ピンク色の朝焼けが、窓辺をやわらかく染めていた。
夢主は、その光をクロロの寝顔に重ねる。
この人に出会ってから、世界が色づいた。
戦いも、逃亡も、傷もクロロが笑ってくれるなら、全部どうでもよかった。
「ねえ、クロロ。……わたし、今幸せだよ」
「ふうん。そうか」
その返事が少し淡くても、愛の証に思えた。
夢主はかつて、クロロの標的だった。
利用価値のある「鍵」を持つ少女。
接触したのは偶然じゃない。クロロにとって、それは最初から「任務」だった。
でも彼の笑顔を見てると、思ってしまう。
本当は……もう、仕事なんかじゃなくなってるんじゃないかって
それは希望であり、幻想であり、妄想だった。
ある晩。クロロは言った。
「明日には、もう少し遠くへ行こう。見つかりたくない」
「うん。……ずっと一緒にいようね」
「……ああ」
あの返事すら、夢主は“愛”だと思い込んでいた。
翌朝。
人気のない廃ビルの屋上。
クロロの手が夢主の背後に伸びる。
カチリ、と乾いた音。ナイフが陽にきらめく。
突き刺さる痛みと、崩れ落ちる足元。
夢主は、崩れる意識のなかで震える唇を動かす。
「なんで……? わたしを……愛してたんじゃ……」
クロロは、無表情で夢主を見下ろす。
「……本気で、そう思ってたのか?」
「お前は“鍵”だった。ただそれだけだ」
「利用が済んだら、処分する。それが最初の取り決めだった」
「……っ」
声にならない声。
心臓よりも、心が先に裂けた。
「だって……だってあんなに……優しくしてくれたじゃん……」
「“演技”って言葉、知ってるだろ?」
血が流れていく。
ピンクに染まるコンクリート。
動脈の血は、どうしてこんなに綺麗なのか
夢主の目から涙が一筋こぼれる。
「……それでも……信じたかった……バカみたいだね、私……」
クロロはただ静かに立ち去る。
背後から名前を呼ぶ声も、嗚咽も、振り返らない。
動脈の血は鮮やかなピンクだった。
それは”愛の色”じゃなかった。
ただの錯覚の残骸だった。
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