで。
キンバクジラシニョードーゼメコトバゼメホウチネトラレドレガイイ?なにそれ?
もうやめろ、と若井が椅子から崩れ落ちるくらい笑ってる。ひーひー言ってる。
いったい何なの、と思うけど、唐突に聞いたのとは違って2回目だからか、ちらほら聞いた事があるような、意味が何となく薄っすら分かる言葉もあって、もう厭な予感しかしないわけだけど。
まるでシンキングタイムと言わんばかりに、それ以上元貴は何も言わなくて。
若井に聞こうにも、彼はもう呼吸困難になってるし。スタッフさんはおろおろしてるし、マネージャーはものすんごい顔で元貴を見てるし。
「わかんないの?」
にっこり笑っていた元貴が薄く目を開いて、青いカラコンがすごく似合うなーなんて思ったのも束の間。
「次はぁ、どんなプレイをしようかなって思って、聞いてるんだけど?」
ちゃんと、涼ちゃんの意思確認を事前にする俺、偉くない?
しん、と静まった(凍った?)部屋の中。
どれだけ沈黙の時間が経ったのかはわからないけど、僕は、脳で理解するより先に、体が反応した。
熱風でもあてられたかと思うくらいに顔が、全身が熱くなって、え?えぇ??と戸惑いに満ちた声を出してしまう。
多分、顔は真っ赤だ。
こんな公共の、他の人もいるようなところで、突拍子もなく、そういう、夜のアレな話を振られるなんて、夢にも思わなかったから。
元貴が言ってることは、つまり、ちょっと特殊な?マニアック…な?趣向を凝らして、アレがしたいってことだよね?
やっと、なんとなくだけど意味が分かった。
…すっごく、分かりたくなかったけど。
わかってしまえば、若井が死にそうになって笑っているのが途端に腹が立つ。
「ひっ、人のことだと思って!」
思わず、床に座り込んでいる若井に言葉をぶつけると、
「やめてwww声かけないでwww巻き込まないでwww」
草はやしすぎ。完全八つ当たりだけど。
へぇ、と絶対零度な温度で元貴の声が聞こえて、しまった。と思ったけどもう遅い。
「意味が分かって、まず最初に若井の方むいちゃうんだ」
そーんな真っ赤な顔で、俺を見るんじゃないんだあ。
目が笑ってない、完全に。
「待って、元貴。俺は悪くないだろ、俺は」
咄嗟に、若井が引き攣った笑みを浮かべて、僕を売る。
けれど、元貴は笑顔を崩さないまま、ひっくい声で
「若井だって無関係じゃないんだよ?協力してもらわないといけないやつも色々あるし」
と言った。
えぇええぇ!?と若井が声を上げる。さすがに笑えなかったらしい。
え、待って。ちょっと思考整理させて?
そのプレイたちは、必ずどれか選ぶことは前提なの?決定なの?
よくわかんない言葉もあるし把握しきれてないんだけど。
いくら皆が、元貴と僕がそうだって知ってたって、こんな場所で、皆の前で、聞くようなことなの?
なんで急にそんな話が出てくるの?
っていうか、なにそれ。
今の、僕とのそーゆーのじゃ、満足できないって、言いたいの?
そういうこと?
――― 僕の中でぶちっと何かがキレた。
ばんっと机を叩いて立ち上がる。
「あのさあ、大森さん」
僕のものとは思えない、地を這うような低い声が出た。
自分でも、こんな声が出るんだ、とびっくりしているし、こんなかっとすることがあるんだ、とあまり感じない感情に、冷静さが失われていく。
呼ばれた元貴は、目を丸くして驚いて、僕を見上げる。何度か瞬きをしているから、僕の反応は予想外、なんだろうな。
「いきなり、こんなところで、言うことじゃないよね?みんな困ってるし、僕も困るし。そんな笑顔で圧かけながら言うようなことなの?」
捲し立てて言葉をぶつける。多少声が大きくなってるけど、内容が内容なだけに、押さえてはいるつもりで。
でも、普段の僕からしたら、多分、あんまり見ない姿なんだと思う。
「待って、涼ちゃ、藤澤さん、そうじゃない、くて、ですね」
珍しく、元貴が慌てている。
さっきまでの目が笑ってない笑顔の圧はどこかに消え去って、あわあわしてて、幼くさえ見えた。
横から「涼ちゃんじゃねえ、藤澤さんだぁ」と若井がぼそりと呟いた言葉も、聞き逃さない。
「若井さんもさ、ばかにしてんの?なに笑ってんの?巻き込まないでってなに?大森さんの暴走止められなくて何が親友なの?悪ノリしたいの?思春期なの?」
「…ごめ、すいません」
僕に捲し立てられて、目を丸くした若井は、ばつが悪そうな顔をして小さく謝った。
しゅんとして垂れた犬の耳が見える。
言いすぎたかなと一瞬思ったけど、止まらない。
二人して、いつも僕をいじるけど、いじるのはいいよ?でもこういうのは違うでしょ?
大事な話は、人のいないところで、ちゃんと説明してくれたら、いいだけじゃない。
ここでわざわざそんな恥ずかしいこと聞かれて、僕はどうしたらいいの?
真っ赤になって慌てるだろうからって丸めこめると思って、わざとなの?
そういうの、大事な話だと思うのは僕だけなの?
そんな大っぴらに言わなきゃいけないほど、僕、ヘタクソだったってこと?
そりゃあヘタクソかもしれないよ、僕は、元貴が初めてだからね?
でも、そんなのずっと前から知ってるでしょ?
僕は女の子じゃないんだからね?
今の僕じゃ、全然、元貴は満足できないってことなの?
僕は全然、満足してますけど、元貴はそうじゃないんだね?
元貴は僕の体じゃ、気持ちよく無……
「すとっぷ!すとっぷーーー!」
なんだかカーッとなって、今の感情で、一方的に捲し立ててしまった。
言いながら、あ、僕はそう思ってたんだ。結構ショックだったんだ。って気づいて。
途中で、椅子を倒しながら慌てて立ち上がった元貴と、床から足を縺れさせながら立ち上がった若井に、ダブルで口元を押さえられた。
なに!?言いたいことまだあるんだけど!と二人を交互に睨むと、二人ともものすごく慌てた様子でとても困った表情をしていた。
「…あのね、りょ、藤澤さん。結構な声量で、かなり恥ずかしいこと言ってる」
滅多に見れない。
ものすごく恥ずかしそうな表情で顔を真っ赤にした元貴が、震える声でそっと言う。
「元貴が言える立場かよ。りょ、藤澤さん、冷静になって、周り見てみて」
若井はどちらかというと呆れたような表情で、元貴に窘めるように言った後、優しく僕に言葉をかけてきた。
今日は、やたらと楽屋が静まり返る日だ。
しぃんとした室内に言われた通り視線を巡らせれば、顔を真っ赤にしてフリーズしたスタッフさんと、元貴を見る時より鬼の形相で僕を見るマネージャーがいた。
…そこで、ようやく、僕は冷静になって。
つい今し方の僕が大声で捲し立てに立てまくった言葉を反芻する。
最初の方はいい、状況的なタイミングのことだから。
でも、カーッとなりすぎて、半分くらい、それこそ、ここで言うようなことじゃないことを言ってしまった気がする。
僕は初めてだからヘタクソだとか。僕は元貴に満足してるけど、元貴は満足してないとか。女の子じゃないとか。僕の体じゃ元貴は気持ちよく無い、とか。最後は言い切らなかったけど、続く言葉くらいバカでもわかる。
元貴のことを言えないほど、公共の場で言うようなことじゃないことを、僕は言ってしまっていた。
というか、元貴よりもひどい。かもしれない。
しかも、多分今まであんな怒ったことないってくらいの、レベルで。
自分で言いたくはないけど、普段の僕のイメージからしたら、かけ離れすぎていて、色々な意味でインパクトが強かったんじゃないかと。
なんなの。結局、いちばん訳わかんないことしてるの、僕じゃない?
元貴の言葉の意味がわかったとして、なにいってるのーって冗談で済ませればよかったのに。
勝手に、熱くなってしまった。
あ、やば。泣けてくる。
「~~~っ!」
怒気が少し抜けて、頬が赤くなってしまって、言葉が出なくて、その代わりみたいに涙が滲んできた。
しゃがんで顔を伏せる。まんま、子供みたいだ。
若井がすっと傍から離れて行く気配、元貴が僕の傍にしゃがみこんだ気配。
「…ごめん、涼ちゃん」
言いながら、頭をなでなでと撫ぜられる。
ちょっとした意地悪なんだってわかるけど、若井のそれも悪ノリなんだってわかってるけど。
僕の思考が斜め上を行き過ぎたのか。
元貴は、僕とのそういうのじゃ全然駄目なんだって思ってしまって、止まれなかった。
ものすごく極端な話、恋人として失格なんだって言われたような気がして。
「そうじゃなくて、俺はもっと、涼ちゃんの、その、いろんな顔が見たくて…」
そこまで言って口籠る。
歯切れの悪さが、元貴らしくない。
ふわ、と空気が動いて、
「ちゃんと、涼ちゃんのカラダ気持ちいいよ。そうじゃなくて、俺が、もっといろんな涼ちゃんのえっちな顔が見たいだけなの」
他の誰にも聞こえないように耳元で、そう囁かれた。
距離の近さと、耳から入ってきた声が夜の時の元貴のそれで、思わず、びくっと体が震える。
なんて返したらいいかわからず、伏した顔をあげると優しく微笑んでる元貴がいた。
ずるいよね、そういうところ。
僕がばかみたいに熱くなって怒ったみたいになってる。気がする。そうさせられただけなのに。
でも、そういう元貴が、嫌じゃなくて、むしろ好きだから、僕こそ手におえないと思う。
恥ずかしいことたくさん言っちゃったけど、別に僕がダメとかじゃないんだ、って思ってほっとしてしまう。
…元貴と僕とで、かなり異様な空気にしてしまった楽屋内の空気は、ちょっと置いといて。
「場所も考えずに言っちゃって、ごめんね?」
許してくれる?と首を傾げて元貴が言うから。
あざといし、それも計算なんだってわかってるけど。
やっぱり予想外のことに慌ててる元貴より、全部手の上で転がしてるよっていう表情をしてる元貴が好きだな、と思う。
導かれるように「ゆるす」と言った僕は、自分でも気づかないうちにガチ泣き寸前だったみたいで、鼻を啜った。
にっこり笑った元貴は
「よかった。許してくれなかったら、どれだけ涼ちゃんが床上手でえっちかってここで力説しなきゃいけないかと思った」
普通の声の音量で、そう言った。
…反省してなくない?
そういうとこだよ、と軽く睨むと、元貴は楽しそうに視線を逸らしたのだった。
「…結局、巻き込まれるだけ巻き込まれて、俺はなにを見せられたの…?」
すごく罵声を浴びせられた気がする。藤澤さんに。
若井が、納得いかないと呟く傍で、元貴に手を引かれて椅子に座りなおす。
元貴も若井も、床に転がったままの椅子を正して座りなおして、スタッフさんも切り替えて若井の汚れた衣装の替えを取りに行って、マネージャーが大きなため息をついた。
外から戻ってきたスタッフさんが新しく持ってきてくれたペットボトルの蓋を開ける。
水がおいしい。柄にもなく、なんだか、怒って、いっぱいしゃべってしまったから。
…内容が恥ずかしすぎるのは、もう忘れることにしよう。そうしよう。
ふう、と息をついた僕の顔はまだ赤い。
隣でにこにこと僕を見つめている元貴は、なんだかすこぶる上機嫌だ。
そして、上機嫌なまま、僕に言った。
「で、どのプレイにしよっか?」
………
私の文章を読んで下さった方の中には薄々お気付きの方もいらっしゃるかもしれません。
あいあるあぶのーまるっていいよね。
これに尽きます。
歪んでたりズレてたりするものを書くのがとことん好き。
なので、ここにノロノロ詰め込んでいこうかなあ、と思ってます。
早いスパンで更新はできませんが
センシティブ書きてえ!となったタイミングできっとあげてくと思います。
各お話には必ず、前置きを書きますので
地雷などにご注意ください。
(固定以外地雷はない私です)
時系列、関係性は必ずしも、ぜろ、とおなじではない予定。
omr×fjswだったりwki×fjswだったり。
お暇つぶし程度にお付き合い頂けたら幸いです。
コメント
3件
更新ありがとうございます✨ 私もこの半年色々な作品読ませていただいて、自分が💛ちゃん右固定なんだって気付いてしまいました😆💕 なので、作品様の作品がめっちゃくちゃ刺ささります💛 あいのあるあぶのーまる… はあ、最高です🥰 その上、色っぽい文章…毎回溶けてます🫠 一作ずつの満足度がめちゃくちゃ高いので、何度も繰り返して読んで、次の作品を待っています♪ 次作も楽しみにしています💕