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世界一の称号を手にし、それぞれの道を歩み始めていたある日の午後。鬼道の邸宅、その静謐な書斎に場違いなほど不遜な態度でソファに踏んぞり返る影があった。
「……で? わざわざ呼び出しておいて、いつまでその難しい顔を拝ませるつもりだ、天才司令塔さんよぉ。」
不動は、嘲笑を浮かべながら手にした炭酸飲料を喉に流し込む。
その瞳には常に周囲を睨みつけるDom特有の鋭さと、隠しきれない退屈さが宿っていた。
鬼道は一つため息をつき、机の上の書類を片付けるとゆっくりとソファへ歩み寄る。
「そう焦るな、不動。お前がここへ来たということは俺とのプレイに飢えていたということだろう?」
「ハッ、笑わせんな。…お前が俺に飢えてるんだろ?」
不動が素早く立ち上がり鬼道の胸ぐらを掴んでソファに押し倒す。
上から見下ろす不動の瞳が、獲物を捕らえた獣のように光った。
「お前のその澄ました顔、めちゃくちゃにしてやるよ。」
不動が耳元で低く笑い、鬼道の首筋に牙を立てようとしたその時。
耳元で冷徹なほどに静かな、しかしながら抗いようのない重みを持った声が響いた。
「——『Switch』。」
その瞬間、不動の身体に電流が走ったような衝撃が突き抜けた。
指先の力が抜け、視界がぐにゃりと歪む。
「あ…?」
自分の中で支配を司っていた何かが強制的にシャットダウンされ、その代わりに心の奥底に封印していた従属の扉が乱暴にこじ開けられる感覚。
先ほどまで彼を突き動かしていたDomとしての攻撃的な衝動が、内側から急速に冷えていくのを感じた。
「……ッ、ハ……やって、くれたな……。また、これかよ…!」
不動は鬼道の肩に額を押し付け、呪うように吐き捨てた。
「Switch」——その一言で、不動の中の支配と従属の回路は、この男にだけ許した絶対的な主導権(コマンド)によって強引に切り替えられる。
鬼道は不動の腰を掴み、抗う力のないその体を手慣れた動作でソファへと転がした。
仰向けに沈められた不動の瞳は熱い膜が張ったように潤んでいる。それでも、不動は引きつった笑みを消さない。
「クソ……性格、悪いなぁ鬼道クン。そうやって、俺を毎回毎回無様にしねぇと気が済まねぇのかよ……?」
「無様だと? 卑下するな。お前は俺に組み敷かれている方がよっぽど可愛げがあるというもんだ。」
鬼道はゴーグルを外したその瞳で、足掻く不動を静かに見下ろした。その言葉に、不動の頬が屈辱と昂揚で赤く染まる。
「…ははっ、笑わせんなって。…俺を、……っ、屈服させたいなら、もっとマシなやり方を見せろよ。ほら、さっさと俺を、黙らせてみせろよ、天才司令塔さん……っ!」
不敵な笑みの裏で、不動は震える指先は鬼道のシャツを離せずにいた。
「お前は本当に口の減らない男だな。…いいだろう。望み通りにしてやる。—『跪け(Kneel)』。」
重く、深い、逃げ場を塞ぐようなコマンド。
不動の脳内に、真っ白なノイズが走った。「絶対的な服従」の甘さが不動自身を蹂躙していく。
「…っ!クソ…!!」
不動はソファからずり落ちるようにして、鬼道の足元に這いつくばった。
床についた両腕はがくがくと震え、首筋は熱に浮かされたように拍動している。先ほどまでの不遜な挑発は途切れ、代わりに耐えきれないほど濃密な熱い吐息が床を叩く。
「……クソ、……お前、の……声、聴くだけで……っ、体、が……バカに、な…んだ…よ!!」
呪詛を吐こうにも、言葉は熱に溶けていく。
意識がふわふわとし始め暗い海へと沈んでいく中、不動は抗うことを諦めるように、鬼道の足元でその裾をギュッと握り締めた。
「お前のその生意気な言葉をこれから一つずつ、甘い鳴き声に変えていってやる。……抵抗の時間は終わりだ。俺に縋れ。…明王。」
鬼道の指先が不動の髪を掬い上げ、その瞳を見据える。
そこには馴染み深い支配に溺れ、主からの次の支配を待ち焦がれる一人のSubがいた。
不動はもう、言葉を返せなかった。
深い悦楽の淵で、ただ主の熱を求めてその靴の先に額を擦り付けた。