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「…いってらっしゃい」
あぁ、言ってしまった。
自分が言った言葉の重さがずしりと心に深い穴を作る。
あの日、たまたま買い物をしようと歩いているところに自殺しようとしている彼と出会った。俺は、そんな彼に…一目惚れをしてしまった。
咄嗟に彼をこちらに引き寄せ、「俺と一緒に生きようッ!」なんて突拍子も無いことを口に出す。彼は驚きいたように目を丸くして、どういう訳か「いいよ」と言ってくれた。
それから俺と彼の生活が始まった訳だが、彼は毎日のように「死にたい、お願い出して。」と泣きついてくる。
そんな彼に「俺と居れば大丈夫、必ず幸せにする。」と慰め続けてきた。しかし、最近は仕事が忙しくなり彼の行ってらっしゃいに行ってきますと返すだけの毎日となってしまっていた。
俺は疲れていた。そう、疲れていたんだ。そんな時でも彼はいつものように呟いた。
「死にたい、出して」
…うるさい、煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い、煩い!
色々な感情がごちゃまぜになり気付けば彼の望んでいた言葉を言ってしまった。
そして今に至るわけだ。しんどい、辛い、帰ってきて、お願い…そんな願いは虚しく彼が帰ってくる気配はない。
「…探さなきゃ」
涙を拭い、彼の最後だけでも、彼の望んだ最後だけでもいいから見ていたい。それくらい…いいだろ?とここにはいない彼に問い掛けながら家を出る。
そして真っ直ぐ彼と出会った場所へ向かった。
そこに着くと沢山の人集りと、パトカーのサイレン。ここに彼がいる。直感としてそう感じた。
踏切の中に制止されているのも聞かず入っていく。そこには彼、彼だったものが居た 。
その姿は見るに無惨で原型もないのに、彼だと分かる。それだけ愛していた彼を俺は殺してしまった。
その事実に涙が溢れる。でも、彼が望んだこと、と頑張って心を落ち着かせ、彼が望んでいるであろう言葉を呟いた。
「逝ってらっしゃい」