第一章・修行編⑤:「兵庫の圧倒的な実力」
鳥取は全力で地面を蹴り、兵庫へと突っ込んだ。
だが——
「遅い。」
兵庫の静かな声が響いた瞬間、鳥取の視界がぶれた。
ドガッ!!
強烈な衝撃が脇腹を襲い、鳥取は横へ吹き飛ばされる。
「がっ……!」
地面を転がり、砂まみれになりながらも、必死に体勢を立て直す。だが、兵庫はまったく動じていなかった。
「勢いだけじゃ通用せんぞ。」
兵庫は腕を組んだまま、冷静に鳥取を見下ろしている。
「……っ!」
鳥取は歯を食いしばった。これほどまでに攻撃が通じないなんて——いや、そもそも自分はまだまともに攻撃すらできていない。
兵庫の動きは大阪とは違った。大阪はパワーとスピードで圧倒するタイプだが、兵庫は必要最低限の動きで無駄なく攻撃を繰り出し、確実に相手の隙を突いてくる。
(まるで……先の動きを読まれてるみたい……!)
「お前の動きは直線的すぎる。」
兵庫は静かに言い放つ。
「今のお前では、俺に一撃も当てることはできん。」
その言葉に、鳥取は悔しさを噛み締めながらも冷静に考えた。
(どうすれば……どうすればこの人に攻撃を当てられるんだ……?)
砂の上に膝をついたまま、鳥取は考える。そして、一つのことに気づいた。
(俺は、砂丘での戦い方を学んだばかり……なら、それを使うしかない!)
鳥取は深呼吸し、足元の砂を感じる。
——そうだ。大阪との修行で身につけた、砂丘での“流れるような動き”を思い出せ!
「……行きます!」
鳥取は再び兵庫に向かって走り出した。ただし、さっきまでとは違う。直線的に突っ込むのではなく、砂の流れに乗るように滑らかに動く。
「……ほう?」
兵庫の目がわずかに細められる。
鳥取は身体を大きくひねりながら、予測しづらい動きで接近していく。
(この動きなら……!)
しかし——
「悪くない……が、甘い。」
兵庫の足が砂を蹴ると、その場から消えた。
「——なっ!?どこ……」
「ここだ。」
鳥取の背後から、低い声が聞こえた。
ドンッ!!
次の瞬間、兵庫の手刀が鳥取の背中を打ち抜いた。
「ぐぁ……!!」
鳥取の体が前のめりに倒れる。しかし、何とか踏ん張り、膝をつきながら顔を上げた。
「くっ……やっぱり……すごいですね……!」
息を切らしながらも、鳥取は悔しさと興奮が入り混じった表情を浮かべる。
「フッ……まあ、悪くはなかった。」
兵庫は腕を組み直し、少しだけ満足げに頷いた。
「お前は確かに成長している。だが、まだまだやな。」
「……はい。」
鳥取は砂を払いながら立ち上がった。
「けど、俺は諦めません!何度でも挑みます!」
その言葉に、大阪は豪快に笑う。
「おもろいやんけ、鳥取!やっぱりお前はそうでなきゃな!」
兵庫も静かに目を細めると、再び構えた。
「なら、もう一度来い。」
鳥取は深く息を吸い込み、砂を蹴った——!
〈続く〉