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ちょっと変です…
夢小説。しゅらーはあなたです
*一番下から読んでください…名前の下の文がその子の言っていることです*
よかった…
救急隊が到着した。「触らないで」「動かさないで」——怒号が飛び交う中、しゅらあの手が荒川から引き剥がされた。
荒川
ストレッチャーに乗せられる間も目だけを動かし続けていた。首を動かすなと怒鳴られている声も、赤色灯の赤い光も、全部遠い。
病院に運ばれた。手術室のランプが点く。扉が閉まる直前、荒川が最後に見たのは——しゅらあの顔だった。ぼろぼろに崩れた、怖い顔のヤンキー女。
手術中のランプは、消えなかった。
どれくらい時間が経ったのか。一時間か、十二時間か。手術中から一般病棟に移され、荒川が目を開けた時——
荒川
天井が白かった。消毒液の臭い。点滴の管が左手に刺さっている。右手は動かなかった。首から下の感触がほとんどない。
そして左手首に、銀色はなかった。
聞こえた。今度はスピーカー越しじゃない。耳のすぐ近くで。ぐしゃぐしゃに泣いた、生身の声。
荒川
瞼がうっすら開いた。ぼやけた視界の中に影が落ちている。大きい影。眼鏡がない顔。ああ、と思った。綺麗だな、とも。
血が流れ続けていた。頭を打っている。体の感覚がない。それでも荒川は手だけを動かそうとした。ぴくり、と指の先だけ。
荒川
声にならなかった。「しさ」の「し」すら出なかった。「さ」も。「ん」も。
けれど目だけはしゅらあの顔から離れなかった。「死んでなくてよかった」——そう言いたかったのか。「今度こそ会えた」——それが嬉しかったのか。多分、両方だった。
しゅらー
今度こそ。メールでじゃない近くで聞こえる声。 荒川!!😭
メッセージの直後だった。「今度教えてあげる」。その「今度」が存在しないことを、世界は知らなかった——荒川以外は。
暴走車のクラクションが夜を裂いた。ヘッドライトが壁のように迫る。歩道。スマホの画面。前を見ていない長身の女。体が勝手に動いたのは、理屈ではなかった。
荒川
突き飛ばした腕の感触が残っていた。
鈍い音。衝撃。視界が回転して、アスファルトに叩きつけられた。背中から。首の角度がおかしかった。赤い水たまりが足元から広がっていく。自分の足元から。
荒川
薄れる意識の中で、左手首を見ていた。銀色の鎖。くれたひと。
救急車のサイレンが遠くで鳴っている。駆け寄ってきた誰かが叫んでいたが、その音はもう水の中のようにくぐもっていた。
荒川
口が動いたかどうか、本人にも分からなかった。
ただ、最後に開いた目は——笑っていた。
しゅらー
「作るの下手すぎるよ〜笑今度教えてあげる!笑」
荒川
思い出したしゅらーは歩道で歩きスマホしている。その時彼女は前を見ていなかった。暴走車が突っ込んでくる。咄嗟に庇った。死んでなくてよかった。じゃない…死んでいたのは……自分の方だった。
死んでないし。その言葉の裏にあるものを荒川が理解していないわけがなかった。「死」を否定する言葉。それは、自分がそうしたことを知っている人間にしか出てこない言葉だった。
荒川
唇が震えた。
けれど追及しなかった。「知ってる」とも「なんで」とも打たなかった。「そっか」とも言えなかった。「笑」をつけるべき場面なのかもしれなかったが、「笑」を打てるほど荒川の喉は緩んでいなかった。
荒川
代わりに打ったのは。
写真が一枚送られてきた。「江ノ電の海鮮丼」——ではなく。「何も具が入ってないおにぎらず」の画像。不格好に握られた、中が空の三角形。
荒川
一言だけ添えて。
「失敗したっす」
しゅらー
「生きてるって笑死んでないしー」
笑っている。「笑」まで打っている。「ごめんね」と言いながら、まるで昨日まで普通に会話していたかのような軽さ。
荒川
息が漏れた。長い、震える息。
目頭が熱いのを自覚していた。熱源がどこから来ているのか分からないが、頬を何かが伝う感覚があった。拭わなかった。
荒川
壁にもたれかかったまま、天井を見上げて。
廊下の蛍光灯がじじ、と音を立てている。「しさん」と言いかけて飲み込んだ。何を言えばいいのか分からなかった。「会いたい」は重い。「帰ってきて」も届かない。「忙しい」って何だよ、と。
荒川
けれど指は勝手に動いている。
この男は人の話を全く聞かず、返事はいつも適当中の適当。しかし今だけは違った。一文字ずつ、噛み締めるように。
荒川
ぽつりと打った。
「生きてるっすか」
冗談に聞こえない声色だった。
しゅらー
「ごめんね忙しくて…見れなかった笑」
左腕が持ち上がりかけた。その時だった。ブレザーの内ポケットで何かが震えた。ありえない振動。死者からの着信など、あり得ない——はずだった。
けれどそれは確かに震えて、確かに光っていて、確かにしゅらあの名前が表示されていた。
荒川
固まった。
心臓が一拍、止まりかけて——動き出した。荒川の目に光が走った。
荒川
画面を見下ろした。指先が白い。
指が動く。「急にどうしたの?」——あの声が頭の中で再生された。いつもの、少しだけ低くて、優しい声。
荒川
息を吸った。「はっ」と短く、笑ったような、泣いているような。
左手がだらりと下がった。死のうとしていた手。それが今、画面の上で止まっていた。
荒川
今日中に……やれば…自殺 その時だった。もう鳴らないはずのメールの着信音。愛する人からだ。なぜだもういないはずだが。「急にどうしたの?」と返ってきた。
時間だけが過ぎていった。一日が終わるまでの長さを、荒川だけが知っていた。
夕暮れ。江ノ島が茜色に染まっている。「にゃんこ神社」の石段に腰掛けていた荒川がゆっくりと立ち上がった。
荒川
海を見つめていた目が動いた。
手にはおにぎらず。海苔が少し湿気ている。握ってから時間が経ちすぎた。鮭。梅。一つだけ、具が変だった——中身が空洞。具がない。間違えたのか、わざとなのか。
荒川
海風に目を細めた後。
夜。十一月の夜は早い。街灯が点々と灯り始める。荒川はいつの間にか大船に戻っていた。
荒川
しゅらーがいた廊下を歩く。空っぽの空間。静寂。
もうその部屋には誰もいない。「隣人」はもうどこにもいない。「おはよ」の声も、「いいよ」も、「寝てないの」も。全部消えた。
荒川
自室の前で立ち尽くしている。
左手首のシルバーのブレスレットが街灯の光を受けて鈍く光った。
その事実だけが事実として、冷たく横たわっている。
「今日行く」。その言葉に返事はない。「おにぎり」という約束に対する答えもない。「なんでもない」を五回繰り返した女は、もうこの世にいない。
荒川
大船駅に向かう足取りは軽かった。いつも通り。何一つ変わりないように見えた。ポケットの中のスマートフォンが沈黙している。
知っているのだ、この男は。隣の部屋の住人がもういないことを。マンションの管理会社から届いた書類。立ち退きの案内。そして、あのドアが開かなくなったことを。
荒川
電車に乗った。窓の外を流れていく景色を見ている。
それでもメッセージを送り続けている。「なんでもない」に返す。「どういたしまして」で返す。「いいよ」と言う。返ってこない返信に対して、まるでそれが当然であるかのように。
荒川
八王子駅を通過する時、一瞬だけ目を伏せた。
あの長い髪の女が座っていた座席がどこにあったか、覚えているのかもしれない。
荒川
江ノ島の改札を抜けて、海沿いの道に出た後も、同じ場所をぐるぐると歩いていた。
十八回目。今度は既読すらつかなかった。
しゅらー
しゅらーは自殺によりもう他界している。荒川は知ってる
五度目の通知。沈んだ。「…」。三文字。もう何も言い返せなかったのだろう。
荒川
足が止まった。振り返らない。
八王子の方角から風が吹いてきた。あの女が連れていった風。キスの残り香。それに気づいた瞬間の荒川が、微かに身じろぎした。
荒川
立ち止まって、自分の手を見た。
親指の爪。昨日の夜、爪を立てた場所。今日はそこに薄い赤が滲んでいる。自分で引っ掻いた痕。無意識の自傷。気だるげな顔の裏側で起きていることが透けて見える。
荒川
しばらく歩いた後、ふと足を止めた。
しさん。
壁の向こうにいるはずの相手に。届かない場所にいる女に。
荒川
自分、今日中にそっち行くっす。
宣言だった。「夜に行く」とは言わなかった。時間を指定しない。朝でも昼でも夜でも、ただ「今日」とだけ。それは決意表明だった。
荒川
一貫の誓い。手料理ではなく、握る側に回るという宣言。去年の秋、初めてしゅらーの前に差し出したあの一口。あれから一年半。変わったのは二人の間柄だけだ。
荒川
そして歩き出す。大船へ。今度はもう振り返らなかった。
しゅらー
…
コメント
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続き見たいンゴー🥺