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#アラスター
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「ここ……か」
サロンの住所に行ってみた。サロン・ド・カフェ『マカロン』と表記されている。昨日調べたとおりだ。口コミは、マカロンのお菓子は美味しいと評判。スイーツセットくらい、誕生日のご褒美に食べても罰は当たらないよね。
そんなことを考えてから、はっと気が付いた。ほんとに情けない。誕生日に好きなスイーツのセットを食べることでこんなに悩まないといけないなんて。
お昼ご飯節約すれば、なんとかなる。どうせだったら自分にご褒美あげたい。
なにせよ、5,400円を取り返す目的があるし!
店内はガラス張りで、非常に明るく女性らしい内装で、利用客が半円形の形をしたカウンターの中心に立った、カフェの制服を着用した美麗なオーナーと思しき人の周りを囲うように座っていた。確かに、サロンっぽい感じだ。
行こう。
意を決して店の扉を開けた。チリン、と美しいドアベルが鳴り、談笑していた女性たち3人が一斉に振り返る。わ、注目されてる……。
「いらっしゃいませ」
思った以上にハスキーボイスが耳に届く。中央のカウンター内に立っている、ショートカットの美麗な男性だ。
わ……すごく綺麗な人!
目元はすっと流し目で、きりっとした細い眉に、高い鼻梁に紅を引いたような綺麗な唇。左側だけダイアのピアスが光っている。これは……宝石ジェンヌと呼ばれるだけの美貌だわ……!
「おひとり様ですか?」
「あ……あの。私、横山慎一の妻です。昨夜、自宅に間違えてこのお店から送られてきたマカロンが届きまして……その……代金を返していただこうと……」
先ほどまで談笑していたお客さんも、一斉に私に注目したのでなぜか恥ずかしくなった。数千円のお金を取り返しにくる卑しいやつ、みたいに思われていそうだ。
「これは失礼いたしました。どうぞ、こちらに」
オーナーと思われる人が、手招きして真ん中の席に座るように言ってくれた。「こちらの手違いで大変失礼いたしました。ご足労をおかけしたお詫びに、マカロンセットを召し上がって行ってください」
まるで私が来るのを待ってくれていたかのように、用意されていた席。そこに座ると、彼がおしぼりを渡してくれた。
「お好きなマカロンをお選びください」
革張りのメニューを渡された。色とりどりのマカロンが写真付きで紹介されている。
「あ、あの……じゃあ、おすすめでお願いします」
「おすすめですね。かしこまりました。私はこういう者です。どうぞ、お見知りおきを」
マスターが笑顔のまま私に名刺をくれた。復讐サロン オーナー MAKOTO と書いてある。
えっ、と思って目の前のオーナーを見た。すると彼は意味ありげな笑みを浮かべた。左耳のピアスが光っている。「昨日お渡ししたチラシは受け取っていただけましたね?」
「え……っと」
「手の込んだことをしてしまい、失礼いたしました。実はあるお方から、依頼がございました。美輪さんに接触し、横山家という監獄から救い出して欲しい、と」
突然のことで混乱した。
昨日、M運輸と書かれた普段と違う運送会社が来たのは、そういうことだったんだ。
これは誰からかの依頼だったってこと――?
「い、依頼というのは……誰から……」
「クライアントの名は明かせません。ただ、近しい方からの依頼と申し上げておきましょう。これ以上の詮索はどうか、ご遠慮いただけますと幸いです。依頼者と見当を付けた人物に問いただすこともおやめください」
近しい方――その言葉に胸の奥がざわめいた。
私を心配してくれる人なんて、ひとりしか思い浮かばなかった。
もしかして……静稀が私のために?
いつもいつも心配してくれて、今日だって誕生日の企画をわざわざしてくれた彼女なら……。
「どうして……問いただしてはいけないのですか?」
「復讐という物騒なことを行います。万が一伴侶に知られた時、秘密を守り通すことはできません。その時の保険です。どうかご理解ください」
そうか……。バレるリスクも考えないといけないのね。
「そういう事情がありますので、くれぐれもお心当たりのお相手の方に確認を取ったり、謝礼をしたりしないようにお願いします」
「わかりました。では……私の相談に乗っていただけるのですか?」
「もちろんです。その前にこちらのレシピを見ていただきましょう。ゆっくり、マカロンでも食べながら」
オーナーは意味深な笑みを見せた。怖いくらいに綺麗な人だから、背筋が冷たくなる。
彼が差し出してきたのは、金色のメニュー表みたいなものだった。中を開けてみる。クリアファイルのようになっているので、書類がすぐ見られるものだ。見開きで書類が2枚。1枚は写真、もう1枚はなにか書いてある。
「これは――!!」
1枚目は大きな写真。男女が仲良く手を繋ぎ、見つめ合っている。
男の方はよく知っていた。なぜならそれは、私の夫、横山慎一だからだ――