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#ちょんまげ
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*後日談
あの“印”がついた翌日から、少しだけ世界が変わった。ほんの少しだけ、でも確実に。
「羽立くん、その…今日は早いね」
「はい、仕事早く片付いて」
いつもより距離を取られる会話。
視線は来るのに、触れられない。
――…分かりやすいなあ
思わず心の中で苦笑する。
首元に残る跡は、思っていたよりも目立っていた。完全に隠す気もなかったから、余計に。けれど嫌な気分じゃない。寧ろ、少しだけくすぐったくて。
――ちゃんと守られてる、みたいな
そんなことを思ってしまう自分に、少し照れる。
*
昼休み。
給湯室で一息ついていると、背後からふっと影が差した。
「ちょんまげ」
「わっ」
振り向くと、ターボーだった。
「びっくりした……」
「人いないの確認した」
さらっと言う。
「そういうとこ、抜け目ないよね」
「まあな」
真顔で言われて思わず笑う。
そのまま、自然と距離が近づく。
「…どう?」
「何が?」
「今日」
少しだけ意地悪そうな目。
何を聞きたいのか、すぐに分かる。
「んー……」
わざと考えるふりをする。
「ちょっと寂しいかも」
「は?」
「みんな距離取るから」
そう言うと、ターボーの眉がぴくっと動いた。
「でも」
一歩近づく。
「その分、ターボーが近くにいてくれればいいかな」
そう言った瞬間、腕を掴まれた。
「……煽るなって言っただろ」
「煽ってないよ」
くすっと笑う。
すると、そのまま壁際へと追い込まれる。
「ここ会社なんだけど」
「知ってる」
距離が近い。昨日と同じくらい、いやそれ以上に。
「……首、見せろ」
「え?」
顎を軽く持ち上げられる。そこに残る、自分がつけた跡を確認するようにじっと見つめる。
「……消えてねえな」
「そりゃ昨日だし」
「もっとつけとくか」
「やめて」
思わず笑いながら拒否する。すると、ふっとターボーの表情が緩んだ。ほんの一瞬だけ見せる、優しい顔。
「……じゃあ、こっち」
「え?」
次の瞬間、唇が触れた。軽く、確かめるみたいに。
「……っ」
びっくりして固まる僕に、もう一度。今度は少しだけ長く。でも優しくて、甘い。さっきまでの強引さとは違う、静かなキス。
「ターボー……」
「誰も来ない」
「そういう問題じゃ……」
言いながらも離れない距離。寧ろ自分から少しだけ近づいてしまう。
「……もう一回」
小さく言うと、ターボーの目が細くなる。
「自分から言うようになったな」
「……だめ?」
少しだけ見上げると、ため息をつかれた。でも、拒否はされない。
「ほんと、ずるい」
そう言いながら、今度はしっかりと抱き寄せられる。腕の中に閉じ込められて、逃げ場はない。でも、逃げる気もない。
ゆっくりと重なる唇。今度はさっきよりも深く、でもやっぱり優しくて。
触れて、離れて、また触れる。その繰り返しが妙に愛おしい。
「……好きだわ」
ターボーの口からぽつりと落ちた言葉に、胸がじんわり温かくなる。
「僕も」
自然に返せるようになったのは、きっとこの人のおかげだ。
*
その日の帰り道。
「首、もうちょい隠せ」
「え、なんで」
「何人か逆にいやらしい目で見てるだろ」
「見せろって言ったのターボーじゃん」
「……それはそれ、これはこれ」
少し不機嫌そうに言う。
「矛盾してるよ」
「うるせえ」
でも、その横顔はどこか照れているようにも見えた。
「ねえ」
「ん?」
「またつける?」
冗談っぽく言うと
「……場所による」
真顔で返される。
「どこでもいいの?」
「見えないとこ」
「じゃあ意味なくない?」
「俺が分かればいい」
即答だった。思わず吹き出す。
「ほんと、独占欲強いよね」
「今更だろ」
「そうだね」
そう言って、そっと手を繋ぐ。少しだけ照れながら。でも、しっかりと。
結び目は、もう簡単にはほどけない。
寧ろ――
触れる度に、もっと強く結ばれていくみたいだった。
――――
普段はXで活動しています。よければ
☞ @iw_ta_cho