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 セルに言いたいことははっきり言うべきだと言われ、リリアは胸の前で両手を握り締めたままガイザーを不安げに見つめた。ガイザーはセルの気迫に恐れおののき、ソファに倒れこんだまま固まっている。


(言いたいこと……何を言えばいいんだろう。聖女の仕事についてまだ誤解していることを指摘する?それとも、セルのことを悪く言うことについて否定する?……ああ、何をどう言っていいのかわからない)


 みんなが望む聖女を演じ続けてきたリリアは、普段から他人と話す時は本音を隠し、相手が望むであろうことを相手の様子から察していたのだ。セルにだけは、本音を話せるようになってきたが、それでもまだ恐る恐る手探り状態な部分もある。

 そんな自分が、何年ぶりかに突然会った兄に、何をどう伝えればいいのだろうか。突然いなくなったことを責めたい思いもあるし、聖女の仕事についてまだ勝手なことを言うことについて文句を言いたい気持ちもある。だが、それをどう伝えればいいのか、どう伝えれば気持ちが正しく伝わるのか、全くわからないでいた。


 不安げにぎゅっと胸の前で両手をきつく握りしめると、セルはそっとリリアの背中に手を添えた。


(セルの手、あたたかい……)


 大丈夫だ、何も心配いらないというようなあたたかさが、リリアの背中を通して伝わって来る。思わずセルの顔を見上げると、いつものセルの気怠げな瞳は、力強くしっかりとリリアを見つめている。そんなセルの様子に背中を押され、リリアはすうっと息を吸い込み、口を開いた。


「へインドル卿……いいえ、兄さん、私の幸せは兄さんの思うようなことではありません。私は、聖女という仕事に誇りをもっています」


 小さな声ではあるがゆっくりと、言葉を選ぶようにして発せられるその声に、ガイザーは動けないまま視線だけをリリアへ向ける。


「確かに、聖女という仕事は辛いことや大変なことも多いです。国民には全てを伝えられないもどかしさもあります。みんなが望む聖女であり続けるプレッシャーは本当に苦しくて、いつも泣き出したくなります。でも、私は自分に聖女の力が現れてから、これが私の生きる道なのだとそう思えたんです。だから、兄さんがいなくてもずっと一人で頑張ってこれた。国が、国民が、私を必要としてくれる。みんなが笑って安心して生活している、そのために聖女の力を発揮する。それが私にとっての喜びで、誇りなんです」


(手も声も、震えてしまう。でも、ちゃんと伝えないと)


「それに、セルは本当に私のことを思ってくれています。私のおっちょこちょいでそそっかしくておおざっぱでダメダメなことを知っても、それでも私という一人の人間を、大切に思ってくれています。私がプレッシャーに押しつぶされて陰で泣きわめいても、全てを受け止めてくれるんです。セルという存在は、私にとってもはやなくてはならない存在なんです。そんなセルを、知りもしないのに一方的に悪者扱いするのはやめてください。たとえ兄さんであっても許せません」


 リリアがキッと鋭い視線を送ると、ガイザーは信じられないというように目を大きく見開いてリリアとセルを交互に見る。セルはリリアの言葉を聞いて目を閉じ、小さく微笑んでいた。


「兄さんが突然目の前に現れた時、本当に驚きました。でも、私は嬉しかったんです。あの日、兄さんが突然いなくなって、私は見捨てられたんだと思っていたから……大人たちにもお前のせいだと言われ続けて、本当に悲しかった。自分のせいだと思っていた。でも、兄さんが離れてからもずっと私のことを思っていてくれていたって知って、嬉しかった、嬉しかったの。それなのに……」


 ぽろぽろとリリアの両目から涙が零れ落ちる。それを見て、ガイザーの目はさらに大きく見開かれた。


「兄さんは、何もわかってない。わかろうとしてくれない」


 そう言うと、リリアは感極まってわっ!と泣き出した。そんなリリアをセルは優しく抱きしめ、背中をさすりあやしている。そして、唖然としたままのガイザーに視線を向けた。


「これが今のリリアであり、リリアの気持ちだ。これを聞いて少しは何か思うことがあるだろう?あってくれないと困る。悪いが、今日はこの辺で終わりだ。任務のことについては追ってまた話し合おう」

「……えっ、あっ、まっ……!」


 ガイザーがハッとして立ち上がろうとすると、セルは片手をガイザーに向ける。手と共に向けられたセルの視線は、またガイザーの身動きを取れなくするほどに冷ややかで恐ろしいものだった。


「悪いが待てない。転移魔法でお送りしよう。帰ってリリアの気持ちをしっかり考えるんだな」


 セルの言葉と共に、セルの片手が光りガイザーの足元に魔法陣が浮かび上がる。そして、魔法陣から出る光に包まれて、ガイザーはその場からいなくなった。

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