テラーノベル
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それから一週間。
まろの生活は……少し、平和やった。
トイレもすんなり行けたし、授業中に謎のツッコミも飛んでこん。
風呂も静か。風呂桶が勝手に動くこともない。
寝てるときに「うらめしや〜」って囁かれることもなくなった。
でも——
「……ちょっと、さみしいな」
自分でもびっくりするほど、ぽっかり穴が空いたような気分やった。
◆
夜の公園。星が出てる。
ひとり、ブランコを揺らすまろの横に、ふと風が吹いた。
「おーい、まろぉ〜」
——聞き覚えのある声がした。
でも、姿はない。
「……あにき?」
風がまた吹いた。
「ちゃうで、俺はもう“姿の見えん”状態や。Wi-Fiの圏外や」
「だからなんやねんその比喩……!」
どうやら本当に、“誰にも見えへん”存在になったらしい。
でも、声は聞こえる。まろにだけ。
幽霊ver.2.0かもしれへん。
◆
その日からあにきは、“見えへん幽霊”として復活(?)した。
授業中——
「なあまろ、あの先生カツラやろ?」
「やかましいわ」
「カツラめくったらお前の答案写すで」
「いらんテレパシー能力つけるなや!」
周囲からは、完全に“独り言しゃべる変人”扱いや。
でも、慣れてきた自分がちょっと怖い。
◆
ある日。まろのスマホに、見覚えのないメッセージが届いた。
『来い。夜12時。旧体育館の裏。あにきより。』
「なんでLINE使えんねんお前!?」
「やっぱ電波って便利やな」
そういう問題ちゃうわ!!
◆
そして深夜。まろは旧体育館の裏に立った。
体育倉庫がぼろぼろに壊れかけてて、風の音もやたら不気味や。
「……あにき?」
しーん。
……返事がない。
そのとき、倉庫のドアが、ぎぃ……と開いた。
中から出てきたのは——
「うふふふふ……」
「うっわまたあの女の霊ぃぃぃぃ!!!」
「ただいま〜♪」
「まさかの再登場ぉぉぉぉぉ!!」
あにきが連れてきたらしい。
「まろ、紹介するわ。ないこや」
「名前つけんな! 誰が親しみ持つか!」
「実はこの子もな、浮かばれへんくて困っててな」
「え、ってことは——」
「同居人になることになったわ」
「聞いてへんで!? 俺の了解どこ!?」
その日から、**“まろ、幽霊二人に囲まれる生活”**が始まった。
◆
深夜、トイレ。
背後からふたつの声がする。
「あれ、まろくんまだ?」「おそいで〜」
「いや来んなて言うたやろぉぉぉぉおお!!」
◆
期末テスト。
あにき「お前、ここ間違ってるで」
ないこ「そこ漢字ちがう〜♪」
まろ「うるっさいわァァァァァァ!!」
しかもカンニングになるから声に出せんし!
せやけど正解率めっちゃ上がったのは内緒や。
◆
そしてある日——
なつこが、ふと寂しそうにつぶやいた。
「……わたしも、まろのこと見えなくなったらどうしよう」
「お前まで成仏の準備してんの!?」
「あにきに、教わったんや。“最後は、ちゃんと笑って別れるのがマナー”だって」
「……そんなん、マナーちゃう……ずるいやん……」
幽霊に、情うつしてどないすんねん。
でもな——
この毎日、案外楽しかったんや。
怖いことだらけやけど、ちょっとだけ、おもろい。
◆
夏の終わり。蝉の声がフェードアウトしてく中。
まろは、寝転びながらぽつりとつぶやいた。
「なあ、あにき……」
「なんや」
「死んでまでうるさいの、ほんまお前だけやで」
「光栄やなあ」
「……でもまあ、もうちょい居てもええで」
——静かな沈黙。
ふっと、風が吹いた。
どこからか、あにきの声が聞こえた。
「せやろ?」
コメント
1件
一生ついていきますぜ☆ いやぁーカオス中のカオスと言うかなんと言うか......w