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路上で、ぬいぐるみを見つけた。
夜の歌舞伎町の雑多な、眠らない俗物の繁華街の片隅にひっそりと積もった、ゴミ溜めの中にぬいぐるみを見つけた。
雨もこんなにザアザア降って、その路上が明かりを受けてテカっている。
周囲を見回すと、酔っ払った若い男と姦しい女性、外国人たちから排出されるタバコの吸い殻がその路上に影を作っていた。
こんなにも人の声とどこかから流れる音楽の音で騒がしいのに、周りの音が耳に入ってこなくなるほどに、ぬいぐるみを食い入るように見つめていた。
再び視線を戻すとこの繁華街に不釣り合いな泥を被ったぬいぐるみは、忘れ去られたように、あとは終わりを待つだけのように寄りかかっていた。
俺はそんな姿がほっとけなくて、その目つきの悪い、スポンジのようなぬいぐるみにしゃがみ込んでいた。
「…うち、来るか?」
家に帰るなり自らと共に、ぬいぐるみを風呂桶に浸からせる。
元の色がわからなかったこのモップ擬態のぬいぐるみは洗い落とせば黄色いことが、ドライヤーをしてやれば意外にもふわふわな質感であることがわかる。
…しかしこのジト目の感じといい、このウサギのような形といい、色といい…。
「…なんかお前、俺の友達みたいだな」
まじまじとジト目を眺めながら思わず口にした。
普段ならぬいぐるみなどとんと縁がないはずなのに、なぜか惹かれてしまったそれ。
その『なぜ』が今になってわかった気がする。
…そりゃあ、彼に似てるから。どことなく。
両手に収まったそのぬいぐるみを見つめた。
そのぬいぐるみが名前を教えてくれてるようで。
「似てるし…仁人…って呼ぼうかな」
そう呟いた後でおえっ、と嗚咽した。
きつい。
ぬいぐるみに名前をつけるなんてこと、俺が小さい時でもしなかったのに。
我ながら嫌気がさす。
けど、その目となんとも言えない顔が、なんとなく胸の内を引き摺り出してくるような気さえする。
…こいつがいれば、何かが変わる気がする。
いそいそとそのぬいぐるみをベッドサイドに置いてみる。
ちまり、と広いベッドの隅に置かれたそいつはまるで我が物顔のようにそこに居座った。
新しくベッドが彩られる。
くすり、と笑いが漏れた。
「…本当にこの図々しさとか、仁人みたい」
そのままベッドに一緒に入って横たわれば、その黄色いそいつと目が合う。
もちろん顔の動きなんてない。
だけど、何か物言いたげなその笑みが少しラブリーに思えて、軽く手で撫で付けた。
「疲れたろ、ゆっくり寝ろよ」
枕元に置いたら、夢で会えるかもしれないし。
…その夜、不思議な夢を見た。
誰かの部屋にいる夢。
自分の視界はその『誰か』の部屋の空間で覆われていた。
ムーディ…?で、薄暗くて、奇抜な絵画や古のミ◯ワのイラストなどが置いてある。
…どこだここは。
でも、どこかで見たこともあるような気がする。
視界の隅には、青白い光が発光していた。
おそらくパソコンのモニターだろう。
そこへトン、トンと誰かの足音が聞こえてくる。
…いやいやいやいやいや、これ不法侵入じゃね????????
そう思って逃げようにも体が動かない。
動かせないんじゃなくて、動くことを知らないようだ。
足音は近づいてくる。
息を潜めているうちに、とある人の影が落ちた。
ジーンズ生地の足が、俺の前で立ち止まっている。
そこへスッとそのジーンズが折りたたまれると、ネックレスが揺れたのが視界に入る。
しゃがんだその人は、その指輪のついた手を伸ばした。
頭に感じたわしわしと雑な手触りは、どこか愛を感じた。
ネックレスの上に見える視界の真上の限界にいる口元は弧を描いていた。
くちばしのような唇で、笑窪を深めた。
『ほんとひでえな、あんなとこに捨てられて』
…その顔も、声も、知ってるはずなのに、普段よりも甘い声のせいか、知らないように感じた。