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#能力者
紅優
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上野文
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大怪獣を前にしてみれば、人間など蚊にも等しい。その攻撃は、血を吸う蚊程度にしか怪獣には感じさせず、つまるところ痒くはあっても痛くはない。
慧太はそう思った。
セラの聖天、その第二撃が怪獣の首に炸裂する。今度は右側の青頭だ。中央の首より柔らかいかもしれない――との考えのようだが……こちらも表面を多少焼いた程度で終わった。
アルフォンソの背に乗り、怪獣の上空を抜ける。百発百中のリアナの弓から放たれた矢は、動いている竜頭、その赤い目を直撃した。……したのだが、刺さらなかった。
空中を飛んでいるから多少の風が巻いているのは仕方がない。だが刺さらなかったというのは、怪獣の目が硬い物質で出来ており、貫通できなかったということだろう。
鋼の皮膚を持つ、見るからに機械的な身体を持つ怪獣だ。装甲の厚さを見ても、実はリアナとは相性がかなり悪そうだと思ってはいた。とりあえず、それを目の当たりにしたわけだが、それで呆けているわけにもいかない。
青い竜頭が、小うるさい攻撃に終始する慧太やセラたちに熱線を浴びせようとする。
だが怪獣の対空性能は大したことがない、それが慧太の見立てだ。
当たれば一撃でこちらはやられるだろうが、熱線を吐くまでの予兆を見逃さず、全力回避に徹すれば何とか避けられる。……もちろん油断したら即、死だ。
「慧太くん!」
ユウラの声。視線をやれば、彼が離れるよう合図していた。……どうやらデカい魔法を使うようだ。アルフォンソの離脱を命じれば、漆黒竜は急降下に転じて速度を稼ぎつつ、怪獣から離れた。
直後。激しい爆発音と紅蓮の火球が広がった。ユウラの魔法『爆砕』だ。屍人に汚染された集落を吹き飛ばし、魔人軍の部隊を文字通り灰燼(かいじん)に変えた大魔法だ。しかも――
「爆発がでかい……!」
これほど大きな火球は初めてだった。大怪獣の三つの頭とその前足にかかる部分を覆いつくす勢いで広がった大火球。熱が表面を焼き、衝撃で甲羅の表面が剥がれた。
大怪獣の足がとまった。だが、それだけだった。
炎が消えたとき、三つの竜頭は天に吠えた。大気をも揺さぶる咆哮。まるでその程度の魔法など何でもないと誇示するように。
「ユウラの魔法ですら効かないなんて……」
リアナの表情に、珍しく緊張感が濃くなる。
「ああ、恐ろしくタフな奴だ」
慧太は同意した。単純な攻撃力で効果がないとなれば、どこか弱点がないか探すしかない。
竜頭が、ユウラの乗る漆黒竜へ熱線を集めた。竜は下降して攻撃をかいくぐる。
その隙に、今度はセラが怪獣に近づいた。右手の銀魔槍――いや、よく見れば剣に切り替わっている。だが刀身には再び光が集まっていた。三度目の聖天だ。
今度は上から下へ振るう形で聖天一閃が放たれ、右の竜頭、その首へと叩き込んだ。……なるほど、首を落とそうというのだ。またも光の一撃は弾かれるが、慧太はセラの狙いのよさに思わず口もとに笑みを浮かべた。……彼女も考えうる弱点を探り出そうとしているのだ。
「本当、タフだよな……」
あれだけ攻撃が効かないのを目の当たりにすれば、心が折れてもおかしくない。だがセラはまだくじけていないのだ。
――ああいうのは、本当に最後の一人になっても戦い抜こうとするんだろうな……。
まったく、頭が下がる。慧太もまた、その心の底が熱くたぎっていた。
「首が落とせないとなると、それより太い足を叩いて、足を止めるのも難しいだろうな。……いや、関節部分をどうにかすれば、あの見た目だ。おそらく自重が支えきれなくなって止められるか……」
大怪獣の姿を観察しつつ、慧太は考えを巡らせる。――まあ、足を止められたとしても、息の根を止めない限りはどうしようもならないが。
ユウラが大怪獣のまわりを旋回しながら、電撃弾を浴びせている。甲羅部分は削れるが、あまり効果はなく、では甲羅以外の表面はといえば、こちらも焦げ跡をつける程度に留まった。
「外がダメなら中から、というのが定番だが」
熱線を吐く口からは論外。一瞬、奴が口腔から熱線を吐き出す瞬間に、爆弾矢でも口の中に放り込んだらどうかとも思ったが、たぶん効果を発揮する前に熱線を吐かれて、こちらがやられると想像できてしまった。当然、没だ。
サターナが視界をよぎる。セラが光の槍を放ち、竜頭の注意を引けば、その熱線が重ならないよう、他の竜頭を牽制し引き寄せている。……彼女はきちんと援護に徹しているのだ。竜頭が複数同時に熱線を放てば、全力回避でもかわしきれない可能性がある。
――よしよし……。
慧太は、大怪獣の弱点探しに意識を集中する。そこへユウラの漆黒竜がそばにやってきた。
「慧太くん! 攻撃してみての雑感、いいですか?」
「頼む!」
何か攻略のヒントがつかめるかもしれない。ユウラは言った。
「まず、こちら側の攻撃はほぼ表面で受け止められているため、カイジューに損害を与えていません! 外部からの攻撃では何か別の方法を考えないと駄目でしょう」
次に――ユウラは声を張り上げた。
「このカイジューは、この世界の、いえ普通の生き物とは異なる存在だということ。本来、生き物には多かれ少なかれ、魔力を持っているものですが、このカイジューにはそれがありません!」
「魔力がない……」
まあ、見た目が機械の獣じみたスタイルだから、そうだとは思っていたが。となると、大怪獣は機械で確定だ。
「もし魔力があれば……」
ユウラは首を横に振った。
「内側から魔法を発動することもできたのですが……申し訳ない。僕の力ではそれができません!」
内側から魔法……そういうこともできるのか――慧太は思ったが口には出さなかった。さすが魔法に関しては天才のユウラだ。が、その彼とて万能ではない。
「ユウラ、まず足回りから攻めてみよう!」
慧太は吹き荒む風に負けないように声を張り上げる。
「何とか奴の足を止めてみるんだ。方法は任せる!」
「それは丸投げですか?」
苦笑するユウラに慧太も笑みを返した。
「オレはあんたの限界を知らないからな! 魔法に関してはあんたはオレより頭がいいだろう? 失敗してもあんたを責めないから思うようにやってくれ」
「……これも信頼の形なんですかねぇ」
わかりました、と青髪の魔術師は頷くと、竜を操り大怪獣のほうへと向かった。慧太はアルフォンソに怪獣の背中方向へと回りこませる。
リアナが口を開いた。
「わたしたちは、どうする……?」
「考えてる」
慧太は答えた。しかし迷いや弱気は欠片もない。
「外からは充分見た。……ひとつ、奴の背中に直接降りて、弱点を探してみようじゃないか」
大怪獣の背中、岩山のようにごつごつした甲羅。先ほどから見るに、竜頭の稼動範囲は真後ろを見ることはできても熱線を放つことはできないようだった。つまり、一度乗ってしまえば、そこを攻撃する手段を怪獣は持っていないということだ。
慧太とリアナを乗せた漆黒竜は大怪獣の後方からランディングのアプローチをとる。が、そこで慧太は見た。
怪獣のまわり、そこで行われている戦闘の様子を。
――ああ、しまった。こいつらを忘れていた……。
トリアシと恐竜モドキ――それらが王都を闊歩し、アルトヴュー王国の王都警備隊と戦っていた。
魔鎧だろう、人型兵器が、トリアシのビーム攻撃を立て続けに喰らい、手足をもぎ取られて倒れる。
トリアシに似た警備隊のゴレムが瓦礫を避けながら、距離を詰めようとするが、フレイムガンと、トリアシのビーム砲では性能に雲泥の差があった。
――あれでは、的じゃないか。
漆黒竜は、大怪獣の背中に滑り込むように着陸する。慧太とリアナは素早く、岩山のような甲羅の上に降り立った。
コメント
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第287話、読了しました🥀 大怪獣に対してほぼ攻撃が通らず、苦戦する慧太たちの姿がすごくリアルで…でも、それでも諦めずに弱点を探そうとする姿勢が胸に響きました。ユウラに「限界を知らない」って言う慧太の信頼の言葉、すごく良かったです。あと背中に直接降りる作戦、なるほどなって思いました。トリアシたちの同時進行の戦いも気になります…! 次が楽しみです🌙