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「あっついですねー」
「あそうですね。暑いですよね今日」
堪らず冷や汗がでてくる
殺人鬼かもしれなくて。
殺されるかもしれなくて。
こいつは弟を狙っている張本人かもしれない。
刺激しないようにバレないようにたわいのない会話を心がけて喋るようにする鼓動は早く鼓膜から直接伝わってくる
ピンクのネイルチップが指から外れ落下した
男の声は震え鼻息は荒く呂律が回っていない「度数の高いお酒でも飲みましたか」
男からの受け答えはなくビクビクと震えているようだった
「あの」
「触らないで」
「触らないでよ」
誰も触れていやしない腹や肩しまいには頭を掻きむしりだし涙が溢れ出た。濃く過度なけばけばなメイクが浮きだす
叫び声をあげてもう嫌だ等々の事を言っている
「天のお父さま私たち夫婦を助けてください私たちはいま離婚について真剣に考えております結婚した当初は喜びで溢れ世界は二人のためにあるように思えましたしかし私たちはいま悲しみと失意と絶望の中におります神さま、私たちをお救いください」
「アーメン」
突如だったキリストの聖書の文章だろうか佳宵の月色は男を照らしてまるで男のなんらかの苦しみから解放するようかに思えたそんな表情だ
「Donum」「Donum」「Donum」
男は3回その言葉を口から漏らした後に嘔吐し気絶した
近隣住民から男の怒鳴り声で苦情があったらしくパトカーのサイレン音が町中に反響していた警察に3時間のうちに二回も会うなんて想像しでもいなかった
警察官は呆れた様子でいた
「こいつか」
どうやらこの警察官はこいつを知っているようだ
「この男知ってるんですか」
「はい」
今回の警察官は年配の訳ありっぽいおじいさんと中年の叔父さんだった
「こいつ親御さんから1カ月前行方不明届けとどいてる奴なんだよ」
「こうやって親御さん困らせてエンジョイしてる奴が1番面倒臭い虫唾がはしる」
「女装なんかしやがって気色わりぃ」
気絶し倒れた男の事をおじいさんは罵倒してばかりもう一人の方はそれを眺めているだけで救急車も呼びやしない。
態度に段々と腹がたってきてしまう
こんな事をしても何も解決しないではないか
市民を守る警察がこいつでどうなんだろう密かにそう思った
「もういいですか」
正直今すぐ帰って寝たい落ち着きたい休みたい「あぁ」
返事は曖昧に返される。
「この男との関係は」
「知りません他人です」
「何のためにこんな夜中に」
「泊まる宿を探していました」
「何か手がかりになるような事は」
何かあるだろうか所詮自分は赤の他人
誕生日だって趣味だって名前も知らない
警察なんだから自身で調べれば良いじゃないかこの野郎
「ありません」
「ありがとうございました」
淡々と進む会話はすぐ終わった。おじいさんの方は腰が悪いらしく瞳を起こしてから男をパトカーに乗せるのを手伝いをすると、お詫びということで自動販売機でジュースを買ってもらった
「泊まる場所さがしてるんだろ。民宿がいいぞここら辺のホテルはボロい汚い飯が不味い最悪だ」
「お勧めは◯◯」
「◯◯はもう受付してませんね」
「残念」
物騒な事件が多いらしく大変そうだ
「坊や達も気おつけろよ」
そう言ってパトカーのランプは遠ざかっていったひと段落するとどっと疲れが出てきていた
プルルルルル
着信音が鳴る
「もしもし」
「あ もしもし田中様でお間違えないでしょうか」
「はい田中で間違いないです」
「そうですか」
接客女の声は疲れ果てていた
クレーム客が関係し粘っていたホテルの一室が空いたのだ
運が良いのかそもそも良ければもっと可愛い女が、そしてもっと早く此処に到着できただろうそんな事を頭の中で勝手に想い描き勝手に悲しんだ
所持金額も少なくタクシーすら呼べずよろめいた足取りで1時間程歩きやっと辿り着いたのは一泊4300円の格安のビジネスホテルだった。