テラーノベル
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オートロックの番号は知っている。
なのに手が震えて上手く打ち込めない。
覚えているはずなのに、なぜか頭の中が空っぽになってしまって、
身体も心もズレまくってもうどうしたらいいかわかんない。
やっとの思いで解錠し、エレベーターを待つ時間も惜しくて全力で階段を駆け上がる。
脂汗と、階段を駆け上った汗で全身びしょ濡れ。
肩どころか全身で息をしながら力任せにドアを開けて叫んだ。
「もとき!!!!!!」
いつも通りの元貴の部屋が広がる。
いつも元貴からする香水の甘い匂いが鼻腔いっぱいに満たされて、なんだか安心する。
すぐそこにある制作部屋のドアを開ければ、ギターを弾いているような気がした。
いつも通り。
真夜中に呼び出された時となんら変わらない景色。
その中に異変が一つ。
鼻歌が聞こえる。
元貴の声じゃない。
だれだ。
答えなんて分かりきってる。
そんなこと、わかってるんだよ。
ああ、真実を知りたくない。
導かれるように寝室の引き戸に手をかける。
指先にぐっと力を込めて、
カウントダウン。
3
2
1
ゼロ。
「あ、りょうちゃん。」
いつも通りの若井がいる。
「きたんだねぇ。」
その後ろに、
いつも通りじゃない元貴がいる。
「ぁ、あぁ、あ、」
言葉が出ない。
声がでない。
心臓がギュッと小さくなってしまって、上手く息を吸えない。
「きれいだよねぇ、もとき。かわいい。」
恍惚とした表情で呟く若井。
「ふざけてるの?これが綺麗?もう動かないんだよ。もう、笑わないんだよ。なのに、綺麗?」
「そうだよ。とってもきれい。」
その顔があまりにも紅潮していて、恐い。
全身の筋肉が縮こまって、震えだす。
これはだめだ。
首にへんな痕がある。
元貴はもう冷たかった。
「ゎ、わかい、警察に、い、いこう、まだ、まだ、大丈夫だから、今だったら、な、まだ軽いかも、」
「え?行かないよ?」
先程までの調子と一転、けろっとした表情で答える。
「な、なん、で、」
「やだなぁ、りょうちゃん。わかってるじゃん。おれ、元貴に必要だから。しかも、バンドは?俺が逮捕されたらほんとにバンドだめになるけど。」
涼しい顔で言う。
わかってるじゃん?
何をどうすればわかることが出来よう。
ぶるぶると震えていたはずの体は、いつの間にか燃えるような怒りと共に烈火の如く熱くなっていた。
「知らないよ!!!!わかりたくもないね!俺は!若井の言ってることが全然わからない!
お前が!殺したんだよ!元貴から羽を奪ったのはお前なんだよ!
それなのに、「俺は必要とされてる〜」だ?馬鹿じゃねえの?必要としてる元貴が生きてなかったら意味無いじゃねえかよ!それに、それに!ここでバンドを人質にするのは卑怯なんだよ!」
何も考えずにただひたすら怒りをぶつける。
それに呼応したのか、みるみるうちに若井も赤くなっていく。
「涼ちゃんにはわかんないんだよ!俺の孤独がよ!元貴だけが希望なの!なのに元貴は外に行こうとする!おれだけの元貴でいて欲しいのに!だから殺したんだよ!生きてたらどこか行っちゃうでしょ、、、、おれを置いて、、」
絶句した。
175
#🍆受け
あまりにも自分勝手すぎる言い分に眩暈がする。
そして何より、
若井の世界に僕がいないことが悲しかった。
目の前がチカチカして立っていられなくなる。
吐き気もする。
白黒する世界の中、僕が気を失う前最後に見たのは、涙を流す若井だった。
end
お疲れ様です。
めありです。
これにて「共喰い」ほんとのほんとに完結です!
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
バイバイ👋
コメント
2件
完結お疲れ様でした…。第6話、息が詰まるような緊張感と、涼ちゃんの怒りと悲しみが痛いほど伝わってきました。「元貴から羽を奪った」「若井の世界に僕がいない」——あの台詞、ずっと心に残ります。歪み合う関係の末の終着点が、あまりにも切なくて。読後もじわじわと余韻がきます。素敵な作品をありがとうございました。