とある日の朝、ポートマフィアに所属する中原中也は、いつものように身支度を終え、ポートマフィア本部の森鴎外の元へと向かっていた。森さんに新しい命を受けるためである。重厚感のある戸の前に立ち、名を名乗ると、開いた扉の奥には、珍しくエリスと戯れず、椅子に腰掛けていた森さんの姿が見えた。
「中也君、よく来てくれたね。」
「何か新しい任務でしょうか。」
「いや、そうじゃなくてね。君は既に知っているかもしれないが、」
───太宰君が離反した。
その言葉が耳に入ったや否や、中也は手を机に思い切り叩きつけ、身を乗り出して怒鳴った。
「あの太宰が、離反、だと…!?」
「あぁ、そうだとも。理由はおださくに言われたから、だそうだ。」
「そんなこと、一言も…」
太宰の相棒として15歳から共闘してきた中也は、自分だけが太宰の理解者でいる気になっていた。汚濁を使う度に命を預けてきた事も、幾度か身体を許した事も、全て自分だけが彼の理解者でいられると信じていたからで有った。
唇を噛み締めた中也を見兼ねて、森さんが口を開いた。
「…それで、中也君。君には太宰君の代わりに幹部を務めて貰いたいのだが、どうかね?」
「…はい、了解しました。」
その時の中也には、一応は太宰の代わりとして認められたという安堵感と、太宰が居ないということを今一度突き付けられた空虚感で入り乱れていた。
中也は森さんの部屋を出るや否や自分の部屋へと駆け込み、歯を食いしばって涙を溢れさせた。
せめて、せめて一言でも相談してくれれば、伝えてくれれば良かったじゃァないか。そんなに俺は手前にとってどうでも良い犬に過ぎなかったのかよ───
最悪の日から数年が過ぎた時、中也の家のインターホンが鳴った。中也の家に人が来ることは、まさに太宰が最後、数年ぶりである。
「こんな夜分遅くに何方様だァ?」
覗き穴を通して外を見れば、其処にはあの離反者が突っ立っているように見える。あまりに現実とはかけ離れたその光景に、中也は思わず化石してしまった。
「ちゅうや〜、突然で悪いんだけど、泊めてくれない?」
なんと云うことだ。此方は太宰が何も言わず離反したことに酷く腹を立て、この数年、心に大きな穴が空いたような感覚でいたのに。此奴は2年ぶりに再会したにもかかわらず中也のの家を宿扱いし、呑気に訪ねて来たのだ。
「…糞太宰っ、死なす!」
「そんなこと云わないでおくれよ〜、ね、お願い♡」
太宰の事を散々恨んでおいて結局は家に上げてしまう。中也は相変わらずどこまでも太宰に甘くなってしまうようだ。
「それにしてもちゅうや、数年ぶりに会ったのに全然変わらないねぇ。背も小さいままだし。」
「あぁ!?どういう意味だ手前ェ。」
太宰との久しいやり取りにむず痒さを感じながらも、中也は此処数年ずっと納得いかずにいたことを尋ねた。
「…何故離反した。」
「んー?おださくが言ったからって、森さんに言われなかった?」
「言われたが…納得いかねェ。」
「もうあれから2年も経ってるのにまだ納得いかないって…ちゅうやは相変わらず頭が固いねぇ。ぷぷぷ。」
「あァ?」
「まぁ、それ以上もそれ以下もないよ。ただ、おださくにそうしろって言われたから離反しただけさ。」
「何で俺には何も言ってくれなかったンだよ、泣けちまうなァ。」
「別に言う義理もないでしょう?それにちゅうや、絶対止めるじゃない。」
「…そうか。それもそうだな。よく分かってンじゃねェか。」
その言葉が、中也の胸を締め付けた。相談も無しに離反された時から察してはいたが、本人の言葉で云われるのは訳が違う。中也は唇を血が滲む程強く噛み締めた。こんな離反者に振り回されるのは、もう御免だ。
「俺はそこらで宿でも探すから、手前はこの部屋を使ってろ。」
「はぁ?なんでそうなるの。この時間は宿なんて見つからないし、今まで一緒に寝てきたでしょ?」
「手前みたいな離反者と誰が寝るか。」
「何それ。私をわざと怒らせようとしてるのかい?」
「っ!…はっ、俺はただ本音を言っただけだがなァ。」
鋭く光る琥珀色の瞳に中也は怯んだが、わざと太宰を挑発しようと持前の三白眼で睨みつけ、自ら煽る言葉を吐いた。何故俺にこんなことをするのか、と太宰の本心を聞き出す為だ。中也は太宰にペット扱いされている事は重々承知していたが、それでもこんなことをするのには理由があるだろうと、少しだけ期待をしてしまっていのだ。幸い太宰は珍しく挑発に乗ったようで、中也の手首を掴み壁に縫い付けては、2人の唇を重ねた。中也が息をしようと口を開くと、その隙間から太宰の舌が入り込み、口内を蹂躙する。すると中也は更に息が出来ず、蕩けた顔で太宰を見つめた。
「口付けだけでこんな風になってしまって、ちゅうやは本当に淫乱だね。」
「っ違ぇよ莫迦!これは手前が…」
「私が?」
何時もなら中也の言うことを真面に聞かず盛ってくる太宰だが、都合のいい時だけ中也に強請らせるのが趣味らしい。中也は口を開くことでさえ億劫だったが、いっそこのまま大胆に誘ってしまえば太宰は振り向いてくれるのだろうか、なんて考えてしまう。
「手前が、俺がこんなになるまで犯したんだろうが。責任取れよ莫ァー迦。」
「そうだね。ちゃんと言えて偉い、流石私の犬。」
「俺は犬じゃ、ねェ。」
「折角私が恋しくなった中也のために来てあげたんだから、釣れないこと言わないで♡」
矢張り、中也は太宰に犬としか見られていなかったらしい。何が「来てあげた」だ。普段からこんな扱いなのだから、離反する時に何も言わなかった事にも頷ける。それが解った上でも尚中也の心には傷が付くのだから、不思議なものだ。
太宰は中也を軽々しく持ち上げ、シングルベッドへ降ろした。
「ほら、シャツ捲って見せて?」
中也は自分の手でシャツの裾をかき集め、それを口に咥えた。口に咥えたのは、何時も太宰が言ってくるからというのもあるし、何時太宰に腹が立っても、右ストレートを御見舞できるようにする為。でもあるが、一番の理由は自分の気持ち悪い声が出るのを防ぐ為である。
「ん、ふ、ぅ」
「可愛い。今のちゅうや、女の子みたい。」
「そこばっか、やめろ、!」
胸の突起を入念に触ってくる手がもどかしく、中也は苛立ちを感じ始めていた。然し中也が何度止めろと言っても太宰は止まることを知らない。中也の下腹部が先走りで濡れ、硬度を持っていることに気付いた太宰は左手を反り勃った竿に添わせ確かめるように擦りながら、空いた中也の胸板に顔を近づけ、舌を使ってぷっくりと腫れた其処を舐めた。
「なんだが、見ない内に中也の此処、大きくなった?」
中也は太宰から目を逸らし、顔を顰める。その顔を見た太宰は意地悪に微笑み、口付けをする様な距離まで中也に詰め寄った。
「若しかして、1人でシたの?其れとも、新しいこういうお友達が出来たのかな…?」
「っ、んなのいねェに決まってンだろ。」
「じゃあ、1人で?」
「……」
中也が強く唇を紡ぎ、顔を赤らめる。此の数年間、中也は男であるが為に適度に射精は必要な事な訳で、其れ迄太宰に散々雌にされてきた中也は、普通の刺激ではもどかしいだけで。要するに、中也は今迄自慰の度に太宰に触られた処を思い出しながら1人で乗り切るしかなかったのだ。中也はしょうが無いだろ、と羞恥心に涙を浮かべながら、目線で太宰に文句を云う。然し、その顔は返って太宰の奥深くにある欲を掻き立ててしまったようだ。
「やって見せてよ」
「は、はぁっ!?手前がいるのにやる訳ねェだろ!」
「あれ〜?中也、私にそんな口聞ける立場だったっけ?」
「っ、死なすっ…」
中也は恐る恐る両手で自分の竿を握り、ゆっくりと擦り始めた。何故太宰が離反した今も此奴に従っているのか、中也本人も解っていない。中也の脳内には、既に太宰との上下関係が刻み込まれて、二度と戻らないのだろう。
「ん、ぅくっ、ぁ、太宰っ、!」
「へぇ。そうやって何時も私の名前を呼びながら両手でしているんだね。」
「誰が手前のことなんか、」
「でも、今呼んだじゃない。」
太宰に言われたことは図星なのだが、認めたくない中也は言葉を濁す。手のひらで亀頭を包みながら、もう一方の手でそれ以外を擦ると、中也の手は透明な液体で濡れ、その羞恥心から目は潤み、物欲しそうに太宰を見つめた。
「ちゅうや、後ろは使ってくれないの?此処、寂しそうだよ?」
「何時も使わねェから、「その割には緩いように見えるけど。」
太宰が指した其処は、何度も太宰を受け入れた故に竿を擦る度収斂を繰り返し、快楽を求めていた。何時も使わないなんて、全くの嘘だ。中也が自慰行為をする時は前を疎かにして後ろだけで果てることの方がよっぽど多い。太宰はそれを解った上で指摘したのだろう。
「ほら、見せて?中也が私の名前を呼びながら、後ろで沢山啼くところ。」
中也は本音太宰にこんな見苦しい様を見せるつもりは無かったのだが、彼の欲も限界を迎えているらしい。先程から1度も果てていないのが良い証拠だ。中也は自らの口に指を入れ、唾液を絡ませてから、つぷり、と後孔に指を入れた。1度入れると指は止まることを知らず、竿を握るはずの左手も疎かになり、行き場を失っていた。性器からは先走りがとろとろと垂れ、太宰は其れを見つめるだけで手出しはしてこない。
「ぁ、太宰、太宰っ、ん、」
「ちゅうや、えっちですっごく可愛いよ。」
可愛いなんて、俺に使う言葉じゃないだろ、なんて心は素直に受け止められないが、体は何処までも正直だ。太宰に可愛いと言われる度に中は嬉しそうに指を締め付け、太宰を欲しがってしまう。その事実は余計に中也を煩わせ、太宰への想いが大きくなっていく。
─────俺がどんなに太宰好きになっても、太宰は振り向いてくれないのに。
「えっちゅうや!?泣いてる…?」
「あ…?」
気付けば中也の目からは涙がポロポロと零れ落ちている。中也の泣き顔なんて見たこともなかった太宰は、少なからず動揺しているらしい。
「…泣いてねェ。」
「厭々、どう見ても泣いてるでしょう!?そんなに厭だったんなら早く言ってよね…」
違う、そうじゃない。何年も相棒だったのだからこれぐらいは察して欲しい、なんて願いは届くはずもなく、太宰は呆れたような素振りで遠ざかっていく。どうやら伝えたいことは言葉にしなければ伝わらないらしい。
「太宰っ、行くな…行かな、で」
「…もう、ほんとちゅうやって狡いよね。」
獲物を喰らう獣のような、鋭い瞳が中也を捉え、唇を重ねる。太宰がスラックスのベルトを緩め、反り勃った物を顕にすると、中也はうっとりと息を漏らした。久しぶりの其れを中也は愛おしそうに見つめ、柔らかい指で撫でると、自ら其れを自分の後孔に宛てがう。
「もう…何でそういう可愛いことするかなぁ。 」
「あっ!?待っ、激し、ぁ♡」
卑猥な水音を立てながら太宰が中也を貫いた。前立腺を押し潰される度に目の前がチカチカし、中也の口からは嬌声が漏れる。シーツを掴み、逃げようとする中也だったが、太宰に腰を掴まれ、返って奥へと侵入されてしまった。
「や”、ぁ 奥やだぁっ♡ イっちゃ、〜〜ッ!」
「久しぶりにしては刺激が強過ぎちゃったかな?私、まだ暫くは我慢出来そうなんだけど。」
「待っ、未だイったばっか…!」
中也が1度絶頂を迎えても太宰は止まることを知らずに結腸の手前を突き上げる。許容範囲を疾うに越えたその刺激に、中也は頭を真っ白にさせて喘ぐことしかできなかった。
「ねぇちゅうや、此処、出していい?」
「ぁっ♡も、好きに、しろっ、ん”ぁ、ぁ〜〜♡」
太宰は吐息混じりの妖艶な声と共に、中也の最奥に精を吐き出した。それに応えるように中也は2度目の絶頂を達し、喉を反らして痙攣している。奥に吐き出された熱を中也は酷く愛おしく感じ、思わず太宰を抱き寄せ呟いた。
「太宰、すき……」
「っ!!」
目を見開いて此方を見つめてくる太宰の顔を見て、中也は回らない頭で現状を理解しようとする。確か今、太宰を手で引き寄せて、それで…。其の瞬間、中也の頭は覚醒し、冷や汗が頬を伝う。このままいくと、中也は太宰との関わりを断ち切られてしまうのでは、と内心焦っていたのだ。
「ちがっ、今のは「先の、もう一回言って。」
「は…?手前、この期に及んでまで俺を莫迦にしようっていうのか!?」
「私は至って真面目だけど?」
中也は太宰の思考が読めなかった。もう一度あの気持ち悪い台詞を言うなんて公開処刑其の物である。それなのに太宰の瞳は真摯に中也を見つめ、その視線に中也は顔を熱くし、目線を逸らした。
「因みに、私は中也のことを愛しているよ。」
「は、え…? 」
「中也は?」
「……俺もだよ。莫ァー迦。」
中也が落としていた目線をあげると、太宰と目が合い、この後の流れを知っていたかのように自然に唇を重ねた。「これからも俺ン家、来てくれるか?」なんて恥ずかしい事を聞けば、「勿論」と即答されて中也の熱は更に上がる。
「ね、ちゅうや。私、まだシ足りないのだけど。」
「太宰がそんなにシたいんなら、付き合ってやっても善いぜ。」
「可愛くない返事だなぁ。」
「文句あっかよ。」
太宰と中也は再び唇を重ねた。双黒の夜は未だ未だ長い。
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カワイイッッ🥹🥹