振り返ると母がどんぶりを熱そうに、ダイニングテーブルに運んでいた。
その様子を見て僕はローテーブルに置いた四ツ葉サイダーの入ったグラスを左手に
テレビのリモコンを右手に持ち
どんぶりの置かれたところのイスを引きそのイスに腰を下ろす。
目の前のどんぶりには山になったもやし
右側に海苔が2枚、左側にハムが数枚乗った味噌ラーメンが入っている。
もやしの香ばしい香りが強く
次にハムの香りその奥に主役のはずの味噌ラーメンのスープの香りがする。
その香りを嗅いでいるとまるでドラマやアニメのようにお腹の音が鳴る。
一瞬自分のお腹に視線を落としすぐに視線を上げると
母が目の前に自分の分のどんぶりを置き座る瞬間だった。
母も僕と同じ味噌ラーメンだ。僕は唾を飲み込み
「いただきます」
と手を合わせ箸を持つ。
「はい、どうぞ。いただきます」
母もそう言い箸を持った。
僕は山になっているもやしを崩し、重なっているハムを一枚剥がす。
そのハムの上にもやしを置き、ハムで包んで、口に運ぶ。
ハムの味と香りがダイレクトに来る。
一口噛むと柔らかいハムを通り過ぎた歯にシャキシャキのもやしの食感が伝わる。
するとハムともやしの香りが重なった。
噛み進めているとじきに味噌ラーメンのスープの香りと味が
ハムともやしを後押すように追ってきた。
僕から見てどんぶりの奥にもやしを寄せ、次に麺を発掘し始める。
たまご麺というのだろうか。黄色く少し波打つ麺を箸で4、5本掴み口へ運ぶ。
麺を箸ごと口に入れ、箸を抜き、麺を啜り上げる。
味噌ラーメンのスープの香りが鼻に抜ける。
恐らくこの麺にも味がしっかりあってこの麺のこの味だから美味しいのだと思うのだが
そんな考えもかき消してしまうほど濃い味噌ラーメンのスープの味が口の中一帯に広がる。
まだ麺が口の中にいる間にどんぶりを持ち、直接口をつけ、スープを一口含む。
旨味が口の中で爆発する。
「うん、やっぱり味噌ラーメンは美味しいね」
母も味噌ラーメンの旨味が口の中で爆発したらしい。
「うん。うまいね」
口の中の爆発物を飲み込んでから母にそう返した。
テレビでは僕が再生したお酒のアテになる話が流れている。
「あぁ〜好きな声ね〜でもあれだよね。朱井翔太くんの声可愛いよね」
とお酒のアテになる話の中の話題が「好きな声について」というものであり
母がゲストでありその話題を出した張本人の
人気声優である朱井翔太(アカイ ショウタ)さんの声を好きだと言った。
「女の子っぽいよね。顔も声も。
あんまアニメ見ないオレでも知ってるってすごいよね」
そう爆発物を食べつつ母と話す。
「あ、私怜夢の声も好きよ」
突如放り込んできた。
「なんか中学のときも高校のときも言われた記憶あるわ」
「ん〜たぶん怜夢が小学生のときにも言ってたかな」
なんだそのレベルアップするごとに
同じチュートリアルが毎回出てくるみたいなやつは。そう思いながら
「小学生のころは覚えてないけどたぶん小学生のころは
子どもっぽい高い声で中学2年くらいから徐々に声変わってって
高校では今の声になってただろうからその時その時で違うでしょ。
「オレの声」が好きなんじゃなくて普通に「息子の声」が好きなだけでしょ」
そう言い終わると僕は麺を啜った。
「まぁたしかに大切な息子の声ってだけで好きなのはたしかなんだけど
怜夢の声はね、小学生のころは鈴の音みたいな高くて綺麗な声でね
たしかに声変わりしていって今は少し男の子っぽくなったけど
まだ節々に小学生のころのその鈴のみたいな高くて綺麗な声が残ってて好きなのよ」
母はそう笑いながら味噌ラーメンを食べ進める。
相手がいくら息子だからと言って恥ずかしくないものなのか?そう思いながら返事もせずに
僕も味噌ラーメンを食べ進める。
その後も母とお酒のアテになる話を見ながらそのテレビの話題について話したり
他愛もない話をしたりしてお昼ごはんを食べ終えた。僕も母もスープは半分くらい残した。
「ご馳走様でした」
僕はそう言うと味噌ラーメンのスープが半分ほど入ったどんぶりを持ち
キッチンの流しに持っていく。
流しに残した味噌ラーメンのスープを流し、蛇口を上げ水を出し
空になったどんぶりに水を入れる。
どんぶりから少し水が溢れたくらいで蛇口をさっきとは逆に捻り水を止める。母が
「ご馳走様でした」
そう言いながらキッチンへ来て僕と同じ行動をした。
僕はさっきまでいたダイニングテーブルの上に置いてきた
小さくなった氷だけが入ったグラスを手に取りもう一度キッチンへ戻る。
小さくなった氷の上に新しく氷を入れ冷蔵庫を開け、四ツ葉サイダーを手に取り
グラスに注ぎ、四ツ葉サイダーを戻し冷蔵庫を閉じた。
炭酸の粒がグラスのから飛び出るほど元気で弾け踊る四ツ葉サイダーの入ったグラスを運び
昼ご飯の前にいたソファーに腰を下ろす。
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