聞き慣れたスマホのアラームの音で、目が覚めた。
手探りでスマホを探して、ベッドサイドのテーブルの上にあったそれを止めて。
ふあぁ、と小さくあくびして。
今日のスケジュールはなんだっけな、と思い出しながら、ゆっくりと起き上がろうとしたら。
(………………ん??)
なんか……なんか、変だぞ。
まるで腰から下が別人みたいな。
腰に力が入らない……って、あれ?
「……いってぇ……!」
無理に起き上がろうとしたら、文字通り目が覚めるような激痛が走った。
やべぇ。
まずい。
これは…………
(ぎっくり腰だー……!!)
終わった。
はい終わった。
終わったね。
どうしよう。
どうすんだマジで。
寝室の天井を眺めながら、必死に頭を回転させる。
今日も明日も次の日も毎日毎日、予定がパンパンに詰まってるのに。
つーか動けないじゃん。
本当に終わってんじゃん。
え、でもなんで?
なんで急に?
昨日、なんか……寝る前に激しい運動したっけ……?
「……あ」
顔だけそーっと動かして、隣を見る。
すやすや。
すやすや。
子供のようにすこやかな寝息で、気持ち良さそうに眠っている男……。
こいつだ。こいつのせいだ……!
「ちょ……わか……若井!」
「……へっ」
耳元で急に大声で名を呼ばれ、若井がビクッと目を開ける。
「……あ、おは、よう元貴……」
「おはようじゃない。動けない」
「え……?」
「腰が!動かない。ぎっくり腰になったっぽい」
しばらくむにゃむにゃしていた若井も、ようやく事態が飲み込めてきたのか、ガバッと起き上がって、焦った顔で俺を覗き込んできた。
「えぇ?まずいじゃん!」
「だから、そうだよ。やばいのよ」
「今日仕事だよね?」
「今日も明日も明後日も我々ずっと仕事ですね」
「ど、どうする?あっ!俺が元貴を現場まで抱っこしてくってのはどうかな!」
「え何言ってんの?名案だみたいな顔してるけど」
「あーでも、俺と元貴そんなに体重変わんないから無理かー」
「いやそういう事じゃないのよ可能か不可能かって話じゃないのよ。ちょっと笑わせないで痛い痛い痛い」
「大丈夫?」
「に見えます?」
「見えませんね、はい。」
「ちょ、とりあえずさぁ、起こしてくんない?」
「よしきた」
若井に俺の背中から腰を支えてもらいながら、ゆっくりゆっくり、慎重に起き上がる。
ぎっくり腰の時は、寝ている姿勢から起き上がるのが一番しんどい訳なので、とにかく起き上がれさえすれば、後はなんとかなる……筈だ。
とにかくまずは、寝室から出て、恐る恐るリビングのソファに移動。
「抱っこしてく?元貴」
「黙ろうか」
「はい。」
なんとかソファに座り、マネージャーに連絡。
事情を説明。
「迷惑掛けそうな関係各所への調整を要請して…、と。これでよし」
「調整を要請って、なんか韻踏んでてラップみたいだね」
「黙ろうね」
「はい。」
「はい。じゃねぇのよ痛いんだから下らない事言って笑わせないで?さっきから!本っ当に!」
「ごーめーんー!」
「あ、マネージャーから返信来た」
「んー?なんて?」
隣に座っていた若井も俺のスマホを覗き込んで、
「『了解ですけど、何があったんですか…?』だって」
思わず、若井と顔を見合せる。
「ちょっと……ねぇ、若井?説明しづらいよね?」
「……。へっ?何があったの?」
キョトンとしている若井の肩を、思い切り殴った。
「いってぇ!」
「何があったの?じゃねぇよ!なんでお前がキョトンとしてんだよ」
「えっ?なに?何が?」
「若井のせいだろ、これは」
「なんで!?」
「覚えてない?昨日!」
「昨日……?」
「だから!……全然離してくれなくて、俺がもう、無理っつってんのに……」
「え、え、あ……」
若井の耳がみるみる赤くなって、
「そ、そのせい……!?」
「そうだよ!」
「それは……。そうか……。ごめん……いやでも!」
「でも?」
「元貴も、離してくれなかったよ?なきながら俺にしがみついて『もっと』って言った……いってぇぇ!!」
渾身の力を込めて、もう一度、思い切り若井の肩を殴りつけてやった。
「暴力は良くない……!元貴……!」
「黙ってくれ。本当に黙ってくれ」
課題は山積みなんだ。
クリアしなきゃいけない問題が山ほどあるんだ。
こんな下らない痴話喧嘩をしている場合じゃない。
分かってる。
……まぁ、でも。
なんとかなるか。
痛い痛いとまだ肩をさすっている、こいつが、隣にいてさえくれれば。
だから、とりあえず、今は。
「……朝ごはんにしようか……?」
二人で同じことを言って、顔を見合せて、笑った。
どんなことでも笑い飛ばして。
二人なら、乗り越えられる。
きっとなんとかなるから。
朝の挨拶のキスをして、おでこをくっつけて、また笑って。
若井が淹れるコーヒーの匂いをかぎながら、仕事のメールチェックをする。
今日も、そんな幸せな1日が始まった。
……腰は、すんげー痛いけど。
end.
こんなしょうもない妄想をしといてあれなのですが
本当にお大事にしていただきたいし心配です
cdtvどうなるんだろうか…
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