「私ね午前中寝てたじゃない?その時夢を見ていたの」
弥生ちゃんはカレーを食べながらそう言った。
保健室を出ると休み時間の残りが余りにも無かった為、私と弥生ちゃんと哲平君、3人は食堂へと走り、1番早く出て1番早く食べ終わるメニューを頼んだ。カレーだ。
「皆んな寝てたなー。何の夢見てたん?」
哲平君が聞く。福神漬マシマシだ。セルフのコップのお水は3杯。そのうち1杯を食べ始める前に飲み干す。お腹一杯になっちゃいそうだけど、大丈夫なのかな?
「さっき剣道部の先輩が『ミアナ』っつってたじゃない?その『ミアナ』になってる夢」
「・・・はい?」
「・・・はぁ?」
私と哲平君は声を合わせて言った。
「なんかデカい、女と猫と蝙蝠混ぜたみたいな化物に襲われて、男の人に助けてもらった。その男の人が多分剣道部の先輩とリンクしてた?みたいな感じだと思う」
弥生ちゃんはラッキョ派だ。ラッキョを口に運びながらそう言った。
「え、じゃあ何?夢と現実と繋がってるとんでもない状況なの?今」
私は福神漬もラッキョも無し。少な目カレーを混ぜ混ぜして、人参をどかして食べる派だ。
「何かさー、朝の凄い風あったじゃ無い?あれが怪しいと思う訳よ。私は」
弥生ちゃんの言葉に、私は朝の風を思い出した。確かに一度、強風が吹いて、登校中の生徒は皆んな慌てていた。
「そんな風吹いたのか?俺遅刻したから知らねーわ」
哲平君は凄い勢いでカレーを飲むように食べて行く。
「確かに、皆んな風の後フラフラ歩いてたね。教室では寝ちゃう人だらけだったし」
そう、半分くらい寝てた。先生までも。
「寝てた奴全員そういう夢見てたりしてな」
その哲平君の言葉に、パクパク食べていた私と弥生ちゃんの手が止まる。
「・・・まさか、ね」
私は背筋がすーっと涼しくなった。
「まぁとにかく、食べよ!時間無いし。沙奈、また人参避けてる。要君に怒られるよー」
弥生ちゃんの言葉に私はプーっと膨れた。要というのは私の弟。中等部の3年で、中等部の生徒会長をやっている。頭も良く、リーダーシップも取れる出来の良い弟。
「ここで要を出さないでよ」
「要君元気?ウチに婿に来る日が待ち遠しいわ」
弥生ちゃんは要の事が好きらしく、勝手に付き合っている妄想話をよくする。とうとう結婚話にまで発展してしまった。
「婿には出しませんよ。要は家を継ぐんだからね」
「沙奈が婿貰って継げば良いじゃない」
またそんな勝手な事を、と思っていると、哲平君がボソリと呟く。
「婿に入って家を継ぐ、か」
よく分からないが、納得したように頷いている。
「私は家を出てパン屋さんを開業するんだから無理ですー」
私の夢は、子供の頃からパン屋さんだ。その想いは今でもブレていない。
「夫婦でパン屋の経営、アリだな」
また哲平君が呟く。何かちょっと怖い。
「・・・哲平、あんた何か変な妄想してない?」
弥生ちゃんが疑いの目で哲平君を見る。
「あっえっと、してないよ。うん。何もしていない。ほら、早く行くぞ。もうお前等遅いから置いてく!」
そう言い捨てて、哲平君は行ってしまった。
「まぁ、うちらも行こうか」
私達2人も、さっと食べ終えて食堂を後にした。
教室に帰ると、午前中の睡魔との戦いで全体的にボンヤリとしていた雰囲気が一変していた。
生徒は全体の半分くらい。その全員が弥生ちゃんを見るなり駆け寄って来る。
「ミアナ様!ご無事で何より」
クラスメートがそう言い、弥生ちゃんの両腕を抱く。戸惑う私達に向かって、教室の奥から助けを呼ぶ声がする。
「おい弥生、沙奈、何とかしてくれ!」
先に帰っていた哲平君が、鈴蘭テープで縛られていた。
「待って、何これ。新しい遊び?」
弥生ちゃんが苦笑いしながら私に聞く。
周囲の様子から、遊びではない事が伺えた。
「『ミアナ様』って言ってるし、遊びじゃないんじやない?様子も変だし・・・」
言った私の腕を誰かが強く掴んだ。隣の席の男子だ。
「痛!何?」
抵抗する私を無視して、彼は哲平君を縛ったテープで私も縛ろうとする。
「ちょっとあんた、何してるのよ!」
弥生ちゃんが怒って止めてくれる。止められた男子は、申し訳無さそうに説明した。
「領寺さんも寝ていなかったから危険です。午前中眠りについていなかった者は、全て魔物に取り憑かれています」
「はぁ?」
・・・訳が分からない。
確かに私は、午前中居眠りしていなかったけども、それがイコール魔物に取り憑かれるとは何なのか。
クラスメート達にふざける様子は無い。見回した感じ、そこにいる全員が寝ていた様に思えた。
更に縛ろうとする男子に私と弥生ちゃんの2人で抵抗していると、廊下から激しい足音が聞こえて来た。そして、酷く慌てた感じの大声で言い放つ。
「中等部棟、閉鎖!」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!