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「まさか彼があなたに会うために
わざと襲撃事件を起こしたとは
考えられないけど?」
佳子が怪訝そうに言った
ユリアは大きく首を振った
「いくらなんでもそれはあり得ないわ!
彼は・・・
そんなの出来る人じゃないわ
あれは正真正銘の偶然よ 」
「彼はユリアの名前を知ってすぐに
あなたが誰だかわかったみたい? 」
みゆきも眉を寄せて聞いたユリアは
唇を噛んで初対面の場面を思い出した
「・・・私を知ってる気がするって
言った・・・
そのあと良ちゃんの名前も出したわ
だから私・・・
鳩山良平を知ってるの?って
彼に聞いたの 」
「彼は?知ってるって?」
みゆきと佳子が詰め寄った
ユリアは突然目を見開いてハッとした
「私・・・
きっと電話で良ちゃんの名前を
呼んだのよ!
それでジュンは良ちゃんの名前で私が
電話の主かどうか知りたくて・・・・」
「いちかばちか探りをいれたってわけね!」
「そうね・・・
理にかなっているわ!しかし大胆ね!」
「それに私と佳子のやり取りも・・・
良ちゃんが中国に行ってるから
今は連絡する必要ないって 」
「ジュンの耳にも
当然そのやりとりが入った・・・」
みゆきがユリアに言った
ユリアは小さくうなずいた
「彼はしばらく良ちゃんが
不在になることを知ったわけね」
佳子が言った
「だけど
良ちゃんが出張中に電話してくる
可能性は充分あるし
まさか私が留守電のメッセージを
聞き出せないことを
ジュンが予測できるはずないわ!」
ユリアが肩をすくめて言った
みゆきが興奮してユリアの肩をゆさぶる
「きっと 彼は思い切って
いちかばちかに賭けたのよ
ねぇ・・・
ジュンはユリアとの電話でのデートが
よっぽど気に入ったのよ!
知らない誰かに成りすましたままなんて
彼自信もストレスがあったんじゃない?」
ユリアは目の前のワインと同じぐらい
赤くなった
たしかに自分も彼との電話を
心待ちにしていた
彼との夜のラブコールは
とてもセクシーで・・・
そしてお互いかなり
盛り上がったことは事実だ
「まさに運命のいたずらね 」
佳子がうっとりとワイングラスを
くるくるさせて言った
「あなたはジュンに惹かれていることで
婚約者の良ちゃんとの関係に
ヒビが入ることを恐れた・・・
ところがてっきり良ちゃんだと思って
盛り上がっていた相手こそ
あなたが惹かれていたジュンだった」
みゆきがうなずきながら
冷蔵庫からコロナビールを持ってきた
プシュッと音を立てて蓋を開け
一口飲んで言った
「さらにストーカーかもしれないと
警戒していたジュンがなんと正義の味方で
良ちゃんこそユリアの身を脅かす変態で
ジュンはその魔の手から救ってくれた
スーパーヒーローだったのよね! 」
ハァ~・・・・・
「ややこしい 」
「ややこしい 」
「ややこしい 」
三人は大きくため息をついた
:*゚..:。:.
「要点はだいたいつかめたわよ 」
佳子が5本目のワインをスポンッとあけた
頬がうっすらと赤くなっている
「ところでさっきメッセージで
ジュンが電話で伝えたのはありのままの
本心だって言ってたわね
それって具体的にどんなこと? 」
ユリアが体をこわばらせ
さらに赤くなった
「なんなのよ!今さら隠すのは反則よ!」
みゆきが面白そうに言う
「実は・・・・
何度目かの電話で良ちゃんに心から
愛されていると思った時があったの・・・
彼は・・・
すごく優しくて・・・
誠実で
だんだん後ろめたくなって
あの時はすごく悩んだわ・・・・ 」
「本当はジュンの言葉だったのね 」
「でもその時は良ちゃんだと思ったのよ」
「じゃぁ どうして悩んだの? 」
みゆきは酔うとからむ癖がある
ユリアは残っているワインをすべて
飲み干した
「・・・私が・・・・
本当は良ちゃんを愛していない
ことに気づいたから・・・かしら? 」
「どうして? 」
「それは・・・・・」
ユリアは二人をチラリと見た
昔からこの二人には隠し事はできない
降参だ
「その頃には
ジュンに夢中になってしまっていたから」
消え入るような小さい声でユリアが言った
それを聞いた佳子とみゆきが
カチンッとグラスを鳴らした
「それならめでたしめでたしじゃない!
あなた達は両想いよ! 」
みゆきが嬉しそうに言った
「そうね!数年後にはあなた彼の
子供ゴロゴロ産んでそう!
彼ってスタミナすごそうだしっっ! 」
佳子がケラケラ笑って言った
酔いがずいぶん回っているようだ
「でもジュンは私をだましていたのよ!」
「それがどうしたのよ!
良ちゃんと10か月も付き合ってて
あなた前科があることも
知らなかったじゃない!
それにジュンはあなたが危ない所を二度も
救ってくれたのよ!
嘘ぐらいかわいいものよ! 」
「佳子ってずいぶんジュンを
気に入ってるのね?」
みゆきがトロンとした目で言った
こちらもかなりきてるようだ
「どっちかというと私はタツの方ね 」
佳子がまつげをパチパチさせた
「ねぇユリア!
あなたが十分傷ついていることはわかるわ!
でも・・・・これだけは言わせて
ジュンはきっといい男よ
タツとジュンがあなたの居所を突き止めて
助けてくれたのよ
さっきのメッセージだって
全面的にあなたの味方になって
これからも命を懸けて
あなたを守ってくれるはずよ
警官ということを抜きにしてもね
でも もうあなたも
それを分かってると思うけど?」
佳子が力説した
それをよこでみゆきがウンウンとうなずく
ユリアが片眉を上げて佳子をじーっと睨んだ
「・・・・
ずいぶんジュンの肩を持つのね
ちょっと!佳子!
タツと何かあったでしょ!! 」
「うそでしょ? 」
みゆきが叫んだ
ユリアが詰め寄った
途端に佳子の目が泳いだ
「何もないわよ
ただ・・・あのクレープ屋で会った時に
LINE交換しておいたの
それで彼から連絡が来て・・・・
あなたのことをずいぶん心配していたわ」
「ちょっと!!いつの間に? 」
「抜け目ないわね! 」
佳子が少し赤くなって
小さく咳をして言った
コホン・・・
「私の事はさておいて
タツからあなたに伝言よ
落ち着いたら事情聴取に来てほしいって
一応事件扱いになってるから
それに今後の良ちゃんの処分も
まだ決まっていないし」
「そうね・・・・
いつまでも・・・・
ひきこもっていられないわね・・・ 」
ユリアの顔が青くなった
勇気づけるようにみゆきが言った
「佳子の言う通りよ
さっきのメッセージ聞けて良かったわ
あんなにまっすぐに気持ちをうちあけて
くれる男性ってめずらしいわよ!
今度はあなたが気持ちをぶつける番よ!」
みゆきが寂しく微笑んで言った
「私は・・・・
タクミ君とはそうなれなかったけど・・・」
:*゚..:。:.
「これで事情聴取は終わったよ
お嬢さん! 」
大阪府警の小奇麗な一室で
向かえ合わせになったタツが
書類を集めてトントンとテーブルを叩いた
するとタツの手の中で書類は綺麗に
整頓され机の右端に置かれた
ニッコリと親しみのわく笑顔を
タツから向けられた時に
はじめてユリアは大きく
安堵のため息をついた
事情聴取は経験があれど
何回受けても嫌な思いは拭えなかった
そして今回はタツの後ろに2人の
スーツを着た刑事が二人無言で立っていた
東京の本署からきた捜査官の一人に
タツがが茶封筒を渡して
ユリアに言った
「鳩山良平は過去に
婦女暴行事件を起こしてる
ヤツは残忍さを好む
痛みに苦しむ人を見て性的に
興奮するんだよ・・・・・・ 」
「知ってるわ 」
ユリアは毅然とした声で言った
あの時の事を思い出しても全身寒気が立つ
ユリアの言葉に辺りは緊張の空気が走ったが
タツがため息をついて場を和ませようと
言った
「とにかく今回は・・・・
未遂ですんでよかったよ 」
警官の後ろにいる刑事も
厳しい顔つきで言った
「彼は留置所でずっと弁護士を呼べと
叫んでいますよ
公平な裁判は長く続くとは思いますけど
確実に一歩ずつ進みたいと思っています
それに・・・・彼は
もう一つの容疑もかかっている」
ユリアはいぶかしげに聞いた
「え?もう一つの容疑とは? 」
タツと警官は目を見合わせた
「横領ですよ 」
後ろの刑事が初めて口を開いた
「案の定鳩山は何かやっていたようですね
この8か月間彼は架空の口座に
3ヶ月おきに足のつかない金を
数百万ずつ動かしている 」
ユリアは息を飲んだ
喉がきつく締め付けられて言葉が出てこない
彼に対する怒りと恐怖が
ユリアの体の芯から立ち上ってきた
そしてまんまと彼の表の顔に
騙されていた自分自身にも
怒りが沸いてきた
なんてまぬけなの私って・・・・
握りしめる手に力が入る
良ちゃんとすごした10か月・・・・
本当に今は幻のように思えてきた
今では彼に好意を抱いていたのでさえ
幻に思える
しっかりするのよ!
ユリア!
もう泣くのはダメよ!
二人の刑事が部屋から出ていき
ユリアは目の前のタツと二人っきりに
なった
「君がジュンと顏を合わさない事を
事情聴取を受ける条件にしているのは
キチンと聞いていますよ
うちの相方がお譲さんに多大な迷惑を
お掛けしてしまって
大変申し訳ない 」
この人はジュンを本当に
大切に思っているんだ・・・・
ミユキと佳子にああは言われたものの
まだユリアはジュンと
直接顏を合わせるのを躊躇した
そして署に出向いて
事情聴取を受ける前に
朝倉淳と絶対に顏を合わせないこと
を条件にしたのだった
ユリアはタツの顔を見た
すると彼は優しい父親のような笑みを
浮かべていた
「ヤツは・・・・
あ~・・・
今はちょっと野暮用でね
ここにはいないから安心してくれ
コーヒーでもどうだい?
最近署にもやっと最新型のマシンが
導入されたんだ
これがバリスタのエスプレッソマシーン
でね
おかげでスタバに行く機会が減ったよ 」
ウインクしてタツが言った
ユリアはクスリと笑ってしまった
この人は私を和ませようとしているんだわ
「ええ・・・じゃ
頂くわ 」
タツがコーヒーを取りに部屋から出て言った
ユリアは大きくため息をついた
タツにはジュンに会いたくないと
言ったものの
なんとなくジュンが働いているこの
署からも離れがたくて
グズグズしている自分も気に食わなかった
良ちゃんにも驚いた
いったい自分はどうしたいのだろう・・
ジュンに何を話せばいいのだろう・・・・
自分のしている事を思うと涙が出てきた
誰も見ていないから
ユリアはタツが来るまで小さく
ぐすんと泣いた
ジュンはユリアの取調べ室の隣の部屋で
マジックミラー越しでユリアの姿を
見つめていた
ミラー越しに彼女のすぐ近くに立ち
腕を組んでじっと様子をうかがっている
当然ユリアからはマジックミラーで
こちらの部屋の存在は一切分からない
小さく泣いている彼女は儚げで
そして痩せている
自分のせいで彼女がまた泣いているのか
鳩山を思って泣いているのか・・・・
どっちにせよ
今すぐドアをけ破って
泣いているユリアを抱きしめて
慰めてやりたくてしかたがなかった
思わず組んでいる腕に力が入り
奥歯をギュッと噛みしめた
そこにコーヒーを両手に持ったタツが
背中でドアを開けて入ってきた
「わかってるな!
彼女が事情聴取を受けて帰るまで
お前はここでおとなしくしてろっ! 」
タツがむっつりとして
腕を組んで顎の筋肉をひくつかせた
ユリアが来る前にどうしても
自分が迎えると言って聞かなかった
ジュンをみんなで取り押さえ
この部屋に閉じ込めた
タツはその時ジュンに蹴られた
顎を抑えながら言った
「とにかく彼女はお前と会いたくないんだ!
俺が穏やかにお前の事を話してみるから
お前はここでおとなしく
彼女の話を聞いていろ!」
「わかっている!!」
ジュンはむっつりとし
こちらを一切見ないでただ
マジックミラー越しにユリアを見つめていた
タツが再びユリアの待つ取り調べ室に
コーヒーを持って向かった
「コーヒーに砂糖とミルクは?」
「ブラックで」
ユリアの返事を聞いてもタツは
しばらくユリアを見つめていた
何もかも見通すような
知性が溢れる灰色かかった
瞳がじっとユリアを見据える
なるほど佳子がタツを
気に入る気持ちもわかる
タツはハーフかもしれない
それほど綺麗な顔をしている
「少し
ミルクと砂糖を入れた方が
いいんじゃないか?
君はあきらかにずいぶん痩せた
・・・無理もないが・・・ 」
ユリアは肩をすくめた
「じゃぁ お願い」
涼しい顏をしたタツが言った
「君の気持ちもわかるよ
アイツに腹を立てているんだろう
実は俺もそうだ
俺達の上司もカンカンだし
本部全体がアイツに腹を立てている
勝手にパトカーを出動させ
お嬢さん救出作戦を遂行したんだからね・・・」
「彼は私に嘘をついていたのよ
最初に会った時からずっと・・・・」
ユリアが落ち着いた声で応えた
「これから彼の何を信じればいいの? 」
「そうだよね・・・・
たしかに許せないよね」
タツは腕を組んでうんうんと
うなずいた
「ヤツは嘘をついた・・・・
だがヤツがいなかったら今頃君は
もっとひどい立場に追い込まれていただろう・・
時に優秀な警官はウソをつくことを
余儀なくされる
ただそれはあくまで仕事であって
実生活で嘘ばかりついているわけじゃない
むしろアイツは正直すぎるほどさ
生真面目なヤツでね
先輩や婦人警官にいつもからかわれているよ
たまには羽目を外せってね 」
タツはあきれたようにため息をついた
「だが
君がそれを吹き飛ばしてしまったらしい
アイツがあんな風になったのをはじめて見たよ
パトカーと連帯を無断出動させたことは
とんでもない遺脱行為だ
君のためにアイツはこれまで積み上げてきた
キャリアをドブに捨てた
今後
仮に今の職場に留まるとしても
落し物係りの受付に回されるのがオチだろう
アイツはそれが分かっていてもああいう
行動をとった
それでもいいと思ったのさ
君の身を守るためならね 」
ユリアは頬を殴られたような
ショックを受けた
ジュンがそんな苦しい立場に
立たされているなんてちっとも知らなかった
タツは首を振った
「生真面目からは想像もつかないやり方だな
君に惚れてるんだな
嘘をつかれて裏ぎられたと思う気持ちはわかる
だがあいつは自分に出来る唯一のやり方で
君を守ろうとした 」
ユリアの喉が震えた
言葉がひとつも出てこない
ジュンが自分を助けたおかげで
今の職場でとても苦しい立場に
追い込まれている?
しかしそれを知った所で自分には
どうすることもできない無力さに襲われた
さらに二度、三度と息を吸い込むが
何も言えなかった
タツが少し微笑んで言った
「こんなことは言いたかないけれど
アイツのことを
許してやってくれないかな・・・
今すぐじゃなくてもいいから 」
大阪府警を後にしてユリアは大和川沿いを
少し散歩した
タツはユリアの正当な怒りを受け止めたうえで
それをうまく手なずけた
タツはつくづく女性の扱い方が上手い
タツの言葉のおかげで
被害者意識が少し無くなって
冷静に物事が考えられるようになった
嘘をついたとしてもジュンは自分が正しいと
思ったやりかたでユリアを守ってくれた
川からの冷たい風に乗って
突然脳裏におびただしいイメージが浮かんできた
ゆっくりと出し入れする時のジュンの
ハンサムな顏・・・・
彼はときどき両腕を立てて上体を起こし
盛り上がった上腕の筋肉に太い
血管を浮かび上がらせながら
二人の体のあいだに視線を落とした・・・・
ユリアもそこへ目をやり
ゆっくりと引き出された彼の大きなものが
愛液でキラキラ濡れているのを見た
彼のものが少しずつ引き抜かれていくのを感じ
すっかり離れてしまうと心が空っぽになった
彼は愛の行為で
大きく赤く膨らんだ先端が見えるまで腰を引き
ユリアが彼の目を見つめてぐずるのを待った
そしてあまりにもじらすので
彼の目を見つめて腰を浮かす
いじわるしないで中に入って・・・
.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
泣きそうな目で訴える
するとジュンが微笑み
今すぐに・・・・・
.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
と目で応え
息が止まるほど激しく突き入れてくる
余りの激しさに摩擦で二人の体が燃え上がる
体の芯から強烈な喜びで快感が湧き上がる
ユリアは心の奥底で嘘の立ち入る隙のない
真実しかない部分で彼との愛の行為が
本物だったことを知っていた
あの行為には真心があった
そして電話の彼は・・・・・
良ちゃんだと思っていた会話を一つひとつ
思い出して頭の中でジュンに変換していく
彼と話していると妙な気疲れもなく
自然と言葉が出てきて
ただ しゃべっているだけで楽しかった
率直に何でも話してくれて
何でもって訳ではなかったけど・・・
ううん・・・
成りすまし以外のことなら気さくで
彼を知れば知るほど興味がわいた
そして彼は警官の才能に恵まれている
しかも見ていると心が痛くなるほどハンサムだ
彼の冗談におなかがよじれるほど笑えたし
彼と一緒にいるとその瞬間すべてが楽しかった
そうそうマンションの前で夜中に歌われた
こともあったっけ・・・
それに指を切ってキッチンを
血の海にされたこともあった
ユリアはクスリと笑った
彼はとっくに私の人生の中に
入り込んで来ていた
ささいな事をいつまでも許せずに
これから一生彼を忘れて生きて行けと?
いやそれは無い!
彼を忘れることは無い
どうでもよくなる日が来るとも思えない
私の人生には彼が必要だ
その時スマホが軽快な着信音と共に震えた
ユリアはびくりとした
ジュンかもしれない!
今こそ自分の気持ちを彼にぶつける時だ!
彼を愛していると言おう!
「ハイ・・・もしもし?」
深呼吸して最初の一言は何と言おうか考えた
「もしもし?ユリア?ママよ!」
ユリアは交通事故並みのタイミングの
悪さに泣き笑いになってしまった
少なくともこの人は奈良の長女婿の大豪邸で
娘が残忍な変態に拉致されたことや
それによる娘の精神的消耗など
てんで気にかけていない
「ああ・・・・ママ・・・・
元気? 」
ユリアは一気に体の力が抜けた
どうやらもう少しカフェインを摂取しないと
この事態を乗り切れられそうにもない
足を止め目の前の自動販売機で缶コーヒーを買った
「あなた週末に良ちゃんを連れてくるって話
どうなったの?
鈴の婿さんももし時間が合えば診療時間を
ずらすって言ってくれてるんだけど
もし今週末にしてくれるなら
みんなで「かごのや」に行こうと思うの
あそこなら子供メニューもあるし 」
「あの・・・ママ・・聞いて 」
さらにたたみかけるように母の
マシンガントークは続く
「個室はとても人気があるのよ!
だから今のうちに予約しておかなきゃ
いけないんだけど
それが嫌ならうちでお寿司でも頼んだらいいけど
鈴が・・ほら身重だから
動きたがらないのよ
だとしたら私が全部おもてなしは
やらなきゃいけないでしょう?
もちろんそれでもかまわないけど
ママもこの頃膝が痛くて・・・・ 」
「ママッッ!私の話を聞いて!」
「なによ?」
ユリアは大きく深呼吸した
母に自分の気持ちを分かってもらうには
勇気がいった
それは小さな頃からいつもそうだった
「良ちゃんとは・・・ダメになったの
私・・彼とは結婚しないわ 」
しばらく嫌な沈黙が続いた
その後の母の大きなため息は雄弁だった
せっかくの機会を棒に振った娘を
どう攻めようか考えているに違いない
「そう・・・・
それじゃしばらくはあなたは
独身を貫くのね もういい歳のくせに 」
また沈黙が続いた
「それが・・・・私好きな人がいるの 」
母は興味津々に聞いた
「まぁ!誰なの? 」
「でも・・・色々あって・・・
ママ・・・
私どう言ったらいいかわからないわ」
ジュンとの事を母に話すのは
あまりにも複雑で何から言ったらいいか
わからなかった
「じゃぁその人の事を話せば? 」
ユリアの頭の中を一気にジュンが駆け巡った
たった10日あまりの彼との過ごした時間が
怒涛のようにユリアの記憶に溢れてきた
ユリアは胸に手を当て目を閉じた
なんてこと
ジュンを思っただけで涙が溢れてくる
「ママ・・・・
どうしよう・・
わたし彼を愛しているの・・・」
ユリアは自分が発した涙声に驚いたが
今言葉にしたことでハッキリと確信した
泣いていいつける子供のように
母に言うなんて初めてだ
なんてこと
母がため息をついた
「そう・・・
ではあなたが良いタイミングの時に
その人をうちに連れていらっしゃい 」
てっきり母からジュンの職業から収入から
質問攻めにされると思っていたのに
「え?ママ?いいの? 」
ユリアはびっくりして母に聞きなおした
「初めてあなたが真剣に愛した人ですもの
どんな人でも私と鈴が歓迎しないわけないでしょ
さぁもう泣かないで 」
「うん・・・ありがと・・ママ
名前は朝倉淳って人で
どことなくパパに似てるの・・・ 」
ユリアは母の反応を黙って待った
父が癌で亡くなる前までは
父と母は頻繁に夫婦喧嘩をしていた
その度にユリアは母が父を本当に
愛しているのかもうずいぶん前から疑っていた
しばらくして
母はうっとりと甘いため息をついて言った
「だったら素敵にちがいないわね
お寿司を用意して待ってるわ 」
.:*゚..:。:. .:*゚:.。:
ユリアにだってこれまで1度ならず
男性から花束を贈られたことは経験があった
だが
朝の7時に2日連続で巨大な
花束を贈られたことは初めてだった
そして今朝も7時きっかりに玄関の呼び鈴が鳴り
ユリアはすぐにシルクの部屋着を羽織り
裾を素足にまとわりつかせながら
玄関ドアへと急いだ
春先とはいえまだこの時間は
外の空気はひんやりと冷たい
花屋の営業時間は何時なんだろうとユリアは思った
きっと営業時間外に違いない
玄関を開けると帽子を目深にかぶった
にこやかな顔つきの花屋の店員が
ユリアに深々と挨拶をし巨大な花束を渡す
バラ、ユリ、チューリップなど今まで届いた
花のなかでも今朝はひときわ華やかな
派手な色のカーネーションの花束を笑顔で受け取った
巨大すぎてずっしりと重い
ユリアは深くカーネーションの匂いを吸ってから
部屋に花瓶がわりになるものは無いか探した
もうすでに家の花瓶は五つ使っていて
それでも届けられる花を飾るには足りずに
家中のグラス、ポットをあるだけ使った
リビング、トイレ、バスルームや寝室など
あらゆる場所に飾りユリアのマンションの
部屋全体が花でいっぱいになった
むせかえるような花の香りに囲まれながら
今日届いたカーネーションの中に一束
小さな雛菊が入ってるを見てユリアは微笑んだ
そしてこの花束の送り主とのことを
どうしようかと考えた
そしてハッと名案を思い付いた
完璧な案だ
ユリアは大急ぎで着替えを済ませ外出した
駅前の商店街の生地屋で
赤いオーガンジーの生地を
数メートル切り売りで買った
さらに食品売り場に向かい
食材をどっさり買うとウキウキ気分で家に帰った
ユリアは時間をかけて
とびきり濃厚なガトーショコラを作った
ベッドメキングをしアロマキャンドルを灯し
そして送られてきた花を寝室のベッドの周り
そこらじゅうに飾った
数時間すると寝室はディズニー映画に
出てくるような花の妖精の棲家みたいになった
ユリアは満足のため息をつき
次に買ってきた赤のオーガンジーの
生地を取りだした
彼を迎え入れるにはそれなりの準備がいる
体の奥から温かい感情がひたひたと沸いた
ジュンと出会ってここ数日の出来事はただの
偶然では説明がつかないほど現実離れしている
ユリアは微笑んだ
もう疑う余地はないジュンは私の運命の人
彼を心から愛している
説明がつかないけど事実だ
二人は自分が脅えるほど早急に惹かれあった
なので愛だと確信するまでは彼から少し逃げて
本物かどうかたしかめる必要があった
ユリアはスマホを見つめた
今までためらっていた
ジュンの電話番号を良ちゃんから
新しく朝倉淳と登録し直した
短縮ボタンを押すと
すぐにジュンのスマホにつながった
呼び出し音をひとつ ふたつと聞きながら
ユリアの心臓は飛び跳ねそうなほど
激しく打った
彼は家にいるかしら・・・
それとも勤務中?
私の電話を喜んでくれるかしら
それとも冷たくあしらわれる?
プツッ
「もしもし?」
ジュンの声がユリアのスマホの
スピーカーに響いた
ジュンの声をスマホ越しに聞いた途端
ユリアの胸はじわりと暖かくなった
「私の部屋がお花で埋もれる前に
止めてくれる? 」
片眉を上げて言った
口はにんまりと上がっている
シュンとした彼の声が聞こえた
「その・・・気を悪くしたなら謝る・・・
っていうか・・
もう謝らなければならない事ばかりで
どこから謝ればいいのか・・
とにかく本当に・・・ 」
「ねぇ
私達あのバレンタインの夜から
やり直さない?
あなたはブリーフ派?
トランクス派? 」
謝りかけたジュンの声の驚きの声が
スマホの中に響いた
しばらく沈黙が続いた後
彼が静かに言った
「・・・トランクス派だ・・・
知ってるクセに・・・ 」
途端に低く色っぽくなった声に
ユリアはゾクゾクした
色々話そうと思っていたことが
彼の声を聴くと真っ白になり
なにも言えなくなった
自然と涙が溢れてくる
ヒック・・・
「ジュン・・・会いたい・・・」
思わず本音が口からこぼれてしまった
本当はずっと彼に会いたかった
するとスマホから彼の真剣な声が響いた
「3分で行く」
ゴトンッと大きな音が響いた
それから規則的なゴトンッゴトンッと
いう彼のスマホがどこかにぶつかっているような音が聞こえたと思ったら
その直後に車のドアが勢いよく
閉まる音が聞こえ
あろうことかパトカーのサイレンの
音が鳴り響いた
と同時に1分もしないうちに
ユリアの部屋の外から
同じようにサイレンの音が鳴り響いた
ユリアはスマホを持ったまま
ベランダに出た
すると一台のパトカーが
けたたましくサイレンを鳴らして
風のようにこちらに疾走してくる
それを見て思わず笑ってしまった
なんてこと!
彼はパトロール中だったの?
しかも私のマンションの近くを??
本当にストーカー気質なんだから
「ユリア!!」
スマホからジュンの声が響いた
「サイレンを切って!
犯罪があったと思われるじゃない! 」
ユリアは厳しめの声でジュンをたしなめた
途端に外とスマホにリンクしている
サイレンの音が鳴りやんだ
しっとりとした声で言った
「オートロックの暗証番号は2385よ
鍵は開いているから・・・
入って来て・・・・ 」
はやる気持ちを抑えジュンは震える指で
ユリアのマンションのオートロックの番号を押した
おっと忘れる所だった
肩に着けている無線と
緊急呼び出し携帯の電源を切った
そうしないとこれからの事が
署に筒抜けになってしまう
思いがけないラッキーな出来事に
ジュンの思考が着いて行かなかった
スマホのナンバーディスプレイに
彼女の番号が映し出された時はわが目を
疑った
幾千通りもの言い訳を考えていた
愛の言葉は幾万通り
しかしあんなに可愛く泣かれたら
今すぐきつく抱きしめる以外に選択肢はない
数分もしないうちにユリアの部屋にたどり着いた
鍵は・・・開いている
ふわりと良いニオイがする・・・
彼女は何処だ?
花の匂いにさそわれて
フラフラとジュンは彼女の寝室に入って行った
するとなんと一面の花畑に
ユリアが横たわっていた
ジュンは魂を抜かれたように
その場にたたずんで目を見張った
目をこすって良く見るとなんだ
ベッドの周りに花が飾られている
彼女はシーツを体にまきつけて
こちらを見ていた
ここは天国か?
ジュンはかぶっていた警官帽を手に取り
胸にぴったりひっつけたまま
その場に立ちつくした
何故か彼女に敬意を表すような
態度になってしまった
「今までごめんなさい・・・・
私は傷つきたくないばっかりに
自分の気持ちをごまかして
あなたから逃げていたの・・・・ 」
ユリアは目に涙をため
ジュンをまっすぐ見つめた
バカだな悪いのは僕の方なのに・・・・
ジュンはそんな彼女を抱きしめたくて
たまらなくなったものの
懸命にこらえてその場に留まった
きわめて重要な場面だ
いい加減にはできない
その言葉の続きをどうか聞かせてくれ!!
「あなたを愛しているわ 」
シーツをそっとはなした
ユリアは赤いオーガンジーのリボンを体に
まきつけていた
そしてそれ以外は・・・・
彼女は文字通り・・・・
首にある赤いリボン以外には
何もつけていなかった
彼女の瞳が熱っぽくジュンを
見据えてくる
「だから・・・
もしやりなおせる機会をくれるなら・・・
あなたとこれからも付き合っていきたい」
膝に置いたユリアの手が小刻みに
震えている
ユリアは殻を破り心のすべてを
ジュンにさらしてくれた
傷つくこともいとわず
自分を求めている
ジュンはユリアを熱く見つめながら
ゆっくり拳銃のホルスターを外した
そして
身に着けていた制服の前身頃を
勢いよく左右に引きちぎった
ボタンが左右に飛び散る
中に着ていた白いタンクトップも
両手でつかんで頭から脱ぐと
サッと床に捨てた
彼女と同じようにすっかり
自分をむき出しにし
ズボンとトランクスを一気に脱いだ
その様子をユリアは熱っぽく見つめた
ほれぼれするような体だった
服に隠れている時は
ただ幅の広い肩と分厚い胸板
贅肉の無い体だな
と思うだけなのに
体がむきだしになると
いたる所で筋肉が盛り上がり
割れた所にきれいな線が見える
彼の全身がそうなのだ
幅の広い筋肉の盛り上がった肩から
胴体が滑らかな線を描いて腰の
あたりで細く引き締まっている
ジュンはたっぷり自分の体を
ユリアに見せてくれた
そして・・・・
ゆっくり視線を下に落としていく
これほど大きく勃起したものを
見たことが無い
ピンと上を向いて今にもお腹につきそうだ
裸になった彼はあまりに力がみなぎって
素敵だった
「僕も君を愛しているよ・・・
ユリア・・・
君を愛するようになってから
ずいぶんたつ・・・・ 」
一糸まとわぬジュンの裸体が輝く
そしてユリアのいるベッドに肘をつく
息を殺していたユリアの全身が
どっと喜びに包まれた
ジュンが自分のすぐ横にひざまづくと
さっきまでひどく恥ずかしくて
不安でいっぱいだったことも忘れた
ジュンの顔に浮かぶ優しい表情に
胸がいっぱいになった
この人は本当に私を愛してくれている
そう実感して顏を喜びが広がる
ユリアは彼のこげ茶の瞳を見つめた
「このラッピングは素敵だ
そして中身はみんな僕のものだ 」
そういうとジュンは
オーガンジーのリボンをスルリとほどいた
他の奴には絶対に渡さないぞという
彼の気持ちがユリアの欲望をそそった
「君が恋しくてたまらなかった
君のことを考えない日は一日もなかった 」
「ジュン・・・・ 」
二人の顔はすぐ近くにあって
顔がぶつかりそうだ
そして唇が重なり
キスが濃密になっていった
ユリアを押し倒してジュンが
その上に覆いかぶさる
ユリアは足を思いっきり広げ
心と体を彼のために開いた
彼の重みを全身で感じる
彼は何も言わずユリアを見下ろし
そして一突きで彼女の奥の方まで
入ってきた
ああっ!!これよっ!
一つになった瞬間
二人は稲妻に打たれたかのように
全身に電流が走った
二人がしていることはSEXだったが
それ以上の何かがあった
ユリアの目には涙が溢れ
そしてジュンも涙ぐんでいた
ユリアは必至でジュンにしがみついた
この瞬間をできるだけ
引き延ばしていたかった
ジュンが激しく腰をユリアの股間に打ち付ける
自分の体はすっかり濡れていて
彼をすんなり受け入れている
体の電流はどんどん蓄積されていき
とうとうユリアは悲鳴をあげて絶頂に達した
背中をそらし
ジュンのものをきつく締め上げる
するとジュンが浅く小刻みに突き上げるので
その絶頂が信じられないぐらい引き延ばされた
自分の体はすべて知り尽くされてる
彼の硬い胸や脚の毛が彼女の肌をこする
その感覚がさらに快感をあおる
夢のような時間がすぎると
彼が絶頂を迎えるのを
ユリアは口で感じた
キスをしながらうめいて
ユリアの中で彼の一物が膨れ上がり
一気に欲望が大量に自分の中で放たれた
熱く・・・・
強烈な勢いで噴出されている
彼は腰をこれ以上ないほど
ユリアに押し付け
どさっとユリアの上に倒れ込んだ
彼の荒い息遣いが耳元で聞こえる・・・
ユリアは体を貫かれたとでもいうのか
奪われたという余韻に浸った
「すごかったね・・・・・」
「・・うん・・・・ 」
嵐のようなクライマックスのあとでも
彼の物はまだユリアの中で硬いままだ
ぐったりとユリアに覆いかぶさっている彼は非常に重く意識していないと
うまく呼吸できない
汗で二人の体がくっつく
ユリアは全身汗でびっしょりだった
「・・・つきあうのは嫌だ・・・ 」
不意にジュンがユリアの耳元で囁いた
ジュンがユリアの瞳を覗き込む
彼に今だに貫かれているので
身動きできない
彼から逃げられない
どういうこと?
ユリアがジュンに問いかけようとすると
彼がまた腰を打ち付けてきた
「ああっ!!」
ユリアは甘い声を漏らした
「精一杯努力して最高の夫になるっ!
子供を作ろうっ!
いい父親になるっ!
絶対にウソはつかないっ!
どんなことからも君を守るっ!
この先なにがあろうと
君のそばを離れないっ!
それから罪悪感に訴えるつもりじゃないが
君がいないと生きていけないっっ!!」
一言ごとにユリアを力強く突き上げる
すべて言い終わると彼はピタリと静止した
「ああっ!やめないで!
いかせて! お願いっ! 」
そこまで来ている絶頂を前に
ユリアは気も狂わんばかりに
彼に懇願した
「結婚してくれ!
うんと言うまで1ミリも動かないっっ!」
ジュンの腕に力がこもる
「ええっ!ええっ!するわ!
あなたと結婚するっっ!
だから早くいかせてっ! 」
ユリアは純粋な信頼と
震える喜びをもって
彼にすべてをさらけだしだ
それにジュンが激しい突きで答える
「僕のものだ 」
「あなたのものよ」
どちらが導き
どちらが従うのでもなく
二人は一緒に喜びの絶頂の渦に漂った
フワフワと余韻の波が
退いて来た時に
ユリアは彼にキスしてつぶやいた
「ひどい人ね 」
重なりあった胸から
ジュンの心音がドラムの連打のように聞こえる
彼は息を整えながら言った
「・・・だって・・・・
こうしないと君はOKをくれないだろ?」
おでこをコツンとつけて
二人は見つめ合った
「君を幸せにしたい」
両腕でしっかりと抱きしめられた
「君のためにもっといい男になりたい」
「今のままで完璧よ
あなたには何度も守ってもらった」
ユリアは涙声で言った
「俺も君に救ってもらった」
ジュンは熱を込めて言った
「君がいなかったらあのままずっと
眠れない夜を過ごしている所だった 」
二人の目には新しい何かがあった
そこには疑念も技巧も支配もない
あるのは互いを思いやり
光も影もさらした心
求めあい
受け入れあう気持ち
そして無上の喜びと情熱
ユリアが思い出したように
笑顔で言った
「お祝いに一緒にチョコレートを食べましょう
とびきり甘いヤツを・・・・
私たちが十分愛しあったあとにね 」
ジュンも笑顔でキスを返して言った
「それは2~3日かかるな 」
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