テラーノベル
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「地獄」。
そこは、罪を犯したニンゲンが堕ちる最後の場所。
薬に殺し、ありとあらゆる犯罪者共が揃った場所。
…そんな地獄には、変わったホテルがあるそうで。
『ハズビンホテルのカートゥーンさん』
…古き良きアニメが始まります。どうぞご贔屓に❤︎
昔から、僕は自由人だった。
これがしたい、あれが欲しい。
でも、それはしたくない。
…子供っぽいからこそ、アニメが好きだった。
リアルな要素は不必要。アニメは虚像が全て。
そう思う僕は、昔のカートゥーンアニメがすぐに大好きになった。
不安定な関節、大袈裟なリアクション、そして少し混じったノイズと砂嵐。
ラジオも似たような点で好きだったけど、僕はすぐ飽きる性格だったから、
途中で止めることがほとんどだった。
…いや、一個だけあったな。毎回最後まで聞いていた番組が。
急に放送されなくなってからは、ラジオを聴くことも無くなった。
カートゥーンアニメを見て育ったような僕は、
その内。自分でカートゥーンを描きたいと思った。
幸い、絵は昔から得意な方だったし、周りにも認めてもらえるぐらいのレベルだった。
18の頃、カートゥーンを描く小さなアニメ工房に入社した。
数十人しかいない会社で、僕は一番大事な表情を描く担当だった。
とある日。
僕はアニメの中で、苦悶の表情を描きたいと思った。
しかし、僕が知ってるのは笑顔溢れるカートゥーンだけ。
…どうしようか。
『う〜ん…苦悶の表情…でも、ここが決まればとっても面白いアニメになるはず…』
自分のデスクで頭を抱えていると、先輩がやって来た。
…思えば、その時別の人が来てくれてたら…
僕は地獄に堕ちることはなかったかもしれないね。
「おい後輩‼︎まだ終わらねぇのか?俺は彼女との大事なデートがあんだよ‼︎」
「さっさと終わらせて鍵閉めさせろクソ‼︎」
…今のご時世は、パワハラって言うのかな?こういうの。
まぁ、その先輩はそういうニンゲンだった。
その日は鍵当番がその先輩で、全員が帰らないと会社の鍵を閉められなかった。
『…すみません。この表情がうまく描けなくて…』
僕はコマ割りの下書きを指差した。
このキャラクターは、もっと苦しんだ。
もっといい表情をするはず。
「あ゛?…んなのよぉ…」
先輩は急に僕のデスクからペンを取り出した。
僕は万年筆で描く方が好きだったから、そのペンは使っていなかった。
先輩はボールペンのノックを押し、キャラクターに顔を描いた。
『…え、がお?』
満面の笑みを。
まるで、恋人を見つけたような。
好きな何かを食べたような。
幸せに溢れた、
とびきりの笑顔。
「こんなん適当で良いんだよ!カートゥーンなんて大体笑ってんだから…」
鼻で笑いながらそういう先輩に、
僕の中の何かが切れた。
『…死ね。』
気づいたら、僕の握っていた万年筆に、
血がついていた。べったりと。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!目が…目がぁぁぁぁ!!!?!?」
大好きなカートゥーンをバカにされた。
その怒りのせいで視界が真っ赤になっていて記憶がないが…。
いつの間にか、目の前にいた先輩の目を、
握っていた万年筆で刺したようだった。
『…それだ、』
思わず呟いた。
先輩が片目を抑え、真っ赤になった手。
悶絶する声。
そして、恐怖と混乱、理解できないほどの痛みに染まった瞳。
『…その表情が、このキャラクターを惹き立ててくれる…‼︎』
求めていた回答を見つけ、声が喜びに震えた。
…いや、この先輩なら、
もっとイイ表情を見せてくれる…よね?
無意識に、自分の口角が上がった気がした。
…気づけば、自分の目の前に肉片が散らばり、
先輩だった何かがあった。
『…殺した、?…まぁ良いか。』
血に濡れた手を着ていた服でぬぐい、
何事もなかったかのように自分の席に座った。
罪悪感も、不安も、ましてや後悔も。
その時の僕には微塵も無かった。
脳に刻み込まれたニンゲンの表情を、
血を吸い込んだ万年筆で描く。
『…なんていい表情なんだ…!今までで一番の出来だ…!!』
不思議なことに、真っ赤なインクで描かれたカートゥーンは、
今まで描いてきた何百枚の表情より活き活きとして、輝いて見えた。
我ながらため息が出てしまう。
『…殺したから?…血で描いたからか…!!』
口元が歪んだ笑みを浮かべるのを感じた。
…無感情に立ち上がると、真っ黒なゴミ袋に肉片を詰め込み、
飛び散った血液を拭いた。
『…もっと殺せば…最高のイラストレイターになれる…!!』
歪んだ結論が、脳内を支配した。
…この日からだった。僕が、
ブラッドデーモン…別名、
『インクデーモン』と呼ばれるようになったのは。
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