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ひなの
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授業が始まった。いつも通りに。けど、僕の頭では、あの時の弦くんの悲痛な顔が、声が、ずっとぐるぐる回っている。授業の内容なんて、これっぽっちも入ってこない。
弦くんに謝って、説明しないと。頭の中では分かっている。けど、どうすれば弦くんが僕の話を聞いてくれるのか。全く分からない。
僕、弦くんのこと、理解してるつもりやったのに、まだまだやな。もうどう話せばいいかも分からへん。
〜昼休み〜
何人かが声をかけてくれたが、友達と居る気にもなれず、1人で過ごしていた。
どこかで、弦くんが誘ってくれるのを期待していたのかもしれない。
〜放課後〜
弦くんと帰った方がええんか。今日ずっと僕が思っとったことや。
まあ、誘うだけ誘ってみるか。あかんかったら、また日にちあけたらええだけやし。
僕は弦くんのクラスを覗いた。弦くんは……あ、おった。
僕は弦くんのそばまで寄って、声をかける
保「弦くん。一緒に帰ろ」
弦くんは僕の方を見て、長い前髪の下で大きく目を開いた。
鳴「保科…!?なんで…」
…保科呼びになっとる。
保「話したいことがある。やから、一緒に行こ?」
鳴「……っ!…お前と話すことなんてない」
保「僕はあるねん」
僕は弦くんをじっと見つめる。弦くんの表情からは、すごく思い悩んでいるのが見てとれる。
鳴「……嫌だ」
数十秒の逡巡の末、弦くんがぽつりと言った。
鳴「ボクは、もうお前とは関わらない」
弦くんが僕の目を見返す。その淡いピンク色の瞳には、強い決意と覚悟が宿っている。
保「…弦くんは、それで後悔せぇへんの?」
弦くんがはっとした。
保「僕は絶対後悔すると思う。やから、絶対に弦くんを説得する。弦くんが来てくれへん言うなら、ここで全部言うで?」
鳴「それは…」
脅しやと言われてもええ。卑怯やと言われてもええ。何を言われようと、僕は弦くんといたい。
鳴「…行くだけだぞ」
しばらくの沈黙ののち、弦くんが言った。
僕は心の中でガッツポーズしつつ、弦くんに言う。
保「よし。ほな行こ」
〜数分後〜
僕が弦くんを連れてきたのは、あのいつものカフェ。
カウンターの端っこに2人で並んで座る。
鳴「…で、なんだよ話って」
保「朝のことや」
弦くんの肩がぴくりとはねた。
保「…ごめんな、弦くんの気持ちも考えんとあんなこと言うて」
鳴「…別に、もういい」
…この「もういい」は許してるんやなく、諦めてるな。
保「僕は、アイツの味方をした訳ちゃう。弦くんが悪く言われるのが嫌やったんや」
鳴「…ボクが悪く言われる?」
まだ疑心暗鬼なのか、少し警戒しながら弦くんが聞き返す。
保「そうや。あれやと、あいつが弦くんを悪者に仕立て上げて第三者に言いふらす。そしたら弦くんは悪ないのに、なんも関係ない奴らから悪いヤツって思われるやん」
鳴「…それがなんだ。ボクが悪く言われようが、お前には関係ないだろ」
保「関係ある」
僕はハッキリと言い切って続ける。
保「だって僕は、弦くんの彼氏やから」
鳴「……っ//」
弦くんがふいっと顔を背けた。けど、耳赤いんは丸見えや。
鳴「お前っ、なんでそんなこと簡単に言えんだよ…っ//」
数秒フリーズしたあとの弦くんの声は、少し震えていた。恥ずかしいんやろな多分。
保「…簡単ちゃうよ」
弦くんがこっちを見た。
保「僕かて恥ずかしいわ」
鳴「…っ!じゃあ、なんで…」
保「僕は弦くんが好きやから」
鳴「……っ!///」
弦くんは驚いたまま、耳どころか顔、首筋まで赤くなった。そして、そのままカウンターに突っ伏した。
ほんま照れ屋さんやな
鳴「……宗四郎のバカ」
弦くんが呟いた声は、確かに僕の耳に届いた。
保「弦くん、こっち向いて」
鳴「…やだ」
保「なんで。顔見してや」
鳴「…無理だ。ボク今顔ヤバい」
…それが見たいんやけど
保「見してぇや」
鳴「……無理。恥ずい」
保「お願い」
鳴「……」
根負けした弦くんが、ゆっくりと顔を上げた。眉は八の字に下がり、頬、耳、首筋まで赤く染まっている。
僕は弦くんに手を伸ばした。
鳴「…っ!」
弦くんは一瞬びくっとしたものの、動かなかった。
僕の右手が弦くんの左頬に触れた。そのまま首筋に滑り下ろす。
保「……赤いな」
鳴「う、うるさい!」
口ではそう言ってても、全然嫌がってへん。
ほんま、猫みたいやな
保「…かわええ」
鳴「かわっ…!?ボクは可愛くない!」
保「かわええよ」
鳴「…っ//」
ほんまそういうとこやで。本人は絶対認めへんやろうけど。
鳴「…そ、宗四郎だって、可愛い…」
保「……は?」
鳴「…モンブラン食ってるときとか、ボクの話で笑ってるときとか」
今度は僕が固まる番やった。弦くんの言葉を理解するにつれ、顔が赤くなるのが自分でも分かる。
保「僕は可愛ない!」
鳴「可愛い」
そう言って弦くんは、僕と同じように右手を伸ばして僕の左頬にそっと触れた。
鳴「こうやって、すぐ照れるとことかな」
そう言って、赤い顔のままふっと笑う。その表情がいつもより大人っぽくて……
保「……っ//」
いつまでそうしていたんやろか。僕たちは、向かい合ってお互いの頬に触れたまま動けずにいた。
鳴「……さて」
そう言って弦くんが僕の頬から手を離す。
鳴「そろそろ帰るか」
何事もなかったかのように立ち上がる弦くんを見ると、何故か悔しくなってきて、咄嗟に弦くんの腕を掴んだ。
鳴「うわっ」
僕は、弦くんの首に手を回してぐっと顔を近づけ、勢いのまま唇を重ねる。
鳴「……!?」
弦くんは一瞬驚いた顔をして、すぐに僕の後頭部に手を当てた。
十数秒ほど経ったとき、ようやく弦くんが顔を離した。
保「はぁ…はぁっ…長いねん…!」
僕は荒い息のまま弦くんに言う。
鳴「先にしてきたのはそっちだろ。文句を言うな」
僕とは違い、涼しい顔の弦くん。
保「くっそ……」
めっちゃ悔しい。不意打ちやったし、弦くん照れると思ったのに…
鳴「お前にはまだ早い」
そう言ってぽんと僕の頭に手を乗せる。
保「なんで!同い年やろ!」
鳴「そういうことじゃない」
悔しくなった僕は、弦くんの耳元に口を寄せて、こうささやいた。
保「いつか勝つから、覚悟しいや」
弦くんの肩がビクッと跳ねた。
鳴「お前…耳はやめろよ…!」
お、耳弱いんや
鳴「ほら!帰るぞ!」
そう言って強引に話を切り上げた弦くん。ずんずん出口に向かっているが、耳が真っ赤や。
保「待ってや弦くーん!」
僕が追いついたときには、弦くんが会計を済ましてくれていた。
保「え、僕も出すのに」
鳴「いや、いい。宗四郎がボクのために連れてきてくれたんだからな」
かっこええな…さっきまで赤くなってた人のセリフとは思えんわ
保「ありがとうな弦くん。いつか奢らせてな」
鳴「お前が財布を出す必要はない」
保「え、でも…」
鳴「いい。ありがたく奢られておけ」
僕は渋々引き下がり、弦くんと並んでドアをくぐる。
外はもう暗く、少し肌寒かった。
鳴「……今日」
ぽつり、と弦くんが言った。
鳴「ありがとな、話してくれて」
弦くんは前を見たまま言った。
保「どういたしまして」
僕は笑った。弦くんが見てくれたかは分からんけど。
僕たちはどちらともなく、手を繋いだ。弦くんの手は、あったかくて、大きかった。
弦くんは、いつもどおりに僕の家まで送ってくれた。名残惜しそうに、弦くんの手が離れる。
鳴「じゃあ、また明日な」
保「うん。また明日」
そう言って、遠ざかっていく弦くんの背中が見えなくなるまで見送った。
今日のこと、兄貴に話そ。どんな顔して聞いてくれるやろか。
僕は、今日あったことを思い出しながら、リビングに向かった。
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みぅです🤍🥀 やっと仲直りできたね…!保科くんが「弦くんの彼氏やから」って言い切ったところ、胸がぎゅってなった。弦くんが照れてカウンターに突っ伏すのも可愛すぎるし、お互いに「可愛い」って言い合うシーンは尊すぎてやばかったです…。最後のキスからの弦くんの余裕ある感じ、めっちゃ良かった。甘くて切なくて、すごく好きな話でした🌙