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エースと腕を組みながら街を歩いた。
「帽子屋の屋敷には後どれくらいで着くんだ?」
「んー。もうすぐ着くけど花屋さんに寄ってくよ。」
「花屋?何で花屋に行くんだ?」
ボクはエースに質問した。
「招待状にも書いてあったでしょ?薔薇を胸に飾って行かないと入れないんだよー。」
「あぁ…。確かに書いてあったような…。」
そんな話をしているとワゴンの花屋を見つけた。
「忘れんぼうだなーゼロは。ちょっとここで待ってて。」
そう言ってエースはワゴンの花屋に向かって走って行った。
ボクは近くにあったベンチに腰を下ろした。
周りに視線を向けるとこの広場全体に恋人同士の男女が沢山いた。
ここは恋人達の聖地なのかもしれないな。
ここの世界の人間は皆んな幸せそうな顔をしている。
恋人達や店の人間、道を歩いている人間も。
皆んな幸せそうだ。
ボクのいた世界では考えられない光景だ。
コツコツ。
誰かが左の方向からボクに向かって来ている。
足音からして2人だな。
殺意を持っている視線ではない。
この視線は…、獲物を狙う視線だ。
「やぁ、素敵なお嬢さん。お暇ですか?」
「宜しければ僕等とお茶でも飲みませんか?」
赤いスーツの男と青いスーツの男の2人組がボクに話し掛け来た。
いわゆるナンパだ。
「連れが戻って来るので。」
ボクは冷たく言い放った。
「良いではありませんか。」
「まだお連れは戻って来ていませんし良いですよね?」
青いスーツを着た男がボクの肩に触れようとした時だった。
スウッ。
ボクの後ろから白い肌の手が伸びて来て肩に触れた。
ピクッ!!
自分の体がピクッと跳ねた。
そして、そのまま後ろに抱き寄せられた。
2人組の男はボクの後ろを見て顔を青くした。
「俺の彼女に何か用かな?」
この声は…帽子屋だ!!
振り返るとそこに居たのはやはり帽子屋だった。
帽子屋の気配だけ分からなかった。
「い、いや!!」
「お、俺達この子が帽子屋の彼女だって知らなくて…。」
2人組の男はアタフタしながら答えた。
「そ。用がないなら良いよね?」
「「失礼しました!!」
タタタタタタタッ!!
2人組の男はその場から走ってどこかに行ってしまった。
「大丈夫かいアリス?」
「え、えぇ…。助かったわ。」
ボクは咄嗟(とっさ)にに女言葉を使った。
「こんな所で1人でいるの珍しいね。」
「エースと来てたの。あそこの花屋で薔薇を買って来てくれてるの。」
「へぇー。エースにエスコートされてたんだ。羨ましいな。」
そう言ってボクの隣に座って来た。
「ごめーん!!遅くなっちゃ…たってあれ!?」
2本の赤い薔薇を持ったエースは帽子屋の姿を見て驚いた。
ボクの名前を出さなくて安心した。
ここでエースがいつものようにボクの名前を出していたら帽子屋に言い訳がつかなかった。
「マッドハッターがどうしてここに?!庭で待ってたんじゃないの!?」
エースは驚きを隠せない状態だった。
内心ボクだって驚いている。
「茶葉を買いに行ってたんだよ。んで屋敷に戻ろうと思ったらアリスが絡まれてた訳。ちゃんとエスコートしないと駄目だろエース。」
買って来た茶葉を見せながらエースに注意をした。
「え!?絡まれてたの!?ごめんねアリス!!何もされなかった?」
そう言ってエースはボクの前でしゃがんだ。
「大丈夫だよ。」
「今日のアリスは可愛いんだから。ほら、ここにいる男達はみんなアリスに夢中だよ。」
帽子屋がボクの耳元で囁いた。
「え?」
そう言われて周りを見た。
彼女を連れている男や店の男性店員がボクの事を見ていた。
「ね。さ、お手を。ここからは俺がエスコートします。」
帽子屋が手を差し出して来た。
ボクは恐る恐る帽子屋の手を取ると、帽子屋は流れるように自然に自分にボクの腕を絡ませた。
女慣れしているなコイツ…。
エースは後ろでソワソワしてるし…。
「エースどうかしたのか?落ち着きがないが。」
「え!?いや、何でもないよ!早く行こう!!」
「相変わらず変だな。」
帽子屋は細かい表情の変化を見逃さない。
勘が鋭い。
ロイドに詳しく話を聞いていなかったら会話出来ていなかった。
帽子屋の事はハッターと呼んでいたらしい。
そしてこの状況ならアリスはこう言うだろう。
「またエースに意地悪言って。早く行きましょ?」
そう言ってキュッと帽子屋の腕を引っ張った。
「ハハハッ。アリスは優しいな。お喋りはこの辺にしてそろそろ向かおうか。」
「もうすぐ13時になっちゃうよ!急ごう!!」
エースは持っている時計を見て帽子屋の背中を押した。
ボク達は他愛のない話をしながら帽子屋の屋敷に向かった。
帽子屋の屋敷はハートの城よりは小さいが立派な屋敷だった。
庭にはすみれとパンジーが沢山咲いており、パステルカラーの紫と白が特徴的な屋敷だった。
ボクと帽子屋は腕を組んだまま屋敷内にある庭に向かっていると、後ろから怒りの混じった声がした。
「何でアリスと腕を組んでるのよ!!」
振り返ると怒っている黒いドレスを着たマリーシャの姿があった。
「うげ、マリーシャ…。」
エースはあからさまに嫌な顔をした。
あちゃー。
この状況見たらマリーシャが怒るのも無理はない。
ボクは帽子屋の腕から離そうとした。
ガシッ。
帽子屋がボクの腕を掴んだ。
え?
「何でって聞いてるじゃん!!何で答えてくんないの!?」
「お、落ち着きなよマリーシャ…。帽子屋はアリスが男に絡まれてる時に助けたんだよ。そ、それで帽子屋がここまでエスコートしたんだよ。」
エースがマリーシャに事の経緯を説明した。
「アンタに聞いてないよの!!あたしはマッドハッターから聞きたいの!!」
マリーシャはエースに怒鳴り付けた。
「ちょっとエースは悪くないんだから怒らないであげてよ。」
ボクがそう言うとマリーシャが睨み付けて来た。
「そもそもアンタが男に絡まれなきゃ良かったのよ!!良い子ちゃんぶるのもやめてよ!!」
「マリーシャ。」
「っ!!」
ピタッ。
帽子屋がマリーシャの名前を呼ぶと動きを止めた。
「五月蝿い。」
さっきまでニコニコしていたのにスッと笑顔を無くした。
「だ、だって…。」
「だってじゃないよ。せっかくのお茶会を台無しにする気か?これからはマリーシャを呼ぶのをやめておこう。」
「ヤダヤダヤダ!!」
帽子屋の言葉を聞いてマリーシャは顔色が一気に青くなった。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
マリーシャが帽子屋に近付き何度も何度も謝った。
そんなマリーシャの様子を見ている帽子屋はゾッとするくらい冷静で、感情が1つも無いように見えた。
コイツ、本当にマリーシャの事を道具としてしか見てない。
「全く何の騒ぎー?」
扇子を扇ぎながらインディバーが現れた。
また一段と派手な格好をしていた。
「またマリーシャが帽子屋の機嫌を悪くしんたんだよ。」
エースがインディバーに事情を説明した。
「またぁ?アンタも懲りないわねー。さっさと庭に行きましょうよ。空気悪くならないうちにこの話はもうやめなさいよ。」
話を終わらすようにインディバーはパンパンッと手を叩いた。
アリスはいつもマリーシャの事を庇ってあげてたんだったな。
「マリーシャは悪くないわ、悪いのは私だもの。気を取り直してお茶会を始めましょ?」
「アリスがこう言ってるんだからさーもうこの話は終わり!!さっ行こう!!」
そう言ってエースが帽子屋の背中を押した。
マリーシャは何度も何度も謝罪の言葉を言いながら帽子屋の後に付いて行った。
帽子屋がボクの腕を離してくれないから腕を組んだまま庭に向かった。
庭に着くと大きな白いテーブルが置かれていた。
テーブルの上にはスコーンやケーキ、サンドウィッチ。
ティーポットとミルクや砂糖、沢山の種類のジャムが置かれていた。
まさにお茶会って感じだった。
凄い素敵ってアリスは思うだろうな。
「素敵なティーセットねハッター。」
「アリスに褒めてもらえて光栄だなぁ。」
そう言って帽子屋はボクの手の甲にキスをした。
マリーシャは唇を噛み締めながらボク達を見ていた。
アリスの事を相当嫌いだなこりゃ…。
帽子屋もわざとやっているし。
性格悪いなー。
そんな事を考えていると変な声が聞こえた。
「むにゃ…。むにゃ…。」
テーブルの下から誰かの寝息が聞こえた。
「ん?」
ボクは不思議に思いテーブルの下を覗いた。
そこにいたのは大きなクッションを枕にして白いシーツに包まって寝てる男がいた。
「へ?」
「あらあらー。ズゥーったらまたこんな所で寝ちゃったのねぇ。」
ボクの隣にいたインディバーがシーツをもぎ取った。
シーツから出て来たグレーアッシュの髪はボサボサで目の下には大きなクマがあった。
いわゆる美人年だ。
「起きなさいよズゥー!!マッドハッターに迷惑かけないでよ!!」
マリーシャがズゥーの耳を引っ張った。
「痛い痛い?!」
ズゥーは勢いよく体を起こした。
ゴンッ!!
その衝撃でテーブルに頭をぶつけた。
「痛い…。マリーシャのせいだぁ。」
「アンタが変な所で寝てるのが悪いんでしょ。ホラ、さっさと出て来て。」
そう言ってマリーシャはズゥーの頭を撫でていた。
あれ?以外にもズゥーに優しいではないか?
「さぁ、ズゥーも起きた事だし、お茶会を始めようか。」
帽子屋の掛け声でお茶会がスタートした。