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宏樹side
「…一旦距離を置いたはいいものの…いつどうやって話せば…っ」
やばい、その後のことを全然考えていなかった。
(敦くんに呆れられて破局とかしたら……いやダメだそんなの絶対だめ…!)
なんて不安になるけど自分から言った手前こちらから連絡はしずらいし…
そんなことを考えていたときだった
スマホのロック画面に表示される日付を見ると
今日は2月12日
あと2日でバレンタインデーなのだ。
しかもその日には
太齋さんの特集雑誌が発売される日で
前日の13日の昼の12時から
特典入りの別冊が数量限定で予約開始されるらしく、本当なら僕もそれを予約しに
太齋さんの店に足を運ぶはずだった。「だけど、距離置きたいって言ったのに、会いに行ったら意味ないし…雑誌だけ予約しに来ましたとか論外だよね……」
ワンチャン可能性があるとしたら誰かほかの友達に頼むか、変装して行くかだけど…
「はぁ……」
思わずため息が出る。
そんなとき、あっ!と声に出してとあることを思いついた。
「…敦くんのお兄さん…ハルさんに頼んでみようかな、多分今ホストクラブいるだろうし……時間もないし行ってみよう」
そして僕は急いでハルさんがいるホストクラブへと向かった。
店に入り、席に着く。
ハルさんを指名するとすぐにハルさんが出てきて
「えっ、宏樹くん?!」と驚いていた。
「急にすみません……あの、ハルさんに頼みたいことがありまして」
「え?なになに?宏樹くんがわざわざ来るって…」
「あ、あの……バレンタインデーの日に敦くんの特集雑誌発売されるんですけど」
「あー、あれか!うん、それで?」
「その前日に、また別のやつなんですけど特典入りの別冊が敦くんのお店で予約開始されるみたいなんですね」
「だからそれを、よかったらハルさんにお願いしたいというか……あっ、もちろんお代は出しますから…!」
「いい別にそんくらいお代なんて気にしなくて」
「本当ですか……?ありがとうございます……!」
「うん、あっ、でもさ、やっぱり自分で行かないのは、敦と喧嘩しちゃったから?」
「…そう、ですね。でも、一応話はしたくて…ただ、どんな顔して合えばいいのか、分からないんです…」
「そっか。なんかごめん、余計なこと聞いちゃったかな……?」
「あっいえ!全然……!…話さないといけないなってのは分かってるんですけど、あんな怒ってる敦くん初めて見て…」
「あーなるほどね?」とハルさんは何か納得したように頷いていた。
「……あのさ、宏樹くん。もう、敦のこと嫌いになったりした?」
突然ハルさんにそんなことを聞かれて
思ったことを口にする。
「……嫌いとか、そういうんじゃないんです。もちろん、好きですよ。」
「ただ…その、敦くん、まだ怒ってるんじゃないかと思って…」
「うーん、まあ、怒ってるんじゃないかな。自分自身に」
「え?自分自身?」
「うん、そう。宏樹くんに最低なことした自覚あるみたいでさ……まあ、続きは本人の口から聞くのが1番だと思うよ」
ハルさんの言葉を聞いて
「そう、なんですね」と、言葉を紡ぐ。
「ま、とりあえずさ、宏樹くんも仲直りしたいと思ってるなら、会って話してみないとね」
「……はい、それが1番ですよね」
翌日────…
いつも通り、大学に向かって歩いていると
後ろから声をかけられた。
「おい、ひろ!」
振り返るとそこにいたのは瑛太で
案の定
もう約2週間前の出来事になる写真のことだった。
「俺の方は、まあ怒ったハルに抱き潰されただけで済んだけど…お前ずいぶん距離置いてるらしいじゃねぇか」
「な、なんでそれを…?」
「ハルが、敦からそう相談があったって聞いてな。特定の相手が居なかった頃みたいに酒に明け暮れてるとかなんとか…言ってたが」
「お前、太齋さんとなにかあったんだろ?」
「……うん、車の中で抱かれて泣いてもやめてくれなくて…正直それは良かったの、SMのときと変わんないし」
「相変わらずのドS兄弟ってとこか。…したら、他に理由があんだな?」
「名前、呼んでくれなくて…怖くて突き飛ばして、そのまま逃げちゃって…」
「……っ」
なんて言えばいいか分からずに口篭っていると
瑛太は大きくため息をついた後に口を開いた。
「大学終わったらすぐあの人のとこ行け、あの人のことはハルが説得してるだろうし、俺にも責任あるわけだしな…とにかく話し合ってこい」
「でも……っ」
「いいから行け、あの人はお前と仲直りしたがってたってよ。お前だって、聞きたいことあんじゃねぇのか?」
「……っ、わかった、ごめんありがとう」
そんな会話を交わし、大学の講義を終えると
重い足取りで太齋さんのマンションに向かった。
路面はツルツルとしていて滑りやすく、足を持っていかれそうになりながらも
ツルツル路面を滑らないように気をつけて走る。
しかし、チャイムを鳴らしても太齋さんが出てくるような気配はなくて。
出かけてるのかな、と思い
太齋さんが帰ってくるまで家の前で待っていようと玄関前で立ち尽くしていたが
探しに行って、一刻も早く会いたい…
そう思って、雪が舞う冬景色を無視するように煩わしいフードを被らないで
ただ只管に太齋さんを探し走った。
始めにショコラトリーに行ったが
看板は既にCLOSEとなっていて、別のところに行こうとしたときだった。
突然、横を黒い車が通り過ぎたかと思えば、
僕の横で止まり
ミラーが開いて、声をかけられた。
「あれ?宏樹くんじゃん」
それは瑛太の彼氏であるハルさんだった。
「え、ハルさん…どうしてここに?」
「僕は今から瑛太と、ね。…宏樹くんはそんな急いでどうしたの?」
「…その、敦くんを探してたところです」
「なるほどね…車乗ってく?てかコート羽織ってるだけじゃもうそろ寒くなるよ…?」
「いや、大丈夫です!やっぱ自分で会いに行かなきゃなので…まあ、あんなに無視したらもう嫌われたかもしれないですけど…気遣ってくれてありがとうございますっ」
それだけ会話すると、僕はハルさんにペコッとして走り去り
太齋さんがほかに行きそうな場所を転々と探し回った。
いつも買い出しに行く業務スーパー
惣菜やお菓子コーナーを見回ってもいなくて
最寄り駅周辺にもそれらしき姿は見当たらない
もう躊躇なんてしていられない、と思ってダメ元で太齋さんに電話を掛けてみるが応答することはなく。
小中学生のころ、よく太齋さんの作ってくれたスイーツを一緒に食べていた
懐かしき公園に行っても
さすがにこんな雨の中遊んでいる子供なんていなくて
目に映るのは雨がポツポツと降って濡れている遊具やベンチだけ。
会いたくて会いたくて仕方がなくて
角から飛び出してきてくれないかなとか
ありもしないことを妄想しながら道を駆け抜ける。
(これだけ探しても見つけられないなんて…電話も出てくれないし…)
そんなことを考えながら、結局太齋さんのマンションの前まで戻ってきてしまったとき
突然後ろから「ひろくん」と強い語気で呼び止められた。
今一番聞きたかった声だ
聞き間違えでも幻聴でもない
振り向けばそこには傘をさして、白い息を吐く切羽詰まった様子の太齋さんが立っていた。
僕が近づく前に太齋さんの方から駆け寄ってきて
無視したこと謝る?
距離置きすぎてしまった子も謝る?
何から言えば…と戸惑って
「…っ、ごめんなさ」いと言おうとしたのに、気付くと僕は太齋さんに抱きしめられていた。
その拍子に太齋さんは差していた傘をそのまま地面に落とす
「え、あ…あの……っ」
「ごめん、ごめんね。ひろくん」
なんて言いながらも太齋さんは僕を抱きしめたまま離してくれない。
それどころかどんどん強くなっていく。
「ちょ、ちょっと苦しいです……!」
と訴えるとようやく解放してくれた。
「し、しゅんくん今までどこに…僕、色んなとこ探して…家にも行ったのに、でもどこにもいないし、電話も…!」
「ごめん、携帯充電切れてて、さっき家にいたんだけど寝てて気づかなかったのかもしれない、それでハルからひろくんが俺の事探してるなんて連絡来たから急いで俺も探してたんだ」
「ねぇひろくん、俺……ずっと仲直りしたかった」
そう言って見つめてくる彼の瞳には不安の色が滲んでいた。
「僕も、同じです…っ、ずっと話せなくてごめんなさい…」
「ううん…とりあえず俺の家入ろ?お風呂も貸すから、その後に、話したいことがあるんだけど、聞いてくれないかな」
「…わかりました。僕もあるので、しゅんくんと話さなきゃいけないことが」
そうして僕は太齋さんと家に入って、お風呂を使わせてもらい
一通り済ませてから、寝室のベッドに横並びに座って話をし始めた。
先に口を開いたのは太齋さんだった。
「正直瑛太くんと楽しそうにしてるひろくんの写真みて凄く嫉妬した…それで気持ちが制御できなくて、ひろくんは俺のものだって気持ちでいっぱいになって…」
「しゅん、くん……」
「……でも、ひろくんが嫌がることはしたくない。そう思ってたのに……ひろくんの話も聞かずに一方的なことしてごめん」
そう言って太齋さんは僕の手をぎゅっと握ってくる。
その手は少し震えていた。
僕はそんな彼を安心させるように言葉を紡いだ。
「僕の方こそごめんなさい、嫌な思いさせて、逃げちゃって」
「いや、俺が全面的に悪いから。ひろくんは悪くないよ」
その言葉に胸が締め付けられるような感覚を覚えて、僕は思わず太齋さんの手を握る
「っ、ひろくん……?」
「……距離置いたこと、後悔してたんです。本当はちゃんと話すべきだったのに、まだ怒ってるんじゃないかとか嫌われたんじゃないかとかいらないことばかり考えて、しゅんくんを見ようとしていなかった」
「それは俺が怖がらせたからでしょ…俺のせいだよ、俺さ…ひろくんのことになるとどうもダメになるんだ」
太齋さんは俯きながら、独白し始める。
「俺の取り柄なんて顔ぐらいしかないし、親に愛された記憶もないしで、そんな中で、片思いしてたひろくんが俺のこと好きになってくれて両思いになれて、好きになったときより付き合ったときの方がさらに独占欲湧いてきちゃって」
「俺以外の男と楽しそうに笑ってるの見るだけでもムカッとしてきて、暴走した。本当にガキみたいなんだけどさ」
太齋さんがこんなに弱音を吐いているのは初めてだ。
いつも余裕そうな笑みを浮かべていて
僕だけが子供のように嫉妬していたはずなのに。
「最低なことしたって思ってる……傷つけないって言ったのに、本当にごめん」
「し、敦くん…一旦落ち着いて…!僕が嫌だったの、それじゃ、ないから……」
そう言うと、太齋さんは再び顔を上げた。
「え……っ、あ、あんな無理やりしたのに…?」
「そ、それより、僕は名前を全然呼んでくれないことが、怖かった、だけで……」
僕の発言に、太齋さんはキョトンとした顔を見せる
「え、な…名前?」
「だって俺と距離置きたいって言ったの俺が無理やりしたのが理由なんじゃ……?」
「そ……れもあるけど……そっちはゾクゾクした方が強くて…っ」
「え……っ」
「それより……僕、しゅんくんに名前呼んでもらえないことがなにより怖くて仕方なかったんです」
「そ、そうだったの……?」
「…敦くんの、好きな人の声が聞こえないって、目隠しされるより怖いんですよ」
僕はそう言うと、太齋さんの服の袖をギュッと握る。
「その、敦くんと距離置きたかった理由って、実はそれなんです。いつも優しく呼んでくれるあの声が、響きが好きなのに、まるで僕なんて見えていないみたいで…それで……」
「っ、ひろくん……それは、ごめん。不安にさせた、怖がらせたよね」
「…でも、謝らなきゃいけないのは僕も同じですから」
「…え?」
「LINEも見ないで、敦くんのこと蔑ろにするみたいことしちゃったんだって後から気付いて、傷つけちゃったから……本当にごめんなさい」
「……ううん、俺の方こそごめんね。俺のせいでこんな思いさせて」と太齋さんはまた謝ってくれた。
「でもさ…これじゃ、ひろくんの元カレと変わんないよね、俺。」
薄ら笑いする彼の手をさらに強く握って、僕は言った。
「そ、そんなことない!しゅんくんはいつも僕のこと考えてくれて優しい人だから…っ、ただ、昨日はいつもみたいにひろともなんとも呼んでくれなくて怖かっただけで…もう仲直りも今したじゃないですか…!」
「でも、分かるでしょ…?俺、歪んでるって」
「……歪んでてもいいです…」
僕がそう返せば太齋さんは忠告でもするように言ってくる。
「いや、そんな簡単に…キレて恋人抱き潰すとか、ましてや少し前までセックスに抵抗持ってた恋人に無理やりするような男だよ」
「そんなの、敦くんだからいいんです…!敦くんだから、もっといじめてほしくなるし、愛されていたいし、名前だって飽きるまで呼んで欲しいし、僕はどんなしゅんくんも好き……僕をこんなふうにしてくれたのは敦くんなんです…から」
「……っ、また似たようなこと起きたら、多分俺ひろくんに嫌われちゃうよ。」
「ひろくんのこと大切で、愛おしくて、好きになればなるほど正しい恋人で居れなくなるの。どうかしてるって自分でもわかってんの…」
「正しさ……だったらそんな正しさ、いりません」
「なんでそんなこと…っ」
太齋さんの指に手を絡めて
手の甲と手の甲を合わせて恋人繋ぎにして
ガッチリと握りながら太齋さんの顔を見て言う。
「だって、敦くんが歪んでるというなら、僕だって歪んじゃいましたよ」
「どこが…?」
「こんなこと言ったらまた怒られるかもだけど…敦くんが怒ったとき、胸がキュンってして、もっと怒られたくなっちゃった…なんて」
「なっ、なに、それ」
太齋さんの顔を見れば耳まで赤くなっていて
こっちまで伝染しそうになるけれど
僕は言葉を続けた。
「僕は、多少強引でも僕のことをいつも一番に考えてくれて、嫉妬魔なところもある敦くんが自分でも恐ろしいほどに好きなんですよ……っ」
「……本当、に?」
「はい…っ、それに……元はと言えばしゅんくんが、好きにさせたのに…今更、別れるなんて無理ですから…っ」
「敦くんは…もう僕のこと、嫌ですか……っ?」
「……っ、!俺だって、ひろくんのこと同じぐらい…いやそれ以上に好きに決まってんでしょ…っ」
「今更幼馴染に戻るなんて…無理に決まってるし」
「…ひろくんのこと、何があっても手放したくないほどに好きだよ…」
「だからひろくん……嫌なとこあったら治すから…まだ、どうか俺の恋人でいてくれない……っ?」
泣く5秒前みたいな酷く掠れた声でそう聞かれる。
「っ、当たり前じゃないですか……僕も、敦くんに嫌な思いさせたくないから、嫌なことあったら言葉で教えて欲しいです…」
「だから、そんな泣きそうな顔しないでください…イケメンが台無しですよ……?」
なんて言いながら太齋さんの顔を両手で包み込む。
「ふふ……そういう、ひろくんが泣いてんじゃん…」
そう告げると太齋さんは僕を抱き寄せて、そのままベッドになだれ込む。
「ひろくん、ありがと、好き、ほんっと大好き……次からはあんな抱き方しないから」
「僕も大好きです……敦くんのいない生活を考えられないぐらいに…っ」
そう言うと、太齋さんは僕を更にぎゅっと抱きしめてきた。
その体温はやっぱり心地よくて僕の心を落ち着かせる。
そんな会話を交した後に
「久しぶりに、キス…してくれませんか」
抱きついたまま太齋さんの顔を見上げお願いすれば、彼は少し照れたように微笑んで
「俺もしたかった」とそっと唇を重ねてきた。
「ん……っ」
触れるだけの優しいキスは、段々啄むようなキスへと変わって
深くなっていくそれに頭がぼーっとして、とろけそうになる。
(やっぱりしゅんくんじゃないと嫌だ)
そんなことを思いながら太齋さんの背中に腕を回した。
「ひろくん……」
「しゅん…もっと、キスしたい…」
太齋さんは僕の言葉を聞くとまた唇を重ねてくる。
今度はさっきよりもっと長く深いキスで
舌を絡め取られ、歯列をなぞられ
その度に、久々のキスに体がビクビク震える。
(気持ちいい……)
夢中でキスに応えていると、太齋さんの手が伸びてきて僕の首筋を撫でる。ぞくりとするとほぼ同時に彼はさらに激しく口内を犯してきた。
頭がクラクラして何も考えられなくなりそうになりながら唾液の交換を繰り返した。
解放された頃にはすっかり蕩けてしまって、太齋さんの肩に顔を埋めた。
太齋さんはそんな僕を見て満足そうな笑いをこぼして
「ひろくん……好きだよ」と囁いて
僕の頭をいつもの暖かい手で撫でてくれる。
僕はそれを受け入れるように「僕も…大好きです」と言うと
また太齋さんが耳元で吐息を漏らして囁いてきた。
「ねぇ、ひろ。今から…仲直りのえっちしよ?」
僕はその甘ったるい声と言葉に耐えられなくて
「はい…喜んで」と返して
太齋さんの手に自分の指を絡めて
ぎゅっと握ると
周りの音がすべて消え、二人の鼓動だけが聞こえるようなキスを交わした────。