テラーノベル
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今回は、にわかさんにリクエストいただいた加日です。短めですが、満足していただけたらいいな…
今日はよく晴れた日曜日
窓から差す陽光の中、部屋に漂うのは甘い香り、二人分の甘ったるい空気
今日は彼の家に遊びに来て、一緒に休日をのんびり楽しんでいる
恋人である彼との甘い時間は、何物にも代えがたい癒しで、幸せだ
「はい、あーん♡」
彼が、メープルシロップたっぷりの手作りパンケーキを一口分差し出してくる
口に含めば、濃厚な甘さと、ふわふわ食感が、口いっぱいに広がる
美味しいと舌鼓をうつ僕を、彼は心底幸せそうに、静かに見つめていた
優しくて、穏やかで、人畜無害そうな彼
僕は、そんな、パンケーキみたいな彼が好きだ
柔らかくて、甘くて、隣にいると安心する
けど…
ちらりと彼を見つめて、琥珀色の瞳と視線が合う
どうしたの?と微笑む彼を僕はぼうっと見ていた
彼は僕に怒ったことがない
仕事で約束をすっぽかしても、疲れで料理を焦がしても、無断で他の人と一緒に寝ても。僕が何をしたって、ふわふわとした笑顔で「全然いいよ〜」と許してしまう
つまり、彼の怒り顔を僕は知らない
好きな人のことはなんでも知りたい。あなたの見せる表情全部を見てみたい
ふつふつと湧き上がる知識欲と興味を、もう止めることが出来なかった
「ねぇ、カナダさん」
「ふふ、なぁに?」
トロりと甘く揺れるメープル色。糖度が高すぎて、胸焼けしてしまいそう
「もし…僕が”別れたい”って言ったら、どうします?」
口にした瞬間、時が止まった感覚がした
ピシリ。氷にヒビが入ったような、幻聴が空間に響く
黙ったままの彼。握ったフォークの柄が真っ二つに折れる
キラキラと輝いていた琥珀は光を失い、どこまでも深い闇に染まっていた
やばい
“逃げろ”と本能が警鐘を鳴らす
冗談だと伝える前に、乱暴に椅子ごと後ろへと引っ張られ、壁にぶつかる
背中を襲う鈍い痛みに呻いていた、その時
ダンッ!!
僕の顔のすぐ横、数ミリズレた所に斧が突き刺さっていた
僕に当たっていたら……考えるだけでゾッとする
怯む僕の両手首を片手に掴んで、頭上の壁へと押し付ける
痛いほどに縛られる手首。皮膚へ棘のように刺す殺気
そして、何より怖いのは、覆い被さって僕の全てを奪う彼の…
石油みたいに黒くて、ドロリと濁った目だ
「……日本は、僕と別れたいの?」
「っ!!ち、違います!僕はただ…」
「ただ…何?」
ギロリと睨まれてしまい、言葉が喉につまる。蛙にでもなった気分だ
「そんなに聞きたいなら教えてあげる」
瞬間、開ききった瞳孔が目の前まで迫る
視界が、彼の闇に占領される
「勿論、殺す。この斧で、心臓を突き刺して」
「魂だって逃がしてあげない。僕の腕の中で息絶えさせて、魂を僕の元に地縛する。こうすれば、君はここから動けなくて、どこにもいかないよね」
「君は、僕のもの。君が僕の元を去るなら僕は全力で縛り付ける。それが僕の答えだよ」
「……まあ、君が一生僕と一緒に居てくれるなら、なんだっていいけどね!」
パチン。切り替わったスイッチ
狂気が跡形もなく去り、”いつもの彼”が笑っている
あれは幻影だったのか、そう思ってしまうほどの変わりようだ
「だからさ、僕から離れようだなんて考えないで。その思考が出てこないうちは、君が望む姿でいてあげるから」
「…さ!おやつタイムの続きしよ!パンケーキが冷めちゃうよ」
椅子ごと元の位置に戻されて、折れたフォークで一口分、パンケーキを差し出す彼
震える口元をこじ開けて、食む
『知らない方が幸せ』
その言葉の意味を、痛いほどに知った。
コメント
19件
初コメ失礼いたします ... !! 物語の方 全て読ませていただいたのですが , 言葉1つ1つに , それぞれの国との繋がりが垣間見えているのが本当に尊敬です ... !! 💕💕 加裙とメープルシロップって , どうしてこんなにも相性が抜群なのでしょうか . ほわほわ甘いけれど , でもドロドロで , 少し重くて ( 愛も甘さも ) ほんとに加裙と相性がぴったりだな ,, と感じました . 最後に ,, このお話とは関係なくなってしまいますが ,, これだけは言わせてください . 主様の独日 , 最高に大好きです 💕💕 私の好みにぶっ刺さりすぎて , 読み終わった後 数分間フリーズしてました ( 実話 ) , 笑
本当にすみません!琥珀さんをにわちゃんと勘違いしてました!一生の不覚すぎる。本当にすみません。今日も今日とて最高の小説をありがとうございます。😭
誤字が凄まじかったので下のコメント削除しました、すみません。 ふわふわしたカナダくんと狂気溢れるカナダくんが同時に見れて幸せです。 好奇心は猫をも♡♡♡って言いますもんね。 「君の望む姿でいてあげる」とか…最高だよ!! お早いお仕事ありがとうございます!!