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壱花――。
夢の中。
壱花が駄菓子屋で斑目や子狸たちと花札をやっていると、誰かが自分を呼ぶ声がした。
壱花よ――。
その声に導かれるように、壱花はいつの間にか、川にかかった石橋の前に移動していた。
橋の中程に、こちらを向いて立っている白い狩衣姿の男がいる。
男の顔には見覚えがあった。
白くつるんとした肌。
異様に整った目鼻立ち。
いつも店の入り口に立っている人、安倍晴明だった。
おかしいな?
なんでこんなところまで移動してるんだ。
持って帰らなくちゃ。
壱花は晴明を抱えて帰ろうと、橋に足を踏み入れようとした。
「こちらに来るでない、壱花よ」
あまり口を開けずに発しているのに、驚くくらいよく通る声だった。
「壱花、いつもすまないな。
よく私の世話をしてくれるお前に、これをやろう」
晴明は手に白く薄いモノを持っていた。
紙のように見えるそれは彼の手の中で、クネクネと踊っている。
え?
まさか、それをくださるとおっしゃってるんですか?
なんか怖いんですけどっ。
壱花がそう思った瞬間、晴明はパンと扇を広げ、その白いモノを扇ぐ。
それはすごい勢いで、ヒュッと壱花に向かいやってきた。
ひーっ、と壱花は顔をかばうように前に手を突き出し、目を閉じた。
ふっと壱花は目を覚ました。
見慣れた天井。
倫太郎のマンションの寝室だ。
洗面所の方から話し声が聞こえてくる。
倫太郎と冨樫のようだった。
なんだったんだ、今の夢、と思ったとき、ガチャリと寝室のドアが開いた。
倫太郎が顔を覗ける。
「壱花、起きたか。
なんなんだ、それは」
「えっ? それ?」
と壱花は倫太郎の視線を追った。
壱花は胸に白いヒトガタのようなモノを抱いていた。
倫太郎が目覚めたときには、すでにその状態だったらしい。
「胸に白い花みたいなのを抱いて寝てるから、死んだのかと思った」
と言う倫太郎に、
「いや、死んだのかと思ったのなら、放っておかないでくださいよ」
と訴える。
「いやいや。
ない胸だが、触ってはいけないかと思ってな」
一言余計です、社長、と思いながら、胸にある白いヒトガタの紙をつかみ、起き上がる。
紙は六枚あった。
「そういえば、こんなの、今、安倍晴明さんに夢でもらいました」
遅れてやってきた冨樫が驚いた顔をする。
「安倍晴明?
入り口の?
あれ、偽物じゃないのか?」
「そのはずなんですけど……。
あの人形の晴明さん、ホンモノと何処かでつながってるんですかね?」
朝の光の中で見ると、その紙はただのペラペラした白い紙のように見えた。
「……A4、コピー用紙で大量に作れそう」
壱花は、そうぼそりと言って、
「このバチ当たりめ」
と倫太郎に言われてしまった。