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別にあいつが悪いわけでも、謙也さんが悪いわけでもない。俺が単にむかついて、なんでむかつくかなんてわからんけど、少しずつ避けてしまっとるだけや。
ちょこちょこ隣から話かけてくれとったけど、俺の態度からあまり声をかけんようになっとった。
自分でもあからさまやなってくらい避けとるのは理解しとるし、ほんまガキやなと思う。ガキみたいってのはわかっとるけど、昨日のことを思い出すことのほうが嫌やった。
事の発端の謙也さんにはなんやもやもやして聞くことができひんかった。
そもそも何で俺が知っとるんやって話になるのも面倒やし。…言い訳ばっか綺麗に並べて知らんでええことにする俺の悪い癖や。
「ざ、財前くーん」
隣から恐る恐る話しかけてくる、どことなく困り顔のような気もする。今まで学校外でも話しよった奴がいきなり無愛想になったら誰でも気にするしな、そもそも俺はそんな愛想もないけど。
とか、どう返事をしようか考えとるうちに、結果無視したことになっとった。
隣にふっと目をやるとめっちゃ泣きそうな顔をしとって、内心焦りまくった。それでもどうやって声をかけて良いのかもわからんし、かけて何を言えば正解なんかもわからん。
ただ、俺が何か言わんとこのまま進んで、そんで離れ離れになってしまうことは明白やった。
何度も何度も何か話しかけようと思ったけど、あの時謙也さんと楽しげに話す笑顔が頭から離れんやった。それでまた口をつぐむ。
結局下校時間になるまで俺は何も言えんやった。謙也さんとの関係も分からんまま、部活ではダブルス組まされて、また思い出してしまう。
深層心理か分からんけど、俺のサーブが謙也さんの後頭部に直撃してしもうた。オサムちゃん筆頭に周りは爆笑しとっても、俺は笑えんやった。
部活後にとりあえず先輩やしってことで謙也さんに謝りに行くことにした。
「白石部長、謙也さんどこっすか」
「んー、なんか呼び出されたとかでお前のクラスに行ったけど。覗きはあかんで」
「いや、興味ないっすわ。ありがとうございます」
俺のクラス?誰やそんな物好きおったか。めっちゃ嫌な予感はするけど、正直それが外れたらええなって期待して自分のクラスに向かう。
階段一個一個が煩わしい。夕日はとっくに沈んで、星空が広がっとった。
階段を上がりながら窓の外を見ると一際輝くスピカ。スピカに俺の嫌な予感が当たらんように願掛け、キャラやないけど。
なのに、教室には謙也さんの胸に顔を埋めるあいつとその頭を撫でる謙也さんの姿。俺の嫌な予感は当たっとった。
「…なに教室でいちゃついとるんすか、そういうの家でやってください」
精一杯の言葉やった。
俺の声にあいつの肩がびくりと跳ねた。謙也さんは驚いたような、困り顔で俺を見る。
「あー、財前、これはちゃうねん」
「ちゃうって何がで、」
言葉が途切れる、いや、詰まった。足元にぼたぼたと雫が落ちた、これ涙やって理解できたときにはその場におられんようになって、 俺は逃げ出した。
遠くで謙也さんが呼び止めた声が聞こえた。