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昨日の夜、あの夢を見て、今日一日いじめられても、物怖じもしなかった。
今日という今日から、僕は新しくなっているような気がする。
2日おきに何かしらの夢をみる。
しかも、初めてみた夢と同じ空間で、僕は誰か来ないかと居座っている。
─── でも、1ヶ月が経って、春から夏移り変わろうとしてきても、誰もその空間には来てくれなかった。
・・・・・
「元貴ー。明日の準備したのー?」
1階のキッチンから、お母さんが僕に声を掛けた。
─── そうだ、明日は憂鬱な修学旅行だった。
よりによって、何故あまり仲の深まっていない5月に修学旅行なのだろう。
「今から準備するよー。」
いかにも、面倒くさそうな声で返事をした。仲のいい友達なんて3本指にも満たないのに、それでいて いじめられまくる。だからこそ、修学旅行とか地獄でしかない。
でも、お母さんは『新しく友達ができるかもよ』の一点張りで、これじゃ到底サボりの余地もない。
・・・・・
明日の準備をせかせかと進めては、いつの間にか夕食どきになって、お母さんが呼びにきた。
「元貴、忘れ物ないようにね。」
それだけ言って一階に下りた。これでも夕食ができたよ、の合図だ。
5分くらいカバンの中身点検をして、忘れ物がないようにと、スパイのような目付きでカバンを見張った。
集中力が切れて、後の点検は明日にしようと思いながら一階に下りる。
珍しく、お父さんがもう帰ってきていた。いつもなら、夜の10時に酔っ払いながら帰ってくるのに、今日はすんなりと食卓の輪に座っている。
兄貴も2人いる。久しぶりの家族団欒って感じがしつつも、お父さんがいるということは「最近は学校どうなんだ」って聞かれるハメになるんだ。
・・・・・
家族全員で、夕食を食べながらテレビ番組を見ていると案の定────
「元貴、学校はどうだ?彼女はできたか?」
と、思春期にも関わらず、ズカズカヘラヘラと、プライベートに踏み込んでくる親父。
僕は呆れたというようなため息を吐いて、お母さんに助けを求める視線を配った。
「もう、お父さん。元貴が困ってるじゃない。明日は中学生最後の修学旅行なんだから、彼女とか、それどころじゃないの。」
僕はその様子とその言葉を、長く噛み締めるように乾いた笑いをこぼした。
実際、彼女とかそれどころじゃないけれど、中3にもなるとカップルがうじゃうじゃ湧いていて・・・
─── 別に、羨ましくなんてないけど。
季節はまだ春と夏の移り変わり。
でもここの会話は、“少し梅雨らしくなってきた”というような表現ができるほど、僕にとって苦しかった。
夕食を終えて、すでに風呂を済ませていた僕は、すぐに自分の部屋に戻った。
─── やりたいことがあったから。
・・・・・
この頃、事務所に入っても特に仕事を受けることはないから、『趣味の一環』として作曲を本格的にしてみた。
小6の頃から、ちまちまSNSにアップロードしてたけど、再生回数が少ないもんだから、認知度も低い。
久しぶりに、勉強以外の目的で触るパソコン。でも、作曲アプリを開く手つきは以前となんら変わっていない。───多分。
3年前で更新が止まっている僕のアカウントに、久しぶりに曲を投稿した。
制作時間も多くあったからか、いつのまにか夜の22時。流石に眠気がさしてきたから、再生回数には期待を寄せずに、布団の中で大人しく息を潜めた。
・・・・・
─── また、いつもの夢の空間だ。
どうせ誰も来ないだろうなと諦観の意を示しながら、体育座りをしていると、奥の方から誰かの話し声が聞こえた。
複数人いるらしい。僕とは全く違う、明るい声の持ち主だった。
僕は反骨精神なものだから、目を逸らしたくて俯いた。
──── すると、輪から外れたらしい1人の男子が、僕に陽気な声をかけてきた。
💙「あ…ねぇ、もしかして、君が“あの”元貴?」
─── は???僕はアンタのこと知らないんですけど?????しかも“あの”ってなんですか???ポケモンみたいに言わないでください?????
─── と、陰の者なりに心の中で怒号を叫んでは、久しぶりの来客なのだ。仕方なく顔を上げた。
❤️「そうですけど、なんすか…」
💙「やっぱりそうだよね!?…君の曲、ずっと聴いてるよ!!センスあるね、元貴。」
自分でもなんでか知らないけど、どういうこと?と思った。でも、夢の中だから、これがそっくりそのまま現実になるわけがない。
聴いてくれる人がいる嬉しさと、これが現実であればよかったのにという落胆の混ざった複雑な心情で
❤️「…ふーん、そりゃ、どうも。」
僕は冷たく返した。
ファンに───自分とは境遇の違うファンにそうやって褒められたことがないから、きょどってしまった。
💙「なになに、めっちゃ冷たいんだけど、ウケる。曲は明るいのにね。結構繕ってるでしょ?」
なんだコイツ。殴り飛ばしたくなった。
曲の表現なんて山ほどあるから音楽は楽しいんだろうがよ…わかってねーな。
───と、平常運転に、心の中でツッコミを入れた。
❤️「…まぁ、結構、そうだね。」
不思議と素直になってしまう僕がいたのもあながち間違いではない。
僕の目の前にいる男子は、太陽のような眩しさを持ちつつも、僕みたいな陰にいる人間にも寄り添ってくれるんだ。
そりゃ素直になるよ。
💙「─── あ、オレ若井っていう。よろしくな、元貴。」
今更相手の名前を教えられた。
…若井? もちろん知らないヤツだ。
同じ学校のヤツか?それとも同クラ?
──僕は学校でいじめられてばっかりだから、いつもいじめっ子から避けるための道を通っている。
だからこそ、他なんて視野に入らなかったみたいだ。
・・・・・
──── ここで目が覚めた。
ある意味、最悪の目覚めだった。
昨日の夢のことなんて頭の中は真っさら。
──要するに、何も覚えていない。
定番だよ、定番。
頭がズキズキするのを、薬で抑えて、修学旅行のカバン点検をしていると、突然インターホンが鳴った。
「元貴、お友達が一緒に行こうって。」
…はぁ?一緒に行こうとか誘ってくれる友達居ないんですけど。
本当にどういうことだ?と思いながらも、待たせるわけにはいかないと思って、カバンを持って玄関のドアを開けると
「おはよう!!元貴!!」
────ああ、なんか、どこかで見たことある。
完全なるデジャヴのようだった。
頭の端っこがズキズキ痛んだ。
でも、夢の中を忘れているものだから、全くもって気にしなかった。
───てか、なんで僕の家知ってんの?
普通に怖いんですけど。
❤️「…あぁ、おはよう…。
───誰??」
💙「急に押し寄せてごめんね??オレ、若井。…若井滉斗。」
若井の、朝だとは思えないテンション感で、僕と若井の隔たれた壁がすでに見える。
────若井? 聞いたことある。
デジャヴだ。また。
頭の中が嫌悪感だらけになって、目を逸らしながら、“行ってきます”とだけ声をかけて、共に家を出た。
・・・・・
誰かと一緒に登校をすることは小学生ぶりだったから、2人の間に話題も上がらなくて、ただ気まずい雰囲気が漂っていた頃、
僕は先手切って、質問をした。
❤️「なんで僕の家わかったの?教えてないよね?」
💙「うーん。オレ、友達いっぱい居るからさ。…人伝っていうか。」
❤️「は?…何それ、怖いんだけど。僕の個人情報ダダ漏れみたいじゃん。」
若井とは、境遇が違っても、不思議と馴染めるようだった。僕はといっても、目線は相変わらずの陰者ブームだが、口だけは達者だった。
❤️「それで、なんで今日に限って僕の家に来た?他の日でもよかったよね?」
💙「うーん、それはね、元貴の大ファンだから!」
尚更怖い。
こういうのって、ストーカーに当てはまるのでは?
ドン引きしながらも、「大ファンって…?」と、いつの間にか疑問を問うていた。
💙「え、何しらけてんの?元貴ってば、昨日オリソン投稿してんじゃん。それの第一発見者はオレですよーん。」
よりによって、口が軽そうなコイツに自分のアカウントを覗かれていた。
ああ、本当に最悪だ。今にも倒れそうだった。
しかも口調が何よりもウザい。
でも、聴いてくれる人がいるのは何よりも嬉しくて
❤️「…そりゃ、どうも」
照れ臭かったから、口を尖らせながら感謝の気持ちを伝えた。
「でも、他の人に拡散してないよね?」
─── そう聞こうとした矢先、ある女子生徒2人組が鬱陶しそうに声をかけてきた。
「ねぇ、アンタがあの例のアカのやつ??こんなインキャな奴があんなポップミュージック奏でてんのマジウケるんですけど?」
────拡散済みだ。コイツ。
鬱陶しい女子二人組がそれだけ言って帰った時、若井が面倒くさそうに謝った。
💙「元貴、ごめんって。ちょっと浮ついて拡散しただけで、元貴をなんかの標的にする気はないよ!」
❤️「んなのわかってるけどさ…」
僕は小さくため息を吐いた。
こればかりは、少し予想していたし、どうしようもならないから。
しかも、この嵐もすぐに過ぎるだろうし。
・・・・・
〜〜 学校に到着 〜〜
知らなかった事実を2つ発見。
─── まさかの若井と同クラ。しかもバカみたいにモテてるし!?
こんな僕と一緒に登校して恥ずかしくなかったのかな?名誉毀損みたいなものでしょ。と思いながら先生の話を寝ぼけ眼で聞く。
要するに ……
①修学旅行先では騒がないこと
②修学旅行先の人に敬意を持つこと
③友達とお金の貸し借りはしないこと
※2泊3日の修学旅行を楽しむこと!
みたいな、うざったい事項をズラズラ書いてあるチラシを配られた。
7:30ごろ、ようやく京都に向かった。
・・・・・
新幹線の中の僕の心情はきっと、これからの人生の旅に一喜一憂していた。
コメント
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キヲヌイテ。さん、第3話拝読しました。修学旅行前の元貴くんの、どこか醒めたような日常と、夢の中の“居場所”との対比がすごくリアルで…。若井くんが突然現れた時の戸惑いと、それでもほんの少しだけ期待してしまう心の揺れがじんわり伝わってきました。この後、夢と現実がどう交わるのか、すごく気になります。続き、ゆっくり楽しみに待ってますね🌷