コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
家の周りの整地をお願いされたナジュミネとクー、ねこさんチームBといぬさんチームA、ウサギさんチームは早速、メモにあった家の周りへと集合した。
今回の増改築は従来あった家を樹海の方へ延伸させるようなイメージだった。植物は樹海に近付けば近付くほど多くなり、また背も高いものが増えている。
「えーっと、まずは、ねこさんチームが草を抜いて、いぬさんチームの一部が草を運んで、ウサギさんチームが草を食べるのだな。そちらはクーに任せるぞ」
ナジュミネはケットから教えてもらった手順を言葉にし、クーに確認とばかりに伝える。
「そうだな。分かった」
クーは首を縦に振って、ナジュミネに同意する。
「ところで、妾は適当な石を取りに行きたいのだが、大きな石のある場所を教えてもらえるか? クーなら分かると聞いたが」
「そうだな。なら、こいつらを連れていけ。石切り場に案内してくれる」
クーは自分の部下である数匹の犬の方を向いて、ナジュミネにそう伝える。彼の視線の先にいる数匹の犬の妖精たちは、尻尾をパタパタと振りながらお任せくださいと言わんばかりにキリっとした表情を見せる。
「なんだ、石切り場まであるのか」
「あぁ。普段は使っていないがな。ここら辺では、樹海のものだけが資源ではない。いろいろな資源が豊富にある」
「人族や魔人族に分け与えることはしないのか?」
ナジュミネは以前から気になっていた豊富な資源について、クーに訊ねてみた。彼女は元・炎の魔王ということもあり、この周りに資源があるものの妖精族によって魔人族や人族が利用できないということを知っていた。
彼女も今ではその役職も解かれてムツキの伴侶の1人になっているので、そういう話には積極的に触れないでいたものの、つい聞いてしまった。
「……昔は妖精族の管理で、資源が枯渇しないようにと調整しながら共有していた」
「昔は?」
クーの声色がいつもより重く、そして言葉数は増えていた。いつもと異なる雰囲気に、ナジュミネは何かを感じ取り、慎重に相槌を打つことにした。
「あぁ。だが、人族と魔人族が一時的に結託して、妖精族からこの資源の管理権限を奪おうとした」
「そんなことが……」
妖精族は長命である。クーもまた生き字引の1匹として、過去を語らうことのできる貴重な存在だった。
「その時に大きな争いが起きた。妖精族はなんとか退けたが、どの種族も被害も大きかった。それ以降は共有すること自体が危険だと判断して管理者権限で止めた。争いを生むなら、そもそも分け与えない方がいい。人族も魔人族も中途半端に馴れ合うと距離感がおかしくなるようだからな」
「…………」
クーの遠い過去の情景を思い出すような口ぶりに、ナジュミネは相槌すら打てなくなる。被害とはどれほどのものか。彼の口調から察するに、そして、以前ちらっと聞いたリゥパの話もふまえて、重い事態だったことは容易に想像がついた。
「1つ助かったのは、人族と魔人族は大きな争いでの責任を押し付け合った結果、仲違いをしたことだ。以来、結託することなく、お互いでも小競り合いが続いている」
「……バカみたいな話だな」
欲にまみれて醜い争いを起こし、あまつさえ、結託していたはずの仲間でさえ、簡単に非難し、互いに罵り合い、互いに振り上げた拳の行き先を向けるしかない。そう考えると、ナジュミネは自身の心が痛むのを感じた。
「そうだな。ユウが種族を作った時、欲というものをきちんと理解して制御する方法を探し切れなかったからだ。成長にはある程度の欲が必要だが、必要以上の欲は増長も招いた」
「何も知らなかった。そして、魔人族がひどいことをしてしまった。申し訳ない」
ナジュミネは頭を下げる。しかし、クーは首を横に振る。彼は表情こそ、いつもの笑っているかのようなそれだが、雰囲気は全く異なっていた。
「ナジュミネが謝ることじゃない。知らないのも仕方ないし、知らなくて済むならそれも悪くない。たしか500年以上も昔のことだからだ。そして、種族を代表して……などやめておけ。関係ないことまで抱え込むな。それに、誰かを責めることはできない。バランス感覚が人族も魔人族も狂っていただけだ」
「……ありがとう」
ナジュミネが礼を言う。すると、クーの雰囲気も穏やかになる。
「それでいい。してもらったことには感謝をすればいい。そういう気持ちを忘れなければいい」
「……石切り場へ行ってくる」
ナジュミネは笑顔でクーにそう伝えて、数匹の犬の妖精たちと一緒に向かう。途中で彼女の歩みが徐々に遅くなり、やがて止まる。妖精たちは彼女の足元に寄り添う。
「くぅーん」
「……すまぬ。気持ちがまだ切り替わらなくてな」
ナジュミネはしゃがみ込み、妖精たちを優しく撫でる。
「炎の魔王になった時、この世界樹の存在を知り、妖精族は資源を独り占めしていると頭に過ぎったことがあったのだ。そして、それは違うと言われてから久しく忘れていたが……自分たちのことを棚上げして非難しただけだったんだな、と今日改めて認識しただけだ」
ナジュミネの顔からうっすらと涙が零れる。
「くぅーん」
「大丈夫だ。自身の浅慮を嘆いているだけだ。クーに泣かされたわけではない。だが、泣きたくも……なる……。あー、妾は優しくされるのに本当に弱いな……少しくらい冷たくされるくらいが救われると思ってしまう……」
「わん!」
妖精たちはナジュミネの手や顔をペロペロと舐める。彼らなりの励ましのようだ。
「励ましてくれるのか……。ありがとう。ならば、いつまでもくよくよしていても仕方ないな。妾は今できることを精一杯するだけだ」
ナジュミネは再び立ち上がり、石切り場へと強い足取りで向かって行った。