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「……わかった。アンナの夢、私たちで叶えよう。私の自慢の娘だ。こんなに辛い気持ちを、小さなアンナは詰め込んでいたんだね。知らなかったとはいえ、よくここまで決心してくれた……」

父は優しく微笑んだ。母もその隣で頷いてくれている。

「でも、辛くなったら、アンナは、逃げてもいいんだ。未来は、どうなるかわからない。アンナだけが、重圧と戦わなくてもいいんだよ。私達に分けてくれて構わない。アンナの家族なのだから……。それに私たちは、アンナから聞いた話を元にこれからは行動するよ。これだけの情報があれば、何かしら打てる手もあるはずだ。そうか、私の孫は王になるのか……壮大な夢だな……!」

静かに笑っている父の目は、私と同じく決意を固めてくれたようだった。

「サシャ、これから私の持っているものはすべて授けるよ。その代り、アンナのことを頼む。孫が活躍するころには私も引退しているだろうからね……」

父に声をかけられる兄の目もしっかり未来を見据えているようだった。

「わかりました、父上。僕にご教授ください。未来の宰相となるヘンリー様を手助けできるよう尽力します。そこが、一番アンナにとって必要な支援でしょう。もちろん、直接支援もしますがね。僕は、社交もアンナほどうまくありません。母上、どうか僕に社交のご教授を。僕の配偶者として、母の目にかなった娘をご紹介ください。僕は、あまり気を回せる性分ではないので、そこも配慮していただけると……」

兄から真剣な話を聞いて、張り詰めていたのだろう私の気持ちが切れた。


ぷはっはははっは……。


吹き出すように笑ってしまう。

「な……アンナ! 失礼だな!?」

憤慨している兄を横目に握られている手とは反対の手でお腹を抱え笑ってしまう。

「だって……お……兄様……そんな風に考えてくれるのが嬉しくて……つい……」

私が見た『予知夢』を私の家族はきちんと認めてくれて、それに対応してくれると言ってくれるのだ。これほど、嬉しいことはない。

『予知夢』は、断片的だ。まだまだ辛いことも、現実にはたくさんあるだろう。

でも、こんな風に大事にされている実感が持てたことが、私には何よりの宝物だ。

「サシャ、アンナは嬉しいのですよ。あなたにそんな風に想われることが。私もサシャの望むような社交を教えましょう。しばらくは、私と一緒に回りなさい。学園の夏季休暇はほぼ、お茶会と夜会だと思うことね。アンナよりもっと厳しくいくわ」

一瞬怯む兄ではあるが、頷いている。覚悟を決めれば、兄は私より強い。

「あなた自身でお嫁さんは決めなさい。18までにはまだ時間があるのだから、私から学んだ社交術で、自分に合う気に入った子にしないと……あなたもアンナも、ちょっと夢がなさすぎるわ……。自分のために道を決めるの。まぁ、夢にまで見るような殿方ならアンナも多少なり気に入っていて選ぶのでしょうけどね!」

茶化す母に私は苦笑いする。

「銀髪の君は、たぐいまれなる美貌の持ち主だよ。殿下もヘンリー様も相当男前だしな……。アンナのメンクイめ……。それにしたって姪っ子がって思うと……気が休まらないな……アンナ以上にいろんな奴が群がるぞ……」

兄の物言いは……なんて失礼なのだ! と思っても、にっこり笑ってやりすごす。

「大丈夫ですよ。自分で何とかできるようしっかり教育しておきます! お兄様のような頭だけいいのに引っかからないように!! 少しは体動かした方がいいんじゃありませんか? 将来、禿たお腹のでたおじさんになられたら……かっこ悪くて見ていられません! 化けて呪ってやるんですから!!」

ハハハ……と、渇いた笑いを漏らす兄。

「化けて出てきちゃうか……それなら、禿たお腹のでたおじさんになるのも悪くないかもしれないな……」

しんみんり言われると茶化した意味がない。

私、死ぬって言っちゃったから仕方ないのだけど……。

「化けてでませんので、しっかり体は鍛えてください。いざとなったとき、お兄様もちゃんと戦うんですからね!!」

「はいはい」といいながら、私の頭をなでる。もう子供じゃないのに……。

「あとひとつだけ、お父様とお兄様にお願いがあります。戦争や内乱が起きるのは必須です。領地に甚大な被害が出るのも見越されます。食料の備蓄、なるべく現金で動かせるお金を貯めこんでほしいのです。そうですね。私が死んでからでも構いません。毎年習慣づけるように用意してください」

「備蓄か。今までは考えたことがなかった。フレイゼン領も農作物には余裕のあるほうだったからね」

「そうですね。私もアンバー公爵家へ嫁いだら提案してみますが、それよりかは、私が領主代行になってからのほうがいろいろと都合がいいので、それから手を打つ予定です。あと、人材がほしいと連絡をしたら、何人か優秀な人を譲ってくれませんか? 学校を建てたいと思っていますので、そこで現地の人も含めて雇うつもりです。まだまだ先のことですが、人を育てるのには時間がいりますので……。字が書ける、読める、計算ができるは当たり前、あとは帳簿がつけられるとか、農業の研究をしているとか地質研究しているとか……とにかく、基本の読み書きと何かに特化した人材がほしいです。私も何人か見繕いますが……なかなか学園卒業の人をスカウトするのは、難しいですからね……」

『予知夢』から得た情報をいかに効率よく現実に結び付けて、悲劇を回避できるように準備できるかが、私の今後の課題だ。学園でも私に賛同してくれる人を見つけないといけない。

「了解した。10名ほど、育ててみよう。こちらとしても、研究成果を領地に反映してもらえば、いいことだからな。備蓄も考えておく。来年あたりから基礎を作ってみよう。まず、モデルケースとしてしてみるから、アンナが領主代行になれるのであれば、手本にするのもいいだろう。サシャも手伝いなさい」

「わかりました」と返答している。兄もなにか思いついているようだ。

「では、夜もだいぶ深まりましたので、そろそろ寝ましょうか?」

話を押し黙って聞いていた母は、どう思っているのだろう?

両親とも複雑な表情をしている。隠しきれていないのだ。

「あとは、私たちが協力体制を作るから、アンナはゆっくり自分の人生を歩みなさい。今日は、話してくれてありがとう。いろいろと考えさせられたよ」

父に言われた言葉は、母も思っていることなのだろう。

「お父様、お母様、そしてお兄様。ありがとう。私、自分がやりたいように生きるわ。でも、たまには甘えさせてね?」

にっこり笑って三人に「おやすみなさい」と挨拶をして部屋を出た。

ハニーローズ  ~ 『予知夢』から始まった未来変革 ~

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