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やっと仕事も終わって愛しい人達の待つ家に帰れると思うと疲れているはずなのに自然と足取りが軽くなる。恋人という立場にやたらこだわり大人ぶるくせに存外寂しがり屋の恋人達は自分がいなかった数日の間、泣かずに過ごせていただろうか。
まぁ…こんなこと考えておいて一番寂しかったのは自分の方なのだろう。
嫌なことがあった、思い出したくもない、嫌なことが。だから尚更早く帰って抱きしめられたい、キスをしたい、それ以上のことも、とにかく愛して止まない恋人達を存分に堪能したかった。今日帰ると伝えてあったためか、遅い時間にもかかわらず明かりが漏れている窓を見て自然と笑みを零しながら鍵を差し込んだ。
「ただいま…」
帰ったことを知らせると、リビングの方からばたばたと急ぐ足音がした。
「奏斗ぉ、おかえり!」
すぐに三人の恋人達が笑顔で迎えてくれる、いつも通りの恋人達でほっとした。嬉しそうに1番近くで微笑むひばがたまらなくなり、荷物を投げ捨ててその体を抱きついた。
「あ…久しぶりのひばだ…」
ひばの甘い香りで肺をいっぱいにするみたいに首元に顔を埋めればくすくすと笑う気配がした。
「俺に会えんくてそんな寂しかった?」
「当たり前でしょ〜?それともひばは寂しくなかったの…?」
拗ねたような声を出せば俺も寂しかったよ、なんて大人の対応をされる。ひばが余裕そうなのが面白くなくて、キスでもお見舞いしてやろうと唇を近付けると間から唇を手で塞がれた。
「…っ、…は、おい!なんで邪魔すんだよ!お前ら!!!」
「私にも会えなくて寂しかったですよね?たらい、また駆け抜けかお前。」
「…奏斗、ご飯が先ね。」
帰ってきて早々独占欲の塊の様な奴らに気の抜けた返事をし靴を脱ぎ捨て、間を通りリビングに向かう
「はーぁ…やになっちゃうね」
小さく呟いた声は聞こえていないだろうか、三人に顔を見られたとき、どきどきと罪悪感で心臓が酷く脈打つのを感じた。
ーーー
愛しの恋人が飯を食い終わったのを合図にして大の男三人で体やら顔やら恋人がいなかった分の接触を試みようと近寄ると、奏斗の体が強ばった気がした。
何か様子が変だ。
「……奏斗、どうかしました?」
「い、いや…なんもない」
無意識であろう、拒否するみたいにアキラの肩に置かれた手。不安そうに揺れる瞳。俺達のいない間に何かあったなんてことは明白だった。
「…奏斗?何かあったよね?どうしたの?」
「……ほんと何でもないの。僕、お風呂沸かしてくるから、三人はゆったりしてて」
奏斗はそう言って逃げるみたいにダイニングを後にする。こんな関係になる前の俺だったらもしかしたら気づかなかったのかもしれない。でも、今は大切な相棒で、恋人だ。それは俺以外の二人も一緒で、そんな人がつらそうにしてるのに気づかないわけがないのに。急いで三人で追いかけてみれば、浴室にいたのは耐えるみたいに泣いている奏斗だった。その姿に何とも言えなくなって、肩を掴んで向き合わせる。
「奏斗」
「っ、…ひ、ば…」
「…なぁ、なにで奏斗はこんなに泣いてる?何が奏斗を泣かせた?なぁ、な、答えろよ。」
強く掴んでしまったせいか、奏斗が身につけていたTシャツが少しずり落ちてしまっていて。そのせいで、見つけてしまった。
鎖骨あたりに残る赤い痕を。
「……あ、?」
撫でるように痕をなぞれば、びくりと震えた。泣いていた原因はこれで決まりだ。俺らがいない間に、誰かが奏斗を。考えただけで腸が煮えくり返りそうだった。他に残っている痕はないか確かめるために捲りあげれば至る所にぽつぽつと散る赤い印。どこかの誰かがこんなことをしたせいで、泣いていたのか。
「…誰?誰がこんなことしたの?」
後ろから凄く殺気と圧を感じるその質問に奏斗はさっと目を逸らした。気まずそうに伏せられた瞳に、なんとなくだけど察する。
「…奏斗、男か?」
「………っ」
やっぱり当たりだ。まだ女の方がマシだったかもしれない、俺達以外の男に肌を許してしまったって真実を彼は隠し通そうとしてたんだろう。だが、奏斗だって抵抗したはずだ。こいつはこんな華奢な見た目をしておきながら力はめちゃくちゃ強いから並大抵の人間では無理やりなんてことはできないはず。奏斗を無力化できるような人間、家系にまだこいつは縛られていたのか。
「……っ、あ、でも…だって、でも、…!」
「奏斗、見苦しい言い訳はしなくていいですよ。」
怒りで目の前が真っ赤になったみたいだったのが、急速に冷えていくのが自分でもわかった。