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かつて、この世界には「絶対的な悪」が存在した。荒廃した大地、鳴り止まない悲鳴。しかし、一人の勇者と精鋭たちによって魔王は討たれ、世界には永きにわたる平穏が訪れたはずだった。
剣は錆び、呪文は日々の生活を豊かにするための道具へと変わった。
人々は空を見上げ、明日を憂うことなく眠りにつく。
だが、王国の中心――第一区の最奥に鎮座するその場所だけは、数百年前から時が止まったままである。
――「未踏の地」、魔導の森。
そこは、魔王ですら支配を諦めたと言われる断絶された領域。
一歩足を踏み入れれば、昨日までの常識はすべて無効化される。
空からは色が失われ、方位磁針は狂い、吸い込む魔力の濃度に精神が焼き切れる。
「あそこには、世界の『バグ』が眠っている」
「いや、あれこそがこの世界の『真実』そのものだ」
数多の賢者が独自の理論を提唱し、数多の冒険者が名誉を求めて挑んだ。
しかし、帰ってきた者は一人もいない。
森の入り口に立つ巨大な石碑には、誰が刻んだとも知れぬ言葉が、今も不気味な光を放っている。
王国全域を包む平和な陽光の中で、その森だけがどろりと黒い影を落としている。
そして今、一人の青年がその境界線を目指し、王国の門を叩こうとしていた。