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「なんかあった?」
そう聞かれて焦ったように「別に」と答えた
どうしてこうも鋭いのか、と頭を唸らせているとくずぅ?という声とともに叶の顔が目の前に現れた
「うぉ!?」
と、とっさに後退りした行動が不服だったのか、「そんなに嫌い?」と悲しそうに呟く叶
「別にそんなことねえし…」
俺にはそこまでしか言えなかった
この関係が崩れるのが怖かったから
「ふーん?ま、僕のこと好きなのは知ってるけど〜」
まただ、こいつはいつも俺を弄ぶ
いっそのこと「そうだよ」とでも言って、 動揺した叶に冗談だとからかってやろうかと何度も思った
でもそれをしてしまった時に今の気持ちを成仏させる方法を、俺は知らない
だから、今日こそは伝えなければいけない
後悔しないように
「頑張れ、俺」
叶に聞こえないように呟いた
昨日作ったあれも持ってきたものの、いつ渡すか、どうやって渡すか、断られたらなんて言うかを何も決めてなかった俺は 1日中そわそわしたままで、スタッフさんにも何かあったのかと心配されてしまった
「葛葉〜もう終わったけど、大丈夫そう? 」
そう叶に声をかけられ、打ち合わせが終わっていたことに気がついた
「あれ、何してたっけ」
何も考えずに発した返答に、自分でも驚くほど頭が働いてないことを感じた
こんな状態でまともな告白ができるのだろうか
またぐるぐる考えを巡らせていると、顔に冷たい何かが触れた
それが何かを理解した時俺の中で何かがぷつん、と切れた
「え、葛葉…?」
俺の顔に触れていた叶の手を取り、壁に押し付ける
「あのさ、そーゆーの全部計算でやってんの?」
「俺のことなんだと思ってんだよ」
「相棒としか思ってないんだったら、頼むからもうやめてくれ」
バッグからあれを取り出して叶の胸に押し付ける
「、、本命だから」
そう伝えた途端、視界が滲んでいく
雫が落ちる前にこの場を去らないとと思い、部屋を出た
このまま帰る気にもなれず、近くの公園に寄った
だんだん落ち着いてきて、さっきのことがフラッシュバックする
「やっちゃった、よな…」
あいつの体温を知るのは俺だけでいい
他の奴らには知られたくない
顔を包まれた瞬間、なぜかそう思ってしまった
もっとロマンチックに渡すはずだった
ちゃんと好きだと伝えるはずだった
本命だと言えばきっと叶は理解するだろう
でも、そんな回りくどい言い方じゃなく、素直な言葉で伝えたかった
「はぁ、これからどうしようかな」
さっき感じた冷たさとはまた違う冷たい風を頬に感じながら空を眺めていたら
「ここにいたんだ」
大好きな声が聞こえた
できれば今は会いたくなかった
泣き腫らした顔を見られたくなかった
わざとその声に背を向ける
「言い逃げって嫌いなんだよね」
トゲのある言い方とは裏腹に、柔らかな温もりを感じた
抱きしめられてる…?
「ちょ、なにしてんだよ!」
その手を解こうとするも、力が上手く入らない
「こーら、逃げようとしないでちゃんと最後まで言ってよ」
あれだけじゃ分からないなーととぼける叶
手のひらで転がされてるのはわかってるが、 ここまで来たらもう怖いものなんてない
「、、すき」
言った、ついに、言った
ありえないくらい心臓がうるさい
少しの沈黙の後、 目の前に小さな箱が出された
「本命だよ」
という言葉と一緒に
それだけじゃ分からない、と叶と向かい合うように立つ
「ふふ、僕も好きだよ」
その言葉は俺からの口付けに溶けていった