「馬鹿だなぁ夢ばかり見て!」
あぁ、そんなまさか。
全部…全部夢だったなんて…
「今日は何枚だ?」
「何枚でも良いだろ、取れるだけ取れよ」
痛い痛い痛い。
暗い、寒い、怖い。
「「「「アハハハハハハハハ!!」」」」
人間は怖いよ。
助けて、らだおくん…!!
「イヤッ…!!」
「みどり!!」
バチっと周波数を合わせた古いラジオのように、ぱっと情報が入り込んでくる。
「…ユ、メ……」
「みどり、大丈夫…?」
「ラダオクン…」
心配そうに眉を寄せる姿に、困らせてしまったと思いつつも心の底からホッとした。
さっきのは悪い夢で、こっちが現実だって。
「嫌ナ夢ダッタ…」
何も言わずに両手を広げたらだおくんの胸に擦り寄ってそっと目を閉じる。
トクン、トクン、と一定のリズムで聞こえる心音に意識がゆっくりと沈みそうになった頃、らだおくんの声が空気を揺らした。
「あのね…みどりに言ってなかったけど、俺さ……その、人外なんだよね…青鬼なの」
「ソウ…ソレデ?」
「えっと、だから……何言いたいんだっけ」
顔を見ようとすると、大きな掌で視界を塞がれてしまった。
指の隙間から一瞬見えたらだおくんは、少しだけ泣き出しそうに見えた…たぶん。
「俺トハ、モウ一緒ニイラレナイ?」
「そんなわけない!……ねぇみどり?」
「ナァニ?」
俺より大きな手に指を絡めながら首を傾げると、視界を塞いでいた掌がゆっくりと退けられて、優しく笑ったらだおくんが見えた。
「俺と、ずっと一緒にいてくれる?」
「…イイヨ!」
俺の返事にラダオクンがニコッと笑みを浮かべると、まるで「ちょーだい」と言うように掌を差し出した。
「?」
「恩返し、受け取らせてくれる?」
「…!!」
パッと立ち上がって棚の隅っこに隠していた恩返しの品を取り出す。
魔竜から取れる鱗に、魔龍の魔力を注ぎ込んだめずらしい代物。
「ハイ、アゲルー!」
「ありがとねー」
随分と前に作ったにもかかわらず、キラキラと虹色の光彩を纏っていた。
恩返しは終わった。
長いような、短ような…なんだか初めの頃が懐かしく感じる。
「…」
そんな思い入れのある品を大事そうに握りしめると、らだおくんは飴玉を飲むようにゴクンと飲み込んでしまった。
「あーむっ」
「!?」
まぁ、あげたものをどう扱おうがその人の勝手なのだけど…ちょっと心臓に悪いかも。
あと体にも悪そう。
「んふ。みどり、こっち来て」
「ン?」
手招きするらだおくんに首を傾げながら、より近づくと、グッと手を引かれてバランスを崩した。
「ワッ…」
手際よく分けられた前髪。
視界いっぱいに映るらだおくんの鎖骨。
おでこに触れた柔らかい感触。
首の周りにできた淡く光る模様。
「ラ、ラダオクン…?」
全てが一瞬すぎてよく分からなかったけど…
首を一周しているこの首輪みたいな模様。
今はもう見えないけど、あれは確かに魔竜の扱う魔力だったような…?
「よろしくね?みどり」
らだおくんの言ってた“ずっと”って…
“よろしく”って……
まさか…
「大人になるまでは待っててあげるね?」
混乱する俺を他所に、らだおくんは呆けた俺の頬にちゅっ!とキスをした。
「………エッ!?」
心臓がドクリと音を立てたのは、きっと悪い夢を見たばかりだからだ。
…たぶんね。
ー ー ー ー ー
Fin…?
ー ー ー ー ー
魔竜の鱗に魔力を込めると、どんな傷もたちまち癒す幻の宝石になる。
魔竜はそんな貴重な鱗を、生涯においてたった一度だけ作り出すらしい。
「いつから思ってたん?」
「え?」
「どりみーの事。保護者枠やったやん」
「んー…最初から、かな?」
たった一人の伴侶に向けた、愛の証。
幼いみどりが意味もわからず渡そうとしたそれに、俺は舞い上がってしまった。
それでも我慢して、遠慮して、外堀を埋めていって……
「ンンン…」
「ふふっ」
意識すればみどりの首筋にぼんやりと浮かび上がる淡い光の模様。
魔竜の守護を目的とした盟約とは違った、自己本位的なそれは相手を永遠に縛る首輪だ。
長命種は基本的に心変わりが早い。
みどりの心がうっかりどこかへ行ってしまわないように、こうして魂だけでも縛りつけておきたいのだ。
「…早く大人になってね。そうしたら…」
…心も体も纏めて縛っておけるから。
コメント
6件
こういう、ぎゅーーっとした愛大好きすぎて最高です😭 とてもとても素敵な作品でした!!!
うわぁぁぁぁあ!?!?!? は!?…うぇ!?!?!? さいしょから…えぇ??まじで???? やば、執着えぐい…… なんにも知らないまますっごい純粋にrdの事が好きなのか、それともmdくんもrdと同じ感じで執着を見せるのか…どちらにせよ神な事には変わりませんね…😇