「徳州扒鶏くーださい!」
俪杏は、「徳州扒鶏の店」の店員に話しかける。
「そうか、それなら銀幣4枚になるよ」
たったの4枚っ!?銀幣残り56枚、銅幣残り6枚になるとして考えると……杏仁豆腐が283個たべられるっ!
はわああああああ!!
喜びに舞い上がる俪杏に、「お嬢ちゃん?」と店員が声をかける。
「これ……ください……」
きめ顔をしながら銀幣4枚をサッと机に置く。
「お、おう……」
店員は同様気味に答え、凍らせてあった鶏肉1kgを俪杏に渡した。
「冷たっ!」
俪杏は、それを持つと冷たさで慌てて手を離しそうになってしまった。
まるで手が冷蔵庫の中に入っているみたいだ。
「だ、大丈夫……?」
俪杏は今にも、それを落としそうだ。
体が前のめりになっている。
「大丈夫……ですっ!」
そう言いながら、俪杏はゆっくりと足を動かす。
それを店員は心配そうに見ていた。
「あっ! あちゃー……」
俪杏は少し歩いたところで足を躓いた。
そのまま前に倒れ、鶏肉のおかげで怪我はしなかったものの、氷は完全に割れてしまったらしい。
その光景に、店員は「やっぱりな」と思う。
「店員さーん!」
氷の割れた鶏肉を地面にそのまま置き、再び店に向かって走り出す。
「いやお願いだから鶏肉そのままにしないで!!」
俪杏も今度は鶏肉をちゃんと持って店へとやってきた。
「うーん、鶏肉の1kgは貴重だからなあ……」
非常に悩む店員。
ここ最近は天候が悪く、鶏肉の供給があまり良くなかった。
残りの鶏肉の数は3つ、どうする自分……!!
「ダメ、ですか……?」
俪杏は必死に店員を見つめた。
目は潤っていて、こちらに優しく訴えかけてくるような、そんな表情だった。
こ、これが子供というものかっ……!
「…………ああ、もう、持ってけい!!」
店員はやけになり、俪杏に再び鶏肉を渡す。
「ありがとうございます!」
俪杏は、無邪気な笑顔をし鶏肉を大事そうに抱えて再び歩き出すのであった。
(今度こそ大丈夫だよな……)
「いてっ!」
「!?」
「店員さーん!」
「もうやめてーっ! 鶏肉置いていかないでーっ!」
店員は思わず涙を流した。
まさか、再びこうなるとは、思ってもいなかったから……。