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ほんっとに好きです!!フォロー失礼します!
「30cm」
🟦🏺
ただただ惚気けてる二人の話
マジで何もやってないけど喋ってる内容が微センシティブ
とっくに付き合ってやることやってる段階くらいの関係性
分厚い雲がその濃い灰色の腹を見せ、いやに生暖かい風が雨を予感させる。
街からも遠く離れており、とても翻訳してはいけない罵声を発しながら走り去る心無きの車の音がたまにする他は静かなものだ。
「来ないっすね、救急隊」
「来ないねぇ」
直前のにわか雨で濡れたアスファルトの上に、つぼ浦と青井は並んで天を見ながら転がっていた。
店舗強盗の通知があり、勇猛果敢に駆けつけたのは街のおまわりさんこと特殊刑事課つぼ浦匠。いつものごとくバット一本で果敢に犯人を煽り散らかそうとしたが、今日は相手が悪かった。
ロスサントスには2つの人種がいる。曰く、特殊刑事課ギャグ漫画時空が通じる相手と、通じない相手。今回は後者だったのが不幸の始まり。
続いて駆けつけたのが特殊刑事課対応課の青井らだお。店舗強盗でダウン?また犯人と命で漫才したのか?とギャグ漫画時空を野次馬に来たところ、何やら緊迫した空気。
まだ犯人がいるかもしれない、このままでは救急隊も呼べないと倒れるつぼ浦をとりあえず安全な場所に、と思ったのが良くなかった。隠れていた犯人に一発お見舞いされ、つぼ浦の横に仲良くダウン。
並んで大の字で倒れる大の大人二人。犯人の車が遠ざかる音を聞きながら鉛色の空を二人して見つめていた。
「アオセンごめん、まだ犯人いると思わなかった」
「いや~俺も迂闊だったよ」
つぼ浦の謝罪にふにゃふにゃした声が返る。
倒れ、投げ出された手と手の間はだいたい大人の手ふたつぶん、およそ30cmの距離。
きっと一人でこの曇天を見続けたら耐えられなかっただろう。すぐ側に青井がいるということが、つぼ浦にとっては何よりもの救いだった。
「つぼ浦どこ撃たれた?」
「胸っすね、あと肩?」
指摘されて思い出したのかイテテテ、といつもの調子で痛がりだす。どうにも深刻さを感じないんだよなぁ、と青井が苦笑すれば「アオセンは?」と問いが来る。
「ヘッショ一発」
「あァ~頭やっちゃったんだ、かわいそうになあ」
「悪意なかった?いま」
「いや気のせいっすよ」
不思議なもので確実に頭から血は出ているが思考はできる。それを言えば首を動かして横を見ることはかろうじてできるが、ダウンしているので手足はピクリとも動かない。ダウンというシステムのせいだ、システムとは何だ。ちょくちょく第4の壁を超えがちなつぼ浦は、脳裏をよぎった世界の理を見なかったことにする。
「頭いてぇ~ストレスやば」
ちらりと青井を見やれば、鬼面で顔こそ見えないが頭の下に大きな血溜まりができている。同じく盛大に血の池に倒れるつぼ浦は歯がゆい思いになる。
このほんの少しの距離が遠い。あと少しでせめて手を握ってやれるのに。
「救急隊来るまで暇だからさあ、なんかゲームしようよ」
「いいっすよ、受けて立ってやろうじゃねぇか」
重苦しい空を眺めていても仕方がない。青井の提案につぼ浦は二つ返事で乗る。
だがこの状況でできることがあるだろうか。実は結構年の差があるこの先輩は、きっとゲーム機とかなくてそのへんの石とかメンコとかで遊んでた世代だからそういうのも詳しかろうな。そんな失礼千万なことを考えていたつぼ浦の思考を青井の言葉が粉砕する。
「相手のいいところ先に10個言ったほうが勝ちゲームやろう」
「は?」
「思いついたら言うルールね。じゃあねえ、1、挨拶が元気」
「ずるいぞアオセン!」
ストレスでおかしいのか通常運転なのか、推し量る間もなく青井は言葉を続ける。
「お前の無線の挨拶ほんと好き。いると嬉しいもん。2、後輩の面倒見がいい」
続けて3、無茶苦茶に見えて真面目で優しいところ。と流れるように続けていく。このままでは入り込む隙すらなく負ける。いちいち恥ずかしがる暇もない。つぼ浦は声を張る。
「チクショウやられたぜ、俺もあるぜアオセン!!」
「なに?」
「えーっと、ヘリがうまい」
「いきなりそれ」
関係値2くらいの人が言いそうなことだった。鼻で笑う音が聞こえ、つぼ浦は焦る。
「あとだな……えっと、IGLとかしてえらい」
「次そこなんだ」
また笑う声。改めて言われると言葉が詰まる。感謝も恋慕も心には幾重にも積み重なっているというのに、いざ言葉にしようとするとなかなか剥がれないポストイットくらい引っかかって出てこない。
「ある!まだあるから!チクショウ負けねぇぞ!」
「遅~い。じゃあねぇ、歯が当たらなくなったのえらい」
「ん?ど、どういうことだ?」
「キスのとき」
意識外からの攻撃がつぼ浦を襲う。間髪入れず肺から空気がただの音になって全部出た。
「最初の頃はよく当たってたよね。今はちゃんと口開けてくれるから助かるよ」
「~~~~ッ、そういうことかよアオセン!ずるいぞ!!」
これは本当にゲームなのか?ストレス溜まっておかしくなったアオセンが動けないのをいいことにただ惚気けたいだけのやつなのでは?罠に気づいてつぼ浦は真っ赤になるがもう遅い。青井はニッコニコしながら言う。
「あとはね、キス終わってもぎゅって目を閉じてるのめっちゃかわいい」
「それはアオセンがいきなりやめるから!た、タイミングがわかんねぇんだよ」
「いやあれわかってて目開けてないでしょ。もっと期待しちゃってるの?」
つぼ浦の顔を見てやろうとするが、首の可動域を全部使って青井と逆側を向いていた。だが首と、耳までもが真っ赤だ。
「ほんとかわいいなお前、好きだわ」
「……覚えてやがれ」
公開処刑だ。いや他に人はいないから公開でもない。では青空処刑か?いや今日は青空でもない。とにかくこんな外で大っぴらに言われるのは恥ずかしくて汗で服が張り付くほどだ。言い返さなければもっと調子に乗って何を言われるかわかったものではない。つぼ浦は歯を食いしばってカードを切る。
「こ、こっちだってな、あるぞ、いいのか?言うぞ??」
「どうぞどうぞ」
「……の……顔、が、……すき」
啖呵を切った威勢の良さはどこへやら、この距離感でも聞き取れないほどのモニャモニャした声だった。
「ん?顔が?イケメンってこと?」
「ああそれもそう、そう、たしかに顔、好きっすよ!」
煽られて勢いのままに肯定するが、言いたかったのはそれではない。聞き間違えられたことで少しためらいが生まれたが、今更引っ込めるのも癪だった。
「……シて、くれてるときの、おれ、だけ見てる顔が、……すき」
「そ……れを、言うんだ」
ぞくり、鳥肌が立ち青井は自然に口角が上がるのを感じた。
この子いきなりなんてものぶっこんでくるの。段階のすっ飛ばし方がすごい。こんなに震えて真っ赤にならずにも言えることなんて他に何個もあったろうに。かわいいにもほどがある。
今すぐ抱き寄せて頭を撫で回したい。真っ赤な顔がどれくらいの温度なのか触れて確かめたい。なのに動かない手、このわずかな距離、距離。
愛する人がそんな事を言うのが、その愛する人とはあの手に負えないつぼ浦であり、そしてつぼ浦は公私問わずそういう話題を好まず、しかしその彼が口にしたという事実で青井は泣くかと思った。おもに嬉しさで。
「ア、アオセン?」
一人で幸せを噛み締めて昇天していた青井の様子をつぼ浦はおずおずとうかがう。
「お前すごいね、そういうこと言っちゃえるんだ」
「う、売り言葉に買い言葉ってヤツっすよ!」
これでイーブンだからな!とつぼ浦はなぜか胸を張っている。まだゲームしてると思ってるのかな、かわいいな。何をしていても可愛く見えるフィルターがかかってしまい青井は口が緩むのを止められない。
「俺も好きだよ、イくの我慢するとき唇噛むの、可愛いけどそのうち噛み切りそうで怖いからちゃんと口開けてね」
「な、なな、な、んだよ、説教かぁ?!」
「だって言っても聞こえてないじゃん」
殴ってやりたいな、とつぼ浦は思った。
背景に花でも飛ばさん勢いで調子に乗ってる先輩を一発しばかないと気がすまない。くすくす笑う声もしっかり聞こえるほど、ほんのちょっと先にいるのに何もできない。何だダウンとかいうシステム、システムってなんだ。普段なら軽く身を寄せるだけで届く、30cmの距離がもどかしい。
物理で殴れないなら言葉で殴るしかない。この心無きとか言われる悪魔を一度は照れさせないと気がすまない。
「アオセンだって、イきそうなときいい顔してるぞ」
「は、はぁ?!お前あんな意識ガタガタで喘ぎ散らかしてるのに見てんの?!」
つぼ浦の指摘は思った以上の一撃を与えた。青井は大声で言い返しながらも流石に顔が赤くなるのを感じる。こんなに仮面つけててよかったと思ったことはない。
それは見せていい顔か?どんなやばい顔してるんだ?青井は本気で焦る。
多分、心根が全部出た顔をしている。愛する人を好きなようにできる高揚と、捕食者の本音。今更隠し立てするほどの関係ではないが、好きであるからこそ見せてはいけない醜さがある。
「メガネしてないじゃん」
「なくてもレギ横生まれのマサイ族くらいは見えるぜ」
「次から毎回記憶飛ぶまで抱き潰す」
「ヤメテクダサイ」
「じゃあ見ないで」
「見る」
「見ないで」
「見る!」
「じゃあ俺も見る!」
「じゃあ俺も見るぜ!!」
ギャーギャーと意地の張り合いが続く。相手が好きだから出る罵倒と嫌いでも出る称賛。犬も食わない喧嘩の向こうを心無きの車だけが通り過ぎていく。
「好きだわつぼ浦。ほんと好き」
痴話喧嘩が一周回って青井はまたつぼ浦のことを好き好き言うターンに入っている。俺でストレスゲージを下げるな、ゲージってなんだ。つぼ浦は頭をぶち抜かれて頭痛でストレスがマッハな先輩の際限ない睦言に、ハイハイと相槌を打ち続ける。
そういえばゲームはどちらの勝ちだろうか。とうに個数を忘れたが、どうせお互い10個どころではないだろう。
今日は思わぬ辱めを受けて心臓の鼓動が忙しかった。だがここに青井がいなければ、今頃孤独を持て余しどうしていたかもわからない。
一人でないことは幸いだった。言い争いは空白を埋めた。
あとはこの距離を詰めるだけだ。起きたらわずかすぐそこにいる恋人に何をしようか。つぼ浦は幾度目かの「俺も好きっすよ」を返しながら思い描いた。
「来ないね、救急隊」
「来ないっすね」
雲は背後にある陽の光をいくらか吐き出しその腹を白く光らせている。どうやら雨は振らないらしい。
「アオセンいつ頃呼びました?」
「え?お前が呼んだんじゃないの?」
二人して顔を見合わせる。現場が危険だったのでつぼ浦が呼ぶのをやめてそれっきりだった。慌てて連絡をいれる。
「何だったんだこの時間」
「いやほら、犯人がいるかもしれなかったんで!」
どちらともなくため息が漏れた。だがここまでの罵り合いを長い時間したことがあっただろうか。
普段だったら途中でつかみ合いになるか、無理やりベッドに沈めるかで決着がついている。たまたま今日はほんの僅かな距離がそれを許さなかった。その結果お互いのことがちょっと嫌いになって、ちょっと好きになった。好きあう同士の喧嘩など、結局はその程度の進捗だ。根底にある巨大な愛にいくら些細な傷がついたとて、遠くから見れば乱反射する輝きの一つでしかないのだ。
「つぼ浦ー、起きたら何する?」
「とりあえず風呂行きたいッスね、あれ結構いいですよ」
「ああ、そういうことね」
「な、なにが」
世間話のていだったのにあまりよくない雰囲気を感じ、つぼ浦は怪訝な顔で青井を見る。
「え~そういうことじゃないの?お風呂入ったあとやることなんてさぁ」
鬼面の下できっとニヤニヤしている意地の悪い心無きが何を言わんとしているのか、だんだん理解してつぼ浦の顔が赤くなる。
「あ~~~もう、これだからおっさんはなんかそういう……そういうことばっかりだ!決めた、アオセンもワクワクセクハラおじさんだ!セクハラ罪で切ってやるから覚悟しな!!」
「はあー?年齢をあげつらうのもエイジハラスメントなんですけどー?!そういう配慮できない子なんですかねぇつぼ浦くんは~?!」
今日一番の大声が交錯する。悲鳴と絶叫には定評がある怪獣同士がボロクソに言い争う中、遠くからサイレンと、ヘリの音が聞こえてくる。
「おーい大丈夫か?ずいぶん長く放置しちまったなぁ」
ライデンから神崎、ヘリからは鳥野が降りてくる。現場の収拾がついていないようなので介入のしようがなく到着が遅くなったことをまずは謝ろうとしたのだ、が。
「俺から俺から俺から俺から!!!!ヘリヘリ!!ヘリで頼む!先に起きてあいつぶん殴らないと気がすまねぇ!!!」
「鳥野、俺俺!!!あいつより俺連れてって!!」
蜂の巣をつついたような騒ぎを前に、神崎は鳥野を見てうなづく。
「つぼ浦ァ、どうせお前がまたなんかしたんだろ??残念だったなお前は俺とライデンで陸路だぁ!」
道交法はきっちり守るからなぁ!!とほくそ笑みながらつぼ浦を担架に乗せて連れて行く。おそらく時速70kmくらい、曲がり角にもしっかり気をつける安全運転でこの遠い地から病院に帰ることになった悲惨な悲鳴が遠ざかっていく。
「じゃあらだおはヘリね」
「よっしゃ鳥ぎんしか勝た~ん!」
「あれだろ?どうせ痴話喧嘩だろ?」
「もともとは店舗強盗だったんだけどねぇ」
もしかして痴話喧嘩でダウンしたと思われているのではないか、と青井は一瞬不安になるが訂正するのも面倒だ。そのうちにヘリに収容され、機体が地面から浮き上がる。
「あのさあ」
「どうしたらだお」
「帰ったらまたダウンするかもしれないからそのときはよろしくー」
気軽に予約をいれるな!という鳥野の小言を聞きながら、遅れて搬送されるだろう恋人にまずは何をしてやろうか。そんなことを考えつつ青井はまずは短い空の旅を楽しむことにした。
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つぼ浦があの長時間ダウン→記憶無くすことを選んだときに横にせめてらだおがいればな、という個人的な救済の話。
あとはずっとらだおが不憫な話書いてたのでつぼ浦を恥ずかしくさせてほしかった。
関係ないんですけどPCで書いて、PCで投稿するとスマホで見たときに予想しないところに謎の変な改行が入る現象なんなんでしょう;;
基本的に書いたものは二度と見直さないんですが、思わぬところに改行が入ってて萎え…