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噛み癖のあるriの話
鷹嶺ルイには噛み癖がある。
これは、彼女に親しいライバーなら誰でも知っていることだ。
「私、噛み癖あるんです。」
「そんなに酷くはないんですけど、不快に感じさせてしまうことがあったらごめんなさい。」
こう言ってきたのは、確か二人きりの控え室。
ある程度仲良くなって、オフの交流も増えてきた頃だったか。
思い返せば、確かに噛んでる場面もあった。
どしたんだろう、くらいにしか思っていなかったけど。
どんなものなのかな、って調べて分かったことがある。
そもそも噛み癖というのは、何も子供だけが持っているものではないこと。
大人にも多く見られる、一般的なものだと言うこと。
そしてその原因の多くはストレスだと言われていること。
子供の頃からの癖である人、成長とともに現れる人。
なんらかの強い衝撃やストレスにより、突然現れる人。
鷹嶺ルイは、きっとこの最後に当てはまるだろう。
恐らく、ホロライブデビュー前に勤めていた会社が原因と言ったところか。
今では本人も笑い話にしているが、その強すぎるストレスは確かに、未だ精神のどこかに蠢いているのだろう。
抱えきれなかったSOSは、噛み癖として現れた。
ほら、こうして今も。
「…ルーイ?」
「…ぁ、」
あなたはまた、指を噛む。
久しぶりに二人揃ったオフ。
だから、一緒にゆっくり過ごそうって家に来たのに。
急に仕事が入ったのが、嫌だったのかな。
しかも、ここ、私の家だし。
自分のパソコンなくて、いつも通りできないもんね。
ストレスなんだろうな。
でも。
指を噛むのは、痛いから。
噛んでほしくなくて、私は優しく名前を呼ぶ。
これが無意識であることも、ルイ自身が治そうとしていることも、ちゃんと分かってる。
責めてるわけじゃないから。
だから。
「…ご、ごめんなさ、」
そんな悲しい顔、しないでよ。
俯いてしまった、さらさらの髪を撫でる。
ピンクブロンドが、掬っても零れるように流れ落ちた。
作り物のように儚さが綺麗で、でも少し淋しかった。
少しでも温もりを伝えたくて、背中から手を回す。
背中に頬と耳を当てると、少し乱れた呼吸と鼓動が聞こえてきた。
きつく握られた手に、指を絡める。
爪の跡、ついちゃってるな。
これも、ルイの癖だ。
どれだけ優しく伝えても、彼女は自分を責めてしまう。
その思いが、噛むことではなく握ることにも現れる。
できればこれも止めてあげたいな。
顔を背中から離して、肩に乗せる。
ルイの頬に寄せるように、頭を預けた。
「急に仕事、入ってさ。やんなちゃった?」
少しでもストレスを和らげたくて、努めて優しく話しかけた。
「ぃや、でも、それは仕方ないことだから」
泣きそうで、自責の念が強く滲む声で答えられた。
顔はまだ俯いたままで、表情は見れなかった。
「じゃあ、何が嫌だったの?」
「…んー、」
何が悩みなのか、はっきりと答えてはくれない。
というより、答えられないといった様子だった。
自分が答えられないのは、ルイのストレスになる。
空気が重くなるのは避けたい。
「もしかして、船長とゆっくりできないのが嫌だったとか?」
そんなんじゃないわ、って笑われるつもりで、空気を軽くするつもりで言った。
なのに。
「…ぅん」
「、え?」
今、もしかして、肯定した?
「だから、マリン先輩と過ごせないのがやなんです」
「…ぇ、」
「だから、マリン先輩と…」
ちょっと、ちょっと、待ってほしい。
これ、なに?
サプライズか何かなの??
「まって、ほんとに?
船長と過ごせないのが?いやなの?」
「だからそう言ってるじゃないですか」
むす、と効果音の付きそうなほどほっぺを膨らませ、ぷいと横を向かれた。
「うそ、冗談のつもりで言ったんだけど…」
「じょうだ……え?
私が恥ずかしいだけじゃないですか…」
驚いてこっちを見たかと思えば、顔を真っ赤にして俯いた。
いや、いや、いや。
「やばい、嬉しすぎるんですけど!?
鷹嶺ルイお前可愛すぎだろ!!
もう船長が絶対に幸せにする!!!!」
「…ぇえ?」
突然、無意識にデレないで欲しい切実に!!!!
船長の心が持たないわ!!!
「どうしたんですか、ほんとに…」
引いた目で見るのは悲しいからやめてほしい。
まあ可愛いからいいけど!!
「これ、船長本気だから。
一生手離さないわ何があっても」
「それはちょっと怖い…w」
控えめに肩が揺れた。
…やっと、笑ってくれた。
「…やっぱ笑ってんのが一番可愛いわ」
「急にやめてください、照れます」
「いや真顔で言うなww」
2人して思いっきり笑った。
特徴的な笑い声が懐かしくて。
その笑顔が愛おしくて。
もう何が面白いのかなんて分からなかったけど、2人で長い間笑いあった。
隣に居れることが本当に嬉しかった。
甘い空気に浸っていたとき、ルイのスマホから通知が鳴った。
この通知音は、間違いなく会社のものだ。
それを合図にどちらともなく、名残惜しく離れた。
もう、仕事に戻らないといけないね、って。
でもやっぱり寂しそうな顔をするもんだから。
「…ここ、居ていい?」
手をつないで言った。
寂しくないように。
もう、噛まなくていいように。
「…うん、お願い」
ちょっと顔を傾けて、にっこりと返された。
やっぱり、ルイの笑顔は癒される。
ルイの隣に回って座り直した。
肩に頭をぐりぐりと押し付けられてくすぐったい。
ルイの香りがいっぱいに広がって、思わず微笑んだ。
こんなに、無防備になっちゃって。
甘えたになるとこも、やっぱり可愛い。
私も、ルイを癒せるように頑張るから。
いつか噛み癖も消えるくらい。
だから、ずっと一緒にいてね。
握る力を強めると、応えるように握り返される。
会話はなくても、2人の想いは繋がっていた。