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こちらは続きです。
出来れば前編から読むのがオススメです。
月下に酔いて、汝を想う ― 後編
朝の鐘が学院に響く。
いつもと同じはずの登校路なのに、首元がやけに気になった。
(……見えてないよね)
制服の襟をそっと直しながら教室に入ると、いつも通りの風景。
誰も、昨夜のことなんて知らない。
零「おや、おはよう」
――ただ一人を除いて。
窓際の席で頬杖をついていた零が、ゆるりと微笑んだ。
朝の光を受けても、その赤い瞳は夜の名残を帯びている。
◯◯「……おはようございます、零さん」
零「ふふ。今朝は随分と元気がないのう?」
声量は普段通り。
けれど、視線はまっすぐあ私の首元に落ちていた。
零「昨夜は、よく眠れたか?」
その一言で、心臓が跳ねる。
◯◯「……普通、です」
零「ほう?」
零は立ち上がり、あなたの耳元へと身を寄せる。
周囲には聞こえないほど低い声。
零「ならば何故、血の香りがまだ残っておる」
◯◯「っ……!」
思わず一歩引くと、零さんは楽しそうに喉を鳴らした。
零「冗談じゃ。そんなに怯えるでない」
けれど、次の瞬間。
指先が、昨夜噛まれた場所のすぐ手前に触れる。
零「ここは、まだ少し……熱いのう」
◯◯「零さん……!」
零「安心せい。誰にも見えてはおらぬ」
まるで全部計算済みだと言わんばかりに、零さんは余裕の笑みを浮かべる。
零「それに、これは“印”じゃ。誇るべきものじゃよ」
◯◯「誇る……?」
零「うむ。夜に選ばれた証じゃ」
そう囁いてから、何事もなかったように距離を取る。
零「さて。授業が始まるぞ。人の子は規則正しく生きねばならぬからの」
自分の席に戻る零さん。
けれど、最後に一度だけ振り返った。
零「今宵は……吸わぬ」
意味深に目を細めて。
零「じゃが、月が出たら……話は別じゃ」
その微笑みは、昨夜よりもずっと優しくて、ずっと危険だった。
あなたは思う。
この学院の日常は、もう以前と同じではいられないのだと。
――夜が来るたび、思い出してしまうのだから。
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