リゥパとルーヴァ、アル、いぬさんチームBは樹海で手伝ってくれる仲間を探していた。先ほどちょうどクマの妖精たちを何匹か見つけて、声掛けをし終えたところだ。しかし、手伝いは多い方がいいというアルの提案により、時間がある限り探すことになった。
「他に力持ちって何かいますか?」
リゥパはクマ以外の心当たりがない。トラもいるが、彼らはプライドがとても高く、ケットが直接言わない限り、動こうとは思いもしない。代理の言うことなど聞くわけがなかった。逆に取れば、ケットはトラを今回の要請対象としていないということである。
「そうだな。1つ心当たりがある」
「なんとなく分かるかも」
アルの思わせぶりな発言に、ルーヴァは何となくピントが合うようで話に乗っかる。
「え、ルーヴァは分かるの? やっぱり、クマの別種?」
リゥパのその問いにアルが首を横に振って答える。
「いや、最近、生まれた種のようだ。ユウ様曰く、人族に近いらしい」
「人族に近い妖精ですか?」
リゥパは生まれてから人族に近いと言われる妖精を見たことがなかった。ここら一帯は彼女の行動範囲ではないものの、風の便りくらい聞いても良さそうだとは思っている。
「うーん。巡回の最中に見たことも会話したこともあるが、人族に近いとはあまり思わなかったな。毛並みが動物に近い上にまだ人語を話せる個体がいない。たしかに普段から2足歩行のようだが」
アルがそう話してからは、雑談を挟みつつも黙々と歩いていた。周りの負の魔力が少し高まっているようで、負の魔力から生まれる魔物がいる可能性も高かったからだ。
「あー、ここらへんだと思いますね」
「私もこの辺りの記憶があるな」
ルーヴァがアルにそう話しかけると、アルは首を縦に振って頷く。
「わん! わん!」
「誰?」
犬の妖精が1匹、何かを嗅ぎ取ったのか、吠え始める。その後、リゥパを含めた全員が何かの気配を感じ取った。
「ウホッ」
それは黒い毛衣を纏った大柄の妖精だった。大きな握り拳を前に出し、普段は見かけない来訪者に少し戸惑いを覚えているようだ。大きな体格に似合わず、その瞳は優しそうな感情が滲んでいる。
「……敵意はなさそうね」
「さっき言っていたのが彼らだ。えっと、ゴリラゴリラだったかな」
アルは記憶の底から種族名を引っ張り出す。
「ゴリラゴリラゴリラですか?」
リゥパが覚える気もなさそうに何度かゴリラを連呼していた。
「ゴリラが1つ多いな」
「面倒……」
「いや、あーた、いくらなんでも、呼び名で面倒とか心の声を漏らすんじゃないわよ……」
隠す気のないリゥパをルーヴァがたしなめる。種族名だとしても面倒という一言で片付けられるのは遺恨を残す可能性がある。
「そうなんだけど、連呼しないで、とりあえず、ゴリラでいいんじゃない?」
「ウホッ」
ゴリラは短く答える。その返事に特に嫌悪感は見られず、ルーヴァとアルはホッとした。このリゥパの大胆さは中々真似ができない。
「……いいらしいな。では、ゴリラ諸君。妖精の同胞としてお願いがある。我らが王のケット・シーからの要請である。家づくりの力仕事を手伝ってほしい。もちろん、拒否権はある。興味があれば、この場所まで来てほしい。なお、褒美はケット・シーと相談してほしい」
「ウホホッ」
ゴリラは新参者である自分たちに何かしらの依頼が来たことで、小さな仲間意識が芽生え始めたようである。後ろにいた仲間にも声を掛け、ゴリラの子どもなども一緒に大所帯がゆっくりと家の方へと向かっていく。
「はー、何事もなく了承されたみたいね」
ルーヴァは仕事が終わったと言わんばかりに大きく息を吐いて、帰る方向へと首を向けていた。
「さて、これで一旦戻りましょうか?」
「……みんなは先に戻っていてくれ。あちらから魔物の気配がする」
アルは魔物の気配がする方向にさっと躍り出る。
「なるほど。いぬさんチームは周りを警戒して、私とアル様とルーヴァで撃退するわ」
「リゥパ?」
アルは自分より前に出てしまうリゥパに驚きを隠せない。リゥパは弓使いであるためだ。
「一人でかっこつけは禁止ですよ。その代わり、ムッちゃんに私ががんばっていたと言ってくださいね? 最近、いいとこなしだから、褒めてもらいたい! たくさん倒すわ!」
「動機はともかく。了解した。ただし、今やマイロードの伴侶であるリゥパには指一本触れさせはしない」
「……ってか、あーしも?」
「いいじゃない? いつも一緒でしょ?」
「はー、終わると思っていたのに、仕方ないわね……」
「わん!」
その後、夕方を迎えるまで魔物退治が続いていた。