どこまでも着いて来る衛兵をなんとか撒くも、着いた先は本来「着きたくない国」だった。
五感が戻ってしまったせいもあり、衛兵たちが今も追って来ていると背筋に嫌な汗が流れる。
世界が騒ぎになってるんじゃない。
『僕』を探しているんだと分かってから、彼らを『敵』だと認識した。
息が荒くなる。
暗い茂みの中に隠れた大きく、不気味な赤い鳥居に足を踏み入れる。
それと同時に、元々鳥居自体に貼られていたであろう透明な「膜」が全身を潤した。
追いかけられていた最中、他の国に行こうとも考えたが通行証というものが必要となる。
けれども僕は何も持っていない。
身分証でもあれば通行証を発行出来るが、それすらも無いとなればどこの国も怪しんで入れてはくれないだろう。
だから通行証も身分証も必要の無い、1番遠かった目の前の国を選んだ。
敵に回したくない国で常にトップを誇っていた「運営国」。
国民が強いというだけでなく、幹部、ましてや国をまとめる総統すらも強いと評判だった。
そう…評判だった。
口の中に血の味が滲む。
先程の薄暗い森は消え、目の前には栄えている街があった。
どこもかしこも祭り賑わっているその風景に、思わず懐かしさを覚える。
けれども、自身が立っている入り口付近の人間たちは真剣な面持ちで何か焦っている様子だった。
横切る1人を呼び止めて話を聞いてみる。
「えぇ…?旅人?今は幹部様達が人探しをしているみたいでして…悪いですが、俺も手が回らないので道案内なら他の人間に頼んで下さい」
そそくさと早足で逃げて行く背中。
人探し…それはつまり…。
運営国内にオレンジ色の薄黒い光が差し掛かる。
取り敢えず宿を取ろうか…と考えたが、今は一文無しだったということに気がつく。
頭を悩ませていると、見知った色が中央広場へとテレポートしてくるのが見え即座に門を潜る。
またもや森の中へと出ると、思い切り走った。
先程よりも暗くなった森の中は足がぬかるみ、岩や石などの障害物が多く足が傷ついていくのが嫌でも分かる。
痛い…けれども逃げたい。
現実から目を背けたい。
僕は馬鹿なことに、山の麓ではなく頂上を目指して走っていたらしく酸素が徐々に薄くなる。
慌てて山道を走ったからか、口に入る酸素濃度が薄いせいで頭が上手く働かない。
下手な行動を取ってしまった。
「逃げる」なんて選択肢を選んだ時から、嫌というほど分かっていたことなのに。
薄くなった空気を取り込んだ脳がゆっくりと神経伝達を遅らせていく。
手足は震えるばかりで一向に走れそうに無い。
仕方なく山道を歩いていると、後ろからガサガサという音と共に中央で見た色が現れる。
彼は僕の手を取る。
逃げようと足掻く。
けれど、力が入らない。
意識を手放すのは、左程遅くはなかった。
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コメント
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面白くて更新頻度が高い 小説家は神 いつもありがとうございます