テラーノベル
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ネオンの光が、浴室の白いタイルにゆらめいていた。
水面に映るそれは、まるで水槽の中を泳ぐ熱帯魚みたいで、ただ静かに、美しく揺れていた。
その中心に、俺とキャメがいる。
ぬるい湯に沈んだまま、体温を分け合って、呼吸だけが交差していた。
「キャメ、気持ちいい?」
「うん…」
そう言って笑う彼の顔を見て、俺の胸はひどく軋んだ。
その笑顔の裏にあるものを、俺は正しく測れていない気がする。
―こんなこと、間違ってるって、わかってる。
でも、
キャメがいてくれることだけが、俺の救いだった。
「…どうして、キャメはそんなに優しいの?」
俺の問いかけは小さく浴室に響いて消えた。
キャメは俺の手を取り、そっと自分の喉元へと導いた。
「俺、ニキくんになら…壊されてもいい、壊されたいって思ってるんだよ」
その言葉があまりにも甘くて、怖かった。
彼の首に指をまわす。
ほんの少しだけ、力を入れると、彼は苦しさと幸せが混ざったような、そんな顔で笑った。
「なんで……そんな顔できるんだよ、」
「嬉しいんだ、 だって…ニキくんがここまでするのは、俺のことを好きでいてくれてる証拠だって思えるから」
そうか、おかしいのは俺だけじゃなかったんだ。
きっと、二人しておかしいまま、深い場所へ沈んでる。
「それでも……俺は、怖いんだ。
キャメが、心のどこかで俺に怯えてるんじゃないかって…」
「そんなこと、ないよ」
キャメが俺の頬に手を添え、微笑みながら言う
まるで俺の罪を、すべて包み、許し、溶かすかのように。
「俺の全部は、ニキくんのものだから。
どうしても止められないって思うなら、止めなくていいんだよ。俺はそう望んでる」
その言葉の意味を理解したとき、浴槽の水がわずかに揺れた。
ああ、もう戻れない。
でも、それでいいと思えた。
「……ねぇキャメ、ほんとに、俺でいいの?」
「俺もニキくんじゃなきゃ、だめなんだよ」
彼の唇にキスを落とす。
温度も、感触も、確かに生きている。
そして何より―俺を受け入れてくれるのは、この世界で、キャメしかいない。
ネオンの光が、二人の影を波打たせる。
誰もいないこの部屋で、俺たちは互いの狂気に、救われていた。